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夏の章
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「俺を殴る暇があったら、憐れなガキの看病でもしてやったらどうだ。お貴族様は施しを与えるのが好きなんだろう」
「何だと」
「まあまあ」
激昂したユリシスを、すかさずレッドが強い力で押し留める。
「こんな見え見えの手に乗りなさんな。お姫様の思う壺だろうが」
ユリシスは頬を火照らせて振りほどこうとしたが、レッドはそれを許さなかった。
「お前には、お前の考えがあるんだろ?ルート。それを否定するつもりはねえよ」
レッドは老成した眼差しで告げた。
「所詮、人には身分がある。その世界にいる人間には、その世界の外のことは分からない。こっちはこっちで結構大変なこともあるけど、お前はそんなこと知らないし知りたくもないんだろ。だから、お互いさまなんだよ」
「お貴族様に何が分かる」
ルートは噛みついたが、レッドはいともたやすく受け流して笑う。
「だから、それを言うなら、お前も俺たちの何が分かんの?って話なんだよ。別に理解なんて求めちゃいないけどな。
まあ、お前の言うとおり?俺らはお貴族様でボンボンだし?金は腐るほど持ってるし?お前らみたいな貧乏苦学生と違って?退学になったところで痛くもかゆくもないけどさ」
嫌味な抑揚をつけて話すレッドに、
「やめろ」
ユリシスは低い声で命じた。
「下世話なことを言うんじゃない」
激情を抑制しようと、目が必死で闘っている。
「取り乱してしまって、すまなかったね」
どうにか立て直して元の人当たりのよい物腰に戻し、ユリシスは人工的な笑みを作った。
「君と僕の考え方が違うのはよく分かった。だが、どちらにせよ今回の件は捨て置くことはできない。フィンの体の回復を待ってから、事実を調べよう。協力してくれるね」
差し出された手を静かに見つめると、ルートは顔を上げてレッドを指さした。
「俺はこいつが嫌いだが、お前はその一億倍嫌いだ」
ユリシスが目を瞠る。
「自分の吐く綺麗事がどれだけの人間を不愉快にしているか、考えたこともないんだろう」
ルートの目は刃を含んで著しく冴え渡り、たった一つを告げていた。
これ以上話すことは、何もないと。
「何だと」
「まあまあ」
激昂したユリシスを、すかさずレッドが強い力で押し留める。
「こんな見え見えの手に乗りなさんな。お姫様の思う壺だろうが」
ユリシスは頬を火照らせて振りほどこうとしたが、レッドはそれを許さなかった。
「お前には、お前の考えがあるんだろ?ルート。それを否定するつもりはねえよ」
レッドは老成した眼差しで告げた。
「所詮、人には身分がある。その世界にいる人間には、その世界の外のことは分からない。こっちはこっちで結構大変なこともあるけど、お前はそんなこと知らないし知りたくもないんだろ。だから、お互いさまなんだよ」
「お貴族様に何が分かる」
ルートは噛みついたが、レッドはいともたやすく受け流して笑う。
「だから、それを言うなら、お前も俺たちの何が分かんの?って話なんだよ。別に理解なんて求めちゃいないけどな。
まあ、お前の言うとおり?俺らはお貴族様でボンボンだし?金は腐るほど持ってるし?お前らみたいな貧乏苦学生と違って?退学になったところで痛くもかゆくもないけどさ」
嫌味な抑揚をつけて話すレッドに、
「やめろ」
ユリシスは低い声で命じた。
「下世話なことを言うんじゃない」
激情を抑制しようと、目が必死で闘っている。
「取り乱してしまって、すまなかったね」
どうにか立て直して元の人当たりのよい物腰に戻し、ユリシスは人工的な笑みを作った。
「君と僕の考え方が違うのはよく分かった。だが、どちらにせよ今回の件は捨て置くことはできない。フィンの体の回復を待ってから、事実を調べよう。協力してくれるね」
差し出された手を静かに見つめると、ルートは顔を上げてレッドを指さした。
「俺はこいつが嫌いだが、お前はその一億倍嫌いだ」
ユリシスが目を瞠る。
「自分の吐く綺麗事がどれだけの人間を不愉快にしているか、考えたこともないんだろう」
ルートの目は刃を含んで著しく冴え渡り、たった一つを告げていた。
これ以上話すことは、何もないと。
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