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夏の章
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「教務課に退学者名簿があるのは知ってるか」
「ああ、もちろん」
と答えたのはユリシス。
「それがどうかしたのかい」
退学者名簿には今までにサイクロイドを退学した候補生の名前、生年月日、住所、退学日、退学理由が記録されている。
退学理由は軍務不適格、希望退学、放校処分、学科落第、そして死亡による除籍の五つが主である。
「フランツ・クレプトはあまり成績が芳しくはなかったみたいだな」
ひらりと一枚の紙片をかざしたのを見て、ユリシスは仰天した。
「まさか、抜き取ったのかい」
「写し取ったんだよ。原本を持ってくる馬鹿がどこにいる」
「そういう問題じゃない。生徒の個人情報を漁ったなんてことがばれたら、君も退学になるぞ」
「あいにく、俺はお前たちほど間抜けじゃない」
ルートは皮肉交じりに一蹴する。
「教官室に無断で潜り込んで、懲罰房行きになるようなヘマはしない」
「ははっ、言えてる」
相槌を打ったのはレッドで、フィンが隣で笑っているのを見て、
「お前のことだっつの」
「え、そうなの?」
とフィンはきょとんとしている。
「冗談はその辺にしておいて。ルート、どうして調べようと思ったんだい?こんな危険な橋を渡るなんて、君らしくないじゃないか」
ユリシスが真っ向から問いただすと、ルートは声を改めて言った。
「俺はお前たちと違って帰る場所がない。ここを退学になったら野垂れ死ぬしかない。だから卒業するためならどんな手段でも使う。誰を蹴落としてでも、俺は上に行く」
寂しさや哀切とは無縁の、淡々とした表情が、かえって痛ましさを浮き彫りにする。
ユリシスは瞳を曇らせ、何事か言葉をかけようとしたが、
「一緒だね」
と出し抜けに言ったのはフィンだった。
ルートの手を両手で握ると、嬉しそうに、
「俺も一緒。行くとこなんてどこにもない」
なぜだかユリシスは、二人から目を離すことができなかった。
ルートはフィンの手を解くと、何かを振り切るような表情で、
「別に、あの女のためにやってるわけじゃない。不審死がある以上、調べておくに越したことはないというだけだ。それに、シルヴァリオの件もある」
「何だかんだ言っても、ルート姫も男ってことだわな」
とレッドが茶々を入れる。
「ユージェちゃんにいいとこ見せたいんだろ」
「ああ、もちろん」
と答えたのはユリシス。
「それがどうかしたのかい」
退学者名簿には今までにサイクロイドを退学した候補生の名前、生年月日、住所、退学日、退学理由が記録されている。
退学理由は軍務不適格、希望退学、放校処分、学科落第、そして死亡による除籍の五つが主である。
「フランツ・クレプトはあまり成績が芳しくはなかったみたいだな」
ひらりと一枚の紙片をかざしたのを見て、ユリシスは仰天した。
「まさか、抜き取ったのかい」
「写し取ったんだよ。原本を持ってくる馬鹿がどこにいる」
「そういう問題じゃない。生徒の個人情報を漁ったなんてことがばれたら、君も退学になるぞ」
「あいにく、俺はお前たちほど間抜けじゃない」
ルートは皮肉交じりに一蹴する。
「教官室に無断で潜り込んで、懲罰房行きになるようなヘマはしない」
「ははっ、言えてる」
相槌を打ったのはレッドで、フィンが隣で笑っているのを見て、
「お前のことだっつの」
「え、そうなの?」
とフィンはきょとんとしている。
「冗談はその辺にしておいて。ルート、どうして調べようと思ったんだい?こんな危険な橋を渡るなんて、君らしくないじゃないか」
ユリシスが真っ向から問いただすと、ルートは声を改めて言った。
「俺はお前たちと違って帰る場所がない。ここを退学になったら野垂れ死ぬしかない。だから卒業するためならどんな手段でも使う。誰を蹴落としてでも、俺は上に行く」
寂しさや哀切とは無縁の、淡々とした表情が、かえって痛ましさを浮き彫りにする。
ユリシスは瞳を曇らせ、何事か言葉をかけようとしたが、
「一緒だね」
と出し抜けに言ったのはフィンだった。
ルートの手を両手で握ると、嬉しそうに、
「俺も一緒。行くとこなんてどこにもない」
なぜだかユリシスは、二人から目を離すことができなかった。
ルートはフィンの手を解くと、何かを振り切るような表情で、
「別に、あの女のためにやってるわけじゃない。不審死がある以上、調べておくに越したことはないというだけだ。それに、シルヴァリオの件もある」
「何だかんだ言っても、ルート姫も男ってことだわな」
とレッドが茶々を入れる。
「ユージェちゃんにいいとこ見せたいんだろ」
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