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夏の章
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その後、ユージェニーのとりなしもあって、四人は無事に仕事を終えることができた。
「お疲れ様」
ユリシスはユージェニーに声をかけ、摘んできたクリーム色の花を手渡す。
ユージェニーが目を白黒させていると、
「さっき裏庭を通ったときに綺麗だと思って摘んでおいたんだ。こんなことしか出来なくて申し訳ないけど、いつも本当にありがとう。心から感謝してるよ」
臆面もなく言って微笑みかけたものだから、ユージェニーは赤面して言葉も出なくなった。
「気ぃつけな」
耳元でからかったのはレッドだった。
「女の顔してるよ、お嬢さん」
ユージェニーはレッドを睨みつけたかと思うと、肩を怒らてせ大股で逃げていった。
「罪つくりな奴め」
「君よりましだよ、レッド」
溜息交じりの揶揄に、ユリシスは眉一つ動かさずに言い返した。
「俺のは全部確信犯だからいいんだよ」
レッドは不遜にうそぶく。
「第一、花なんか渡して、女だって気づかれたらどうするんだよ。それこそ本末転倒だろうに」
「その心配は無用だ」
返事をしたのはユリシスではなくルートだった。
珍しい会話への参入に、三人が一斉に彼を見つめる。
「どういう意味だい、ルート」
問い質したユリシスに、ルートは無造作に職員棟を目で示して、
「あいつらは気づいてる」
「ルベリエたちが?まさか」
レッドは軽く笑った。
「分かってるのなら、あの子を放っておくはずがない」
「向こうはプロの軍人だぞ。あの程度の変装で見破られないと思うほうがおかしい」
ルートは断言した。
「ついでに言うと、ゴモラや食堂で働く連中もグルだ。気づいてないのは本人と、よほど間抜けな連中だけだ」
「それが本当なら」
ユリシスは茫然と呟いた。
「どうして、そんなことを」
「泳がせてるんだよ」
淡々とした表情でルートは言った。
「あいつらは気づいてて、その上であいつを泳がせている。様子見なのか何かを探ってるのかは知らないが、恐らく生かしておくだけの価値があの女にはあるんだろう」
「今はまだ――だけどな」
抜け目なく付け加えたのはレッドだった。
「だろ?お姫様」
ふん、とルートは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「お疲れ様」
ユリシスはユージェニーに声をかけ、摘んできたクリーム色の花を手渡す。
ユージェニーが目を白黒させていると、
「さっき裏庭を通ったときに綺麗だと思って摘んでおいたんだ。こんなことしか出来なくて申し訳ないけど、いつも本当にありがとう。心から感謝してるよ」
臆面もなく言って微笑みかけたものだから、ユージェニーは赤面して言葉も出なくなった。
「気ぃつけな」
耳元でからかったのはレッドだった。
「女の顔してるよ、お嬢さん」
ユージェニーはレッドを睨みつけたかと思うと、肩を怒らてせ大股で逃げていった。
「罪つくりな奴め」
「君よりましだよ、レッド」
溜息交じりの揶揄に、ユリシスは眉一つ動かさずに言い返した。
「俺のは全部確信犯だからいいんだよ」
レッドは不遜にうそぶく。
「第一、花なんか渡して、女だって気づかれたらどうするんだよ。それこそ本末転倒だろうに」
「その心配は無用だ」
返事をしたのはユリシスではなくルートだった。
珍しい会話への参入に、三人が一斉に彼を見つめる。
「どういう意味だい、ルート」
問い質したユリシスに、ルートは無造作に職員棟を目で示して、
「あいつらは気づいてる」
「ルベリエたちが?まさか」
レッドは軽く笑った。
「分かってるのなら、あの子を放っておくはずがない」
「向こうはプロの軍人だぞ。あの程度の変装で見破られないと思うほうがおかしい」
ルートは断言した。
「ついでに言うと、ゴモラや食堂で働く連中もグルだ。気づいてないのは本人と、よほど間抜けな連中だけだ」
「それが本当なら」
ユリシスは茫然と呟いた。
「どうして、そんなことを」
「泳がせてるんだよ」
淡々とした表情でルートは言った。
「あいつらは気づいてて、その上であいつを泳がせている。様子見なのか何かを探ってるのかは知らないが、恐らく生かしておくだけの価値があの女にはあるんだろう」
「今はまだ――だけどな」
抜け目なく付け加えたのはレッドだった。
「だろ?お姫様」
ふん、とルートは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
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