護国の鳥

凪子

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春の章

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レッドは我が物顔でフィンのベッドに陣取ると、フィンに向かって言い放つ。

「しっかし、お前って何で退学にならないわけ?学科の成績は最下位、規則は守らない、おまけに敬語も使えないときてる。大体、手づかみで物食う人間初めて見たぜ、俺」

「レッド」

押しつけるようにユリシスは諌めたが、心の隅にある疑念を打ち消せずにいた。

フィンの自由奔放で常軌を逸した振る舞いに、教官たちは手を焼いている。

それなのに、彼は一向に退学になる様子はない。

罰則を受けて走らされたり、水を浴びせかけられたり、掃除をさせられているのはよく見かけるが、本人にも全く懲りた様子がなかった。

「思ったとおり一筋縄じゃ行かない場所だぜ、ここは。恐らく教官たちは、それぞれ独自の基準で点数をつけてるんだろうが……」

レッドは口をつぐみ、気を取り直してフィンの柔らかい頬を左右に引っ張った。

「ま、お前、座学はともかく、実技はなかなかやるからな。こんなにチビなのにな」

フィンは頬を引っ張られたまま、むにゃむにゃと何事か言った。

「何だって?」

ユリシスが尋ね返すと、

「誰が殺したんだろうね」

その発言に、水を打ったように室内が静まり返った。

三人を無視して分厚い本に目を落としていたルートが、眼鏡越しにちらりと視線を寄越す。

「ねえ、ルート。誰だと思う?」

混じりけのない笑顔でフィンは問いかけた。まるで夕食のメニューを尋ねるかのように。

「不謹慎なことを口に出すものじゃないよ、フィン」

答えたのはユリシスだった。

「どうして?」

フィンは目を丸くしている。

「だって気になるでしょ?誰がどうやって殺したのか」

「まだ殺されたと決まったわけじゃない」

ユリシスは辛抱強い表情でたしなめた。
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