護国の鳥

凪子

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春の章

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美しい円形の水庭を通りすぎ、職員棟を突っ切って丘を下れば、宿舎に戻る早道である。

回廊を曲がったところで、ひらりと片手を上げてレッドが待っていた。

「よお」

ルートは目を細めたが、立ち止まりもせず一定の歩調で歩いていく。

その横顔を見つめ、レッドは何気なく言った。

「さっきは大変だったな。ミスター・プリンセス?」

ルートはきっと顔を上げてレッドを睨みつけた。

「お貴族様の犬は立ち聞きが得意らしい」

「おいおい、そんな言い方することないだろ。誰のおかげで、貞操の危機から救われたと思ってるのかな」

レッドは回り込んでルートの進路をふさぐ。

「他ならぬ姫のためだからこそ、罰則覚悟で石投げ込んだんだぜ」

ルートはこめかみが熱くうずくのを感じた。

憂いを帯びたスミレ色の眼差し、黒い濃い睫毛。顎から喉にかけての優美な線、理知的な額に凛々しい眉、石英のごとき肌の白さ。

相手を圧倒し黙らせるような美しさに、改めてレッドは称賛のため息をつく。

「心臓に悪い美貌ってやつだな」

ルートがますます嫌そうな顔をした。

「お前、女だったらよかったのな。そしたら俺がもらってやったのに」

「どけよ」

嫌悪の表情で、ルートは唇の隙間から低く吐き出した。

出し抜けに吹いた突風が、踊るように二人の前髪を吹き散らす。

レッドのあらわになった額の下に、ほんのわずか、年相応の少年らしい表情が覗く。
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