37 / 44
37
しおりを挟む
きょとんとしていた沙織は、眉を曇らせて尋ねる。
「……何かされた?」
「いや、全然」
千春はあっさり首を振った。
「何だ、脅かさないでよ」
ほっとしたように沙織は笑い、大きく両手を広げて伸びをする。
「千春はそう言うけどさ、私は日野さん割と好きだな。第一、あれほどの美麗な背中はなかなかお目にかかれないよ。国宝級だよ」
「背中フェチだったんだ……」
密かに驚いた千春だったが、沙織はしみじみとした口調で、
「でも皮肉だよね。成澤部長より、明らかに日野さんのほうが社長に似てるんだから」
千春は一瞬、黙り込んだ。
「……そうかな」
「そうだよ」
沙織は勢い込んで言った。
「入社式の日に見て、衝撃だったじゃん。覚えてない?」
入社式は、たしかホールを借りて行われたはずだ。
新入社員全員が集められ、社長からありがたい訓示をいただいた覚えがある。
その際、成澤社長のビジュアルにショックを受けた女子社員たちが、興奮を抑えきれずにざわめいていた。
「ちょい悪とか渋かっこいいとかじゃなくて、あれはもうイタリア人だよ、イタリア人。あんなかっこいい六十歳見たことないよ」
「日野さんはイタリア人って感じじゃないけどね」
千春がさり気なく口を挟むと、
「でも純粋な日本人顔でもないじゃない?いい感じに混ざってるというか。目元とか鼻とか社長の面影あって、ああ似てるなって思うもん。それに……」
「それに?」
間があったので聞き返すと、沙織は周囲をきょろきょろと見回してから声を潜めた。
「ここだけの話、社長は成澤部長じゃなくて、日野さんを後継者にしたがってるって噂もあるらしいよ」
千春は思わず吹き出した。
「あり得ないでしょ!あんな寝てばっかな人、社長なんて務まるわけないし」
「まあ、千春の話聞いてればそれはないんだろうなって思うけど、噂よ噂。でも、あんまり噂も馬鹿にしないほうがいいよ。特にあんた人事なんだし」
「……何かされた?」
「いや、全然」
千春はあっさり首を振った。
「何だ、脅かさないでよ」
ほっとしたように沙織は笑い、大きく両手を広げて伸びをする。
「千春はそう言うけどさ、私は日野さん割と好きだな。第一、あれほどの美麗な背中はなかなかお目にかかれないよ。国宝級だよ」
「背中フェチだったんだ……」
密かに驚いた千春だったが、沙織はしみじみとした口調で、
「でも皮肉だよね。成澤部長より、明らかに日野さんのほうが社長に似てるんだから」
千春は一瞬、黙り込んだ。
「……そうかな」
「そうだよ」
沙織は勢い込んで言った。
「入社式の日に見て、衝撃だったじゃん。覚えてない?」
入社式は、たしかホールを借りて行われたはずだ。
新入社員全員が集められ、社長からありがたい訓示をいただいた覚えがある。
その際、成澤社長のビジュアルにショックを受けた女子社員たちが、興奮を抑えきれずにざわめいていた。
「ちょい悪とか渋かっこいいとかじゃなくて、あれはもうイタリア人だよ、イタリア人。あんなかっこいい六十歳見たことないよ」
「日野さんはイタリア人って感じじゃないけどね」
千春がさり気なく口を挟むと、
「でも純粋な日本人顔でもないじゃない?いい感じに混ざってるというか。目元とか鼻とか社長の面影あって、ああ似てるなって思うもん。それに……」
「それに?」
間があったので聞き返すと、沙織は周囲をきょろきょろと見回してから声を潜めた。
「ここだけの話、社長は成澤部長じゃなくて、日野さんを後継者にしたがってるって噂もあるらしいよ」
千春は思わず吹き出した。
「あり得ないでしょ!あんな寝てばっかな人、社長なんて務まるわけないし」
「まあ、千春の話聞いてればそれはないんだろうなって思うけど、噂よ噂。でも、あんまり噂も馬鹿にしないほうがいいよ。特にあんた人事なんだし」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる