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第五話
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数日後、約束通りにオレは彼女と喫茶店で待ち合わせた。白を基調とした店の前で待ち合わせて一緒に店内に入った。木目がきれいな壁側のテーブルに向かい合って座り、注文を聞きに来たウェイトレスにオレはコーヒーを、彼女は紅茶と『お礼だから遠慮なく』とオレが勧めたショートケーキを注文した。注文の品が届き、オレはブラックで彼女は角砂糖をひとつ紅茶に落としてスプーンでかき混ぜる。それぞれひと口ずつ飲んだタイミングでオレは切り出した。
「先日はほんとに申し訳ない。着物、ほんとに汚れてませんでしたか?」
「ああ。いえ。全然大丈夫でした。着付けが長めだったのもいけないんですよ。」
「着物はご自分で?」
「まさか。マ…母にやってもらったんです。」
「そうだったんですね。…汚れてなくて安心しました。」
それから傍らに置いたショルダーバッグからハンカチを入れたビニール袋を取り出してテーブルにおいた。
「あと、先日のハンカチ。これもありがとうございました。おかげで風邪をひかずにすみましたよ。…下宿にはアイロンがなくて、ほんと洗っただけで申し訳ないし、本来なら新しいものを買ってお返しすべきなのでしょうが。」
「そんなことないですよ。洗ってくださっただけで十分です。それに新しいものなんて、まだちゃんと使えるのにもったいないことですし。」
「そういってくださって安心しましたよ。それにしても今年はちゃんと初詣に行って正解だったな。こうやって気になってたハンカチをちゃんと返してお礼を言うことができた。神様に感謝しないといけませんね。あ…と、そういえば、お名前はなんとおっしゃるのですか?差し支えなければ…。」
我ながら白々しい演技だなとは思ったが、彼女はにっこり笑ってすでにオレが知っている名前を口にした。
「へえ、素敵なお名前ですね。」褒めた後、オレは自分の名前を名乗り、大学名と四年生であることを告げた。大学名を聞いた彼女はもともとクリっとしていた目を真ん丸に開き、両手を口に当てて自分も同じ大学で一年生であることを口にした。
「すごい偶然だなあ。」
「まさか、本当にこんなことがあるんですね。」
同じ大学であるということが安心感を生んだのか、彼女は緊張感をゆるめ口調も若干くだけたものになってきた。オレはあらかじめ仕入れておいた情報をもとに彼女の趣味についてもいくらかは知識を仕入れておいたので話題として趣味の話をふり、彼女はそれにのって会話はおおいにはずんだ。夕方が近くなり彼女に『そろそろ帰らないと。遅くなると親御さんが心配しますよ』と口にしたとき、彼女の顔に一瞬寂しそうな表情がうかんだ。(これはいける)そう思ったオレは
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです…よければこれからも、会ってもらえますか?」と口にした。彼女はきょとんとした顔をしたあとほほをそめてひとこと『はい』とこたえた。オレは『一応、お伝えしておきます』と下宿の住所と電話番号を喫茶店の紙ナプキンに書いて彼女に渡した。
最初のデートの翌日、オレはサトルに事の顛末を話した。
「やったな!お前、俺に感謝しろよ!!」サトルが俺の背中をどやしつける。
「ああ。ほんとに感謝してる。…こんど何か奢らないとな。」
俺たちは大学近くの喫茶店でデートを重ねた。そしてオレは卒論を書き上げて就職も無事決まり、無事に大学を卒業した。社会人として働き始めて一月ほどたった連休最終日、デートの途中で彼女が言った。
「あのね、ゆうべマ…母と兄貴にあなたとのことを話したのね。明日はは誰に会うの?って聞かれたから。そしたら『そんな偶然話、聞いたこと無いぞ』って二人とも笑うのよ、それも大爆笑。失礼しちゃうでしょう?そのうえ…」彼女は自分の口元を指さして続けた。
「出かける準備をしてて口紅ひいてたら、兄貴が私のおでこに手を当てるのよ。」彼女はぷりぷりと怒っていたが、オレが彼女の親か兄弟であっても似たようなリアクションを取ったかもしれないと思っておかしくなった。
「それでね?」
「うん?」
「母と兄貴が、うたがってるのよ。本当にあなたというボーイフレンドが実在するのかって。」
「もしかして空想上のボーイフレンドに会いに行ってると思われてる?」
彼女はこっくりとうなずく。
「そんなことなら、キミの名誉を回復させるためにお母さんとお兄さんに会いに行ってあげないとな。」
「ほんとに?いいの?」
「もちろんだよ。」
そして彼女の家の都合とオレの仕事の都合をすりあわせ、5月の最終週の水曜日の午後、彼女の家を訪問することにした。
続く
「先日はほんとに申し訳ない。着物、ほんとに汚れてませんでしたか?」
「ああ。いえ。全然大丈夫でした。着付けが長めだったのもいけないんですよ。」
「着物はご自分で?」
「まさか。マ…母にやってもらったんです。」
「そうだったんですね。…汚れてなくて安心しました。」
それから傍らに置いたショルダーバッグからハンカチを入れたビニール袋を取り出してテーブルにおいた。
「あと、先日のハンカチ。これもありがとうございました。おかげで風邪をひかずにすみましたよ。…下宿にはアイロンがなくて、ほんと洗っただけで申し訳ないし、本来なら新しいものを買ってお返しすべきなのでしょうが。」
「そんなことないですよ。洗ってくださっただけで十分です。それに新しいものなんて、まだちゃんと使えるのにもったいないことですし。」
「そういってくださって安心しましたよ。それにしても今年はちゃんと初詣に行って正解だったな。こうやって気になってたハンカチをちゃんと返してお礼を言うことができた。神様に感謝しないといけませんね。あ…と、そういえば、お名前はなんとおっしゃるのですか?差し支えなければ…。」
我ながら白々しい演技だなとは思ったが、彼女はにっこり笑ってすでにオレが知っている名前を口にした。
「へえ、素敵なお名前ですね。」褒めた後、オレは自分の名前を名乗り、大学名と四年生であることを告げた。大学名を聞いた彼女はもともとクリっとしていた目を真ん丸に開き、両手を口に当てて自分も同じ大学で一年生であることを口にした。
「すごい偶然だなあ。」
「まさか、本当にこんなことがあるんですね。」
同じ大学であるということが安心感を生んだのか、彼女は緊張感をゆるめ口調も若干くだけたものになってきた。オレはあらかじめ仕入れておいた情報をもとに彼女の趣味についてもいくらかは知識を仕入れておいたので話題として趣味の話をふり、彼女はそれにのって会話はおおいにはずんだ。夕方が近くなり彼女に『そろそろ帰らないと。遅くなると親御さんが心配しますよ』と口にしたとき、彼女の顔に一瞬寂しそうな表情がうかんだ。(これはいける)そう思ったオレは
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです…よければこれからも、会ってもらえますか?」と口にした。彼女はきょとんとした顔をしたあとほほをそめてひとこと『はい』とこたえた。オレは『一応、お伝えしておきます』と下宿の住所と電話番号を喫茶店の紙ナプキンに書いて彼女に渡した。
最初のデートの翌日、オレはサトルに事の顛末を話した。
「やったな!お前、俺に感謝しろよ!!」サトルが俺の背中をどやしつける。
「ああ。ほんとに感謝してる。…こんど何か奢らないとな。」
俺たちは大学近くの喫茶店でデートを重ねた。そしてオレは卒論を書き上げて就職も無事決まり、無事に大学を卒業した。社会人として働き始めて一月ほどたった連休最終日、デートの途中で彼女が言った。
「あのね、ゆうべマ…母と兄貴にあなたとのことを話したのね。明日はは誰に会うの?って聞かれたから。そしたら『そんな偶然話、聞いたこと無いぞ』って二人とも笑うのよ、それも大爆笑。失礼しちゃうでしょう?そのうえ…」彼女は自分の口元を指さして続けた。
「出かける準備をしてて口紅ひいてたら、兄貴が私のおでこに手を当てるのよ。」彼女はぷりぷりと怒っていたが、オレが彼女の親か兄弟であっても似たようなリアクションを取ったかもしれないと思っておかしくなった。
「それでね?」
「うん?」
「母と兄貴が、うたがってるのよ。本当にあなたというボーイフレンドが実在するのかって。」
「もしかして空想上のボーイフレンドに会いに行ってると思われてる?」
彼女はこっくりとうなずく。
「そんなことなら、キミの名誉を回復させるためにお母さんとお兄さんに会いに行ってあげないとな。」
「ほんとに?いいの?」
「もちろんだよ。」
そして彼女の家の都合とオレの仕事の都合をすりあわせ、5月の最終週の水曜日の午後、彼女の家を訪問することにした。
続く
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