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ホタル
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「健太朗、おまえホタル見たことあるか?」
クラスメイトの颯太が休み時間に話しかけてきた。
「もちろんあるぜ。宗太は?」
「おれもある。でさ、ホタルって、漢字で書けるか?」
「当たり前だろう…ほら。」
おれは広げていたノートの隅に『蛍』の字を書いた。
おれは理数系は苦手だけど、国語の成績はまあいいほうだ(自称…だけどな)
「じゃあさ、その漢字の部首はわかるか?」
「『ツ』じゃないのか?」
「ああ。そいつの部首は『虫』なんだとさ。」
「マジか?」
「ああ。蛍の旧字体は書けるか?」
「わかんね。」
「こう…書くんだとさ。」
宗太はおれがかいた『蛍』のとなりに『螢』と書いた。
「…似てるけど違うな。火がついてる虫…まあ火もホタルも光るけど。」
「あと…こんな漢字もあってさ。」
宗太がノートを漢字で埋めていく。
『単・單』『栄・榮』『学・學』
「こんな感じでさ、旧字体が新字体になるときに簡略化のために使ったのが『ツ』に似た字なんだとさ。」
「へえ…。」
「で、簡略化された結果もとの文字の分類におさめることができなくなった漢字たちのために新たに『ツ』部ができたということらしい。もちろん元のままの分類の漢字もあるらしいけどな。」
「へえ…トリビア。宗太にしては珍しいことを言うな。」
「おれだってゲームのことばかり考えてるわけじゃねえぞ。」
宗太がドヤ顔をする。
おれはちょと興味をひかれてスマホを取りだし『旧字体 新字体 一覧』と入力してみた。
表示されたサイトのひとつを開く。五十音順に出てきた漢字の存外な多さにびっくりする。少ししか違わないものもあれば(全然違う字だろ!!)とツッコミを入れたくなる字もあった。ふとスクロールする指が止まる。もしかしてこれか?
「宗太、おまえもしかして櫻子ちゃんの名前を調べたのか?」
「な、なんでわかった?!」
おれは見ていた画面を颯太に示した。。『櫻・桜』と旧字と新字が並んでいる。宗太の顔が赤くなる。…好きな子の名前の漢字を調べるとはピュアなやつだな。
「きっかけはさ、そうだったんだよ。」
宗太が口を開く。
「きっかけ?」
「ああ。彼女の名前、学校で習う漢字じゃないだろ?それで気になって漢字調べたら旧字体というのがあると初めて知って。じゃあ旧字体ってなんだ?って興味が湧いてきてさ。」
「国語『も』苦手な宗太にしては大進歩だな。」
「るせ。それでホタルの漢字が『螢・蛍』って知ったんだけどさ。漢字ってすげえなって思ったんだよ、おれ。」
「??話がわからんが…」
「じゃあ、国語が得意な健太郎様。ホタルの新字体を草書で書いてみてくれるか?」
「草書~?どんなんだっけ?」
おれはスマホを操作し、蛍の草書体の手本画像を見つけて真似してノートに書いた。
「ほら、これだよ。」
宗太が文字の一番上を指さす。
「ここ、ホタルが舞っているように見えないか?」
…言われてみればゆっくりと上下に動く線はホタルの光が動く様に見えなくも…ない。
「でさ、その部分の元の文字って『火』なんだよな。『火が舞っている』ホタルそのものって気がしてこないか?」
…男相手に無駄にロマンチストなやつだ…。
「…おれじゃなく櫻子ちゃんに言えっつーの。」
ノートを丸めて宗太の頭をポンとはたき、おれは教室をあとにした。
クラスメイトの颯太が休み時間に話しかけてきた。
「もちろんあるぜ。宗太は?」
「おれもある。でさ、ホタルって、漢字で書けるか?」
「当たり前だろう…ほら。」
おれは広げていたノートの隅に『蛍』の字を書いた。
おれは理数系は苦手だけど、国語の成績はまあいいほうだ(自称…だけどな)
「じゃあさ、その漢字の部首はわかるか?」
「『ツ』じゃないのか?」
「ああ。そいつの部首は『虫』なんだとさ。」
「マジか?」
「ああ。蛍の旧字体は書けるか?」
「わかんね。」
「こう…書くんだとさ。」
宗太はおれがかいた『蛍』のとなりに『螢』と書いた。
「…似てるけど違うな。火がついてる虫…まあ火もホタルも光るけど。」
「あと…こんな漢字もあってさ。」
宗太がノートを漢字で埋めていく。
『単・單』『栄・榮』『学・學』
「こんな感じでさ、旧字体が新字体になるときに簡略化のために使ったのが『ツ』に似た字なんだとさ。」
「へえ…。」
「で、簡略化された結果もとの文字の分類におさめることができなくなった漢字たちのために新たに『ツ』部ができたということらしい。もちろん元のままの分類の漢字もあるらしいけどな。」
「へえ…トリビア。宗太にしては珍しいことを言うな。」
「おれだってゲームのことばかり考えてるわけじゃねえぞ。」
宗太がドヤ顔をする。
おれはちょと興味をひかれてスマホを取りだし『旧字体 新字体 一覧』と入力してみた。
表示されたサイトのひとつを開く。五十音順に出てきた漢字の存外な多さにびっくりする。少ししか違わないものもあれば(全然違う字だろ!!)とツッコミを入れたくなる字もあった。ふとスクロールする指が止まる。もしかしてこれか?
「宗太、おまえもしかして櫻子ちゃんの名前を調べたのか?」
「な、なんでわかった?!」
おれは見ていた画面を颯太に示した。。『櫻・桜』と旧字と新字が並んでいる。宗太の顔が赤くなる。…好きな子の名前の漢字を調べるとはピュアなやつだな。
「きっかけはさ、そうだったんだよ。」
宗太が口を開く。
「きっかけ?」
「ああ。彼女の名前、学校で習う漢字じゃないだろ?それで気になって漢字調べたら旧字体というのがあると初めて知って。じゃあ旧字体ってなんだ?って興味が湧いてきてさ。」
「国語『も』苦手な宗太にしては大進歩だな。」
「るせ。それでホタルの漢字が『螢・蛍』って知ったんだけどさ。漢字ってすげえなって思ったんだよ、おれ。」
「??話がわからんが…」
「じゃあ、国語が得意な健太郎様。ホタルの新字体を草書で書いてみてくれるか?」
「草書~?どんなんだっけ?」
おれはスマホを操作し、蛍の草書体の手本画像を見つけて真似してノートに書いた。
「ほら、これだよ。」
宗太が文字の一番上を指さす。
「ここ、ホタルが舞っているように見えないか?」
…言われてみればゆっくりと上下に動く線はホタルの光が動く様に見えなくも…ない。
「でさ、その部分の元の文字って『火』なんだよな。『火が舞っている』ホタルそのものって気がしてこないか?」
…男相手に無駄にロマンチストなやつだ…。
「…おれじゃなく櫻子ちゃんに言えっつーの。」
ノートを丸めて宗太の頭をポンとはたき、おれは教室をあとにした。
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