カレーライス

奈那美

文字の大きさ
上 下
1 / 1

カレーライス

しおりを挟む
 自慢じゃないが、ぼくは忘れ物が多い。まず授業に持っていくものを忘れる。毎日、連絡帳に『今日の宿題』と『明日の時間割』と『明日持ってくる物』を書かされるんだけど、かならず何かを忘れてしまう。連絡帳に書くことだけは忘れない…というか、書いたものを担任の先生に見せて、書き落としがないかを僕の場合は三度もチェックされる(ほかの友達は一回だけ)からあたりまえだけど。
それで、連絡帳を見ながらランドセルに持っていくものを入れていくんだけど、教科書を入れたらノートを。ノートを入れたら教科書を。両方そろって入れていたときは筆箱を入れ忘れてる。それがよくないことだっていうのは、ぼくだってちゃんとわかってる。あと、かさをよくわすれてしまう。朝、雨が降っていても帰る時間にやんでたら忘れちゃう。学校にも友達の家にも、おつかいで行ったスーパーにも忘れちゃう。学校や友達の家だったら取りに行ったり持ってきてくれたりするけれど、スーパーに忘れたときは気がついて取りに戻っても置いた場所になくて。それでもう5本以上なくしちゃってる。おかあさんもおとうさんもいつも「忘れ物ばっかりして情けない」とか「だらしない」ってぼくをしかるし、ぼくだってしかられるのは好きじゃない。それにもっとむかつくのは妹までが『忘れんぼ』ってばかにすることだ。そんなある日、おかあさんがひとつの提案をしてきた。  『持っていくもののリスト』をくわしく書いて、ランドセルに入れたら消していくという方法だ。ぼくがおかあさんにおつかいを頼まれてスーパーに行く時に持っていく『お買いものリスト』の学校バージョンだ。まずは明日の用意からということで、おかあさんにメモ用紙を一枚もらって持っていくものを書き出してみた。連絡帳に書いてある明日の時間割は一時間目の社会から六時間目の音楽までの六教科だ。時間割をメモの左のはしっこに縦に書いて、その横にいるものを書いていく。
社会…教科書・ノート
国語…教科書・ノート
理科…教科書・ノート
図工…図工セット(学校においてる)
算数…教科書・ノート
音楽…リコーダー(学校においてる)
筆箱…えんぴつ・サインペン・赤えんぴつ
したじき・ハンカチ・連絡帳
ひと通り書いて、おかあさんに連絡帳といっしょに見せて書き忘れがないか見てもらった。図工セットとリコーダーは学校においているからおかあさんが()で書き足してくれた。OKをもらったのでさっそくメモを見ながらランドセルにつめていった。めんどうだったけれど、ひとつ入れるたびに入れたものを横線で消していった。
社会…教科書・ノート
国語…教科書・ノート
理科…教科書・ノート
図工…図工セット(学校においてる)
算数…教科書・ノート
音楽…リコーダー(学校においてる)
筆箱…えんぴつ・サインペン・赤えんぴつ
じょうぎ・したじき・ハンカチ・連絡帳
次の日、ぼくは初めて『忘れ物を一つもしなかった』と先生にほめてもらったうえに連絡帳にも花マルを書いてもらった。ぼくはとてもうれしかったので、次の日から毎日メモ用紙をもらって、ちゃんと書きだしてからランドセルに入れていくようになった。
けれど毎日たくさんの字を書くのがめんどうになったぼくは、教科書は「き」ノートは「の」と短くして書くようになった。それでも忘れ物はしなくなった。ちょっぴり自信がついたぼくは、おかあさんにたのまれるおつかいのメモも、自分で書くようになった。おかあさんが砂糖とかたまごというのを聞いて「さ1kg」とか「た1パック」と書いていくのだ。だけど、たのまれるものはいつもほとんど同じなので、そのうちにkgとかパックも書かないようになってしまっていた。
ある日おかあさんがぼくにおつかいを頼んできた。ぼくがここんとこずっと忘れ物をしてないからごほうびにとビーフカレーを作ってくれるというのだ。いつもはポークカレーだからすごくうれしい。
ぼくはさっそくメモを書いた。
ぎ300
に2
た3
じ3
か1
そうして小雨が降っていたので、メモとお金ををポケットに入れてカサを持って玄関をでた。玄関のドアがとじる前におかあさんが「カサを忘れて帰っちゃだめよ。」といっているのが聞こえた。
スーパーについたぼくは入口にカサをたたんで立て、レジかごを持って店内をまわった。
「牛肉…300gと、に…にんじんは2本。
た…はたまねぎだから3個で、じ…じゃがいもだった…は3個。もっと入れてほしいんだけどな。あとはか。か・か・か…あ!カサ忘れないでって言われてたっけ。」そうしてぼくはレジで支払いをすませて買ったものを袋に入れてもらい、入口に立てていたカサをもって家に帰った。
「ただいま~。今日はカサ忘れなかったよ。」
おつりとレシートと買ってきたものを台所にいるおかあさんに報告した。
「おかえりなさい。カサ忘れなかったのね。えらかったわね。…って、あなたカレールーは?」
!!!忘れた!
 
その日の夕ご飯は肉じゃがになった。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

宇宙警察

赤貝餅子。又の名を
SF
宇宙の平和を守るため、宇宙警察は危険な星を観測していた。ある日、星間戦争を起こしている現場を発見し、平和を実現するために行動をしたら

これって、パラレってるの?

kiyin
SF
一人の女子高校生が朝ベットの上で起き掛けに謎のレバーを発見し、不思議な「ビジョン」を見る。 いくつかの「ビジョン」によって様々な「人生」を疑似体験することになる。 人生の「価値」って何?そもそも人生に「価値」は必要なの? 少女が行きついた最後のビジョンは「虚無」の世界だった。 この話はハッピーエンドなの?バッドエンドなの? それは読み手のあなたが決めてください。

日本連邦共和国

トースト
SF
巨大な惑星に存在する日本連邦共和国 あるひ突然多数の大陸が そこにはさまざま国家がいた。 地球圏国家によるあらたな植民地競争がはじまる

全知の端末

りゅうやん
SF
全ての人がブレインマシンインターフェース(BMI)を持っている世界。 この装置を使えば、ただ思うだけで周囲の機器を動かし、人と通信することが出来る。 BMIが主要な意思伝達の手段となり、人々は日常生活の中で声を出して話をする行為を忘れつつある。 そして、BMIの機能を応用することで、究極とも言える知性を獲得する方法が見いだされた。 しかし、その代償として、自分の人格は失われる。 究極の知性への憧れと人格を失う恐怖の狭間で、主人公は最後に自分の行く道を決断する。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【完結】もういいよね?

玲羅
SF
AIがパートナーとして身近になり、仮想空間へのフルダイブが一般的になった近未来で起こった、いつかあるかもしれないお話

処理中です...