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本編

4(完)

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「事前に報告を受けた内容と若干事情が異なるようだが、まあ解った。……セドリック」

「はい」

「おまえの側近たち及びレイミナ=モリスはリリーディア=ローゼ嬢を貶め、断罪せんとしたが、それもローゼ嬢本人に加え隠密の証言で未遂に終わった。だがセドリック、おまえにも場を大事にしたという責任はある。おまえがそのような気がなかったとしても、だ。解るな?」

「はい、軽率な真似をいたしました。申し訳ございません、父上」

 セドリックは皆もすまなかったなと講堂に集まった人々に向けても謝罪を口にする。これには全員が恐縮した。

「リリーディア=ローゼ嬢。そなたはこの件の一番の被害者だ。この者たちに如何様な処分を下したい? そなたの希望にできるだけ沿った処遇にしよう」

 国王のこの言葉にリリーディアは目を瞠った。ただの学生である令嬢に罪を犯したるものたちの処遇を委ねるなど、前代未聞だからである。
 リリーディアは正直なところ、はぁぁあ!?このイケオジは何考えてんの!こんな重要案件学生に過ぎない小娘に任せるなんて正気の沙汰じゃないわ!冗談じゃないわよぉおおおお!と叫び出したい気持ちでいっぱいであった。
 レイミナに対してはたまりにたまった苛つきと言いがかりをつけられ貶められたことに対して怒りはある。しかし、極刑は望んではいない。これから自分に、自分の大切なものに害がなければそれでいい。王室に任せているとすぐに王国法に則り極刑に処しそうで怖い。 悪役にあまり厳しくないゲームの世界とは言いつつ、やはり庶民には厳しい節があるのだ。
 視線をレイミナに投げてみる。ものすごい顔で睨まれた。怖い。悪役はあちらではないだろうか。げんなりとした気分で嘆息すると、リリーディアは国王に告げた。

「陛下、発言をよろしいでしょうか」

「許可する」
 
 国王は頷いた。リリーディアは一旦目を伏せ深呼吸をした後、国王を見据える。

「陛下、私は彼女らへの厳罰を望みません」

 その言葉に周囲が騒めいた。国王の傍に控えていた側近である宰相が手を上げ周囲を治める。

「そなたは濡れ衣を着せられ侮辱されたにも拘らず、罰を与えるなと?」
 
 国王の問いかけにリリーディアは首を横に振った。

「そうではありません。罪は罪、何かしらの罰は必要でしょう。彼女たちはまだ学生の身分です。そして確かにいろいろございましたが、実害が大きくなる前に防ぐことができました。ですから、今回だけは極刑をご容赦いただけませんでしょうか」

 周囲が再び騒めく。刑が軽すぎる、リリーディア様は慈悲深い、貴族の示しがつかないので極刑に処すべきだなど、反応は様々だ。リリーディアの傍らに添うセドリックも渋い顔をする。

「リリィ、だめだ。お前……いや、あなたの名誉を著しく傷つけた者たちを許すべきではない」

「許すわけではないのです。どうかご理解くださいセドリック殿下、私は……」

 人の命を背負うなんて真っ平御免つってんの!!
 リリーディアは眼力で訴えた。

「リリィ……」

 セドリックはリリーディアの手を取ると、両手で包み込み苦笑した。流石に幼少の砌より婚約者として付き合ってきただけある、ばっちり以心伝心したようだ。
 二人は微笑み合うと、国王へと向き直る。

「彼女たちが今までのことを反省するならば、厳罰に処さないでいただきたいのです」

 どうか学園追放あたりでお願いしたい。処刑にならなくてもあまり厳しい罰だと恨んできそうだ。特にレイミナが。
 リリーディアが心の中で念を送っていると、国王がそこまでそなたが言うならばと微笑んだ。そしてレイミナと愉快な取り巻きたちに視線をやると、一段階調子を落とした声で投げかける。

「レイミナ=モリス、カシム=マディソン、クラヴィス=ヴァレンシア並びにブラッドレイ=アンバード。ローゼ嬢がこう申しているが、貴様らに反省の意はあるか?」

 取り巻きたちは即座に反省します、申し訳ありませんでしたと最敬礼を以て謝罪した。レイミナも若干不満げではあるがぺこりと頭を下げる仕草をした――――リリーディアにではなく、国王に向かってだが。

「学院内で起きたことであり、実害が大きくなる前に止まったこと。更には本件の被害者であるリリーディア=ローゼの嘆願もあり――――レイミナ=モリス以下三名は一月の謹慎。事を大きくするに至ったセドリック=トリクセンは一週間の謹慎とする」

 国王が沙汰を高らかに宣言した。
 少々処罰が軽すぎるような気もするが、リリーディアとしては他人を残酷な目に遭わせたくもないので十分だな、と思い頷いてそれを了承した。だが。

「その後は今まで通り同じ教室で学院生活を送るように、よいな」

「え!?」
 
 耳を疑いたくなるような、信じられない言葉が降って来た。

 よくない!!全く以ってよくない!!!
 同じ教室とか、気まずいことこの上ないではないか!!!!!

「へ、陛下! お、お待ちくださ……」

 リリーディアが慌てて国王の引き留めに掛かるも、その手は虚しく空を切る。国王は満足げな表情を浮かべ、かっこよくマントを翻すと場を退出してしまった。
 会場内に何とも言えない空気が流れる。
 
 確かに相手に厳重な罰など望んでいなかった。だが……だが!!!

 リリーディアがレイミナを見やれば、反省の色は微塵もなさそうであった。セドリックに向かって必ず振り向かせて見せますなどと宣っている。
 そんな彼女を無視しつつセドリックはリリーディアをそれはそれは愛しそうに抱きしめてきた。しかし、リリーディアはそれどころではない。
 胃が痛い、とにかく胃が痛い。せめてクラスは変えて欲しかった。一月後のストレスマックスな生活を思い浮かべて身震いする。





何がどうしてこうなった!!!!!!





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