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レインボーポット編

第31話「賢者様登場!勇者と一緒におしおきよ!!!」②

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 翌朝、一悟いちごと涼也は一悟の母によってシュトーレン達のいる屋敷に連れてこられたのだった。さらに監視役としていすみも加わり、一悟にはさらなるプレッシャーがかかる。
「そんじゃ、俺とトロールは一悟達の修行の付き合い、ここなは僧侶様と一緒にほなみの受験勉強に付き合うって事でいいな?」
「うむ…教師の副業は禁止されているからな…海の家には出られん。」
 客としては入れるが、スタッフとしては海の家に入れないため、アンニンと有馬はあくまで一悟達の修行の付き合いであある。
「ところで、一悟はどうした?今日は海の家の手伝いを任されるはずだったが…」

「ガチャッ…」

 アンニンのセリフの途中で屋敷の扉が開き、そこからユキとキョーコせかんどが一悟を連れて戻って来た。3人は上着を羽織っているが、上着の下はメイド服と水着を合わせたようなスタイルになっており、一悟に至っては鼻をティッシュで押さえている。
「もーっ!!!こんなんじゃ、仕事にならないーっ!!!!!」
「流石に鼻にティッシュを詰めて接客は、不可能だと思いますので、一悟は修行のみという事で…」
 海の家では水着姿の人々が集まる。以前、スーパー銭湯で鼻血を出して気絶した事のある一悟には、水着姿であっても刺激が強すぎたようだ。
「そうした方がいいな…」
 僧侶は頭を抱え、有馬ありまは腹を抱えて爆笑する。

 どうにも茅ケ崎に来てから僧侶アンニンとして頭を悩ます事が立て続けに起こっている。海の家の制服が女子がメイド服と水着を掛け合わせたような恰好の事、屋敷に用意してあるシュトーレンとトルテの専用部屋の事などなど、あの人物の言動に振り回されるのがどうにもイヤなようだ。
「まったく…あの賢者ときたら…」


 賢者トリュフもとい、シンシア・トリュフ・ショコラーデは、勇者クラフティ、ムッシュ・エクレールと共にスイーツ界を旅してきた賢者で、10年前に勇者クラフティと共にスイーツ界から飛ばされて以来、消息は掴めていなかった。確定的だったのは、人間界に飛ばされていたという事。それが事実だと分かったのは去年の事で、アンニンが「仁賀保杏子にかほきょうこ」としてサン・ジェルマン学園中等部の養護教諭として採用された時の事だった。賢者は「鳥居千代子とりいちよこ」埼玉県教育委員会に所属し、人間界の男性と既に結婚して2人の子供を持っていたのである。それならなぜ、8年前の悲劇を止められなかったのか問いただそうとしたが、できなかった。勇者クラフティがカオスに敗北した日…その日が賢者の子供達が生まれた日だったのである。仮に彼の居場所が分かったとしていても、身重の身体で彼を助けに行くなど現地の医者に止められることは確実だ。

「そんでさぁ…旦那ちゃんが育休取ったら、取ったでその時務めていた学校のPTAから苦情が来て、クビになっちゃってさぁ…これから双子育てんのに、こんなのあるかって話でしょ!PTAのGOサインで子供産めなんて、無理無理無理!」
 僧侶アンニンのため息とほぼ同時に、勇者達がいる海の家では、30代ほどの赤茶色の髪の女性がシュトーレンとクラフティの目の前で喋っていた。この女性こそ、賢者トリュフなのである。
「それから…遅くなっちゃったけど、セーラ…結婚おめでとう!あんなに泣き虫で、いつもアンヌとニコラスに守られていた子が…立派な勇者になって、更に生涯の伴侶と結ばれるなんてねぇ…あたしゃもう…感動の涙で前がみえなぐなっでぐんのよぉ…」
 これまでの事をあっけらかんと話す賢者は、突然涙を流しながら話題を変えた。どうやら、かなり喜怒哀楽の激しい賢者のようだ。

 スイーツ界に於いて、勇者を真名で呼んでいいのは、家族と親しい間柄の人物のみ。本来ならば賢者トリュフが勇者シュトーレンを真名で呼んではいけない身分だ。だが、賢者がスイーツ界を離れたのは勇者シュトーレンが勇者として覚醒する前の事で、その事についてシュトーレンの父親であるガレットからの了承を得た上で「真名で呼んでいい」と認められたのである。勿論、僧侶アンニンに対してもブランシュ卿から許可を得ている。

「それにしても、シンシアが10年前に木苺ヶ丘きいちごがおかに飛ばされていたなんてな…」
 賢者に関しても、親しい間柄以外の人物が賢者の真名を口走ってはいけないのは同じだ。元々この2人は幼馴染であり、性別の隔たり関係なく腹を割って話せる間柄でもあるため、シュトーレンとアンニン同様、最初から真名を分け合っているようなものである。
「えぇ…あなたが茅ケ崎に飛ばされていた事すら、最初は全く気付かなかった…でも、茅ケ崎のカオスイーツの事件が全国に報道されるようになって、ようやくあなたの居場所が分かった時には、あたしは駆けつける事ができなかった…」
 しんみりとする賢者の言葉に、クラフティの表情が曇る。お互い、あの頃は人間界で生きていくことだけで精一杯だった。勇者クラフティは茅ケ崎で明日香達と出会い、賢者トリュフは瀬戌で教師として働きながら現在の夫と出会ったのだった。
「大きなお腹で、少しでも動いたら出てきそうなほどでさ…お医者さんから止められちゃって…ホントなら、この事も…結婚も…ニコラスに一番に報告したかったんだけどね…それすらできなかった…」
「そ、それならあとで紹介してくれればいいさ…10年もシンシアと離れ離れだったからさ、俺にも茅ケ崎での事をシンシアに話したくって…」
「でも、3股かけてたこと以外ね?」
「3股」という言葉が、クラフティの頭頂部にグサっと刺さる。どうやらアンニンとガレットから事前に吹き込まれていたようだ。

 食器を片付けに厨房へ戻ったシュトーレンは、クラフティとトリュフの様子に安堵の表情を示す。厨房ではみるく、トルテ、友菓の3人が料理を作っており、ガレットはかき氷用の氷を準備している最中だ。
「親父…おにぃと賢者様の事だけど…」
「ニコラスも、シンシアも、セーラに過酷な運命背負わせたけど、あいつらなりにセーラの幸せを願っているんだよ。自分ができなかった事、セーラにさせたいんじゃねぇかな?結婚式どころか、お前がセレーネのお腹の中で育った様子を見られなかった俺みてぇに…」
「親父…そう言う言い方だと、「カオスのせいで一生一度の機会を逃した」って言ってるようなものだからね?」
 大勇者の頭頂部に、娘の言葉が深く刺さった瞬間だった。

 今日も海の家は大盛況だ。ネロの呼び込みによって、ネロを男の人だと思い込んだ海水浴客が集まり、メイド服と水着を合わせたような恰好に興味を示した海水浴客も段々と海の家に集まる。特にお昼はピークの時間帯であり、友菓の冷やしわかめラーメンを選ぶ者、ガレットのシーフードカレーを選ぶ者がいる一方、みるくのフルーツゼリー、トルテのらいおんオムそばは子供達に高評価を得ている。
「かき氷とソフトクリームも割といい線いってるよなー?」
「ネロがかき氷機1台壊した以外はね?」
 ユキはボネにそう言うと、ボネが作ったかき氷をトレーに乗せ、テーブル席に運んでいく。

「かき氷の抹茶白玉、マンゴー、メロン、お待たせしましたー!」
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