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勇者クラフティ編

第18話「勇者様は女子高生!迫る体育教師の魔の手」②

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 翌日、サン・ジェルマン学園高等部1年C組…担任の石狩太美いしかりふとみは、ホームルームで生徒達にある人物を紹介することになった。

「えー、元々通信課程受講者の生徒なのですが、親御さんの同意の上、本日より1週間ほど皆さんと一緒に授業を受ける事となった生徒を紹介します。首藤さん、入りなさい。」



「ガラッ…」



 女教師からの紹介を受け、1人の女子生徒が通学カバンを肩にかけたまま教室に入る。炎のような真紅のロングヘアーに、黒いリボンで両サイドを少量括り、制服の上からでも大きさが判別できてしまうほどの豊満バストに、まるで実在する人物なのか疑わしいほどの端正な顔立ちの少女が、教師の近くまで歩き、教師の真横についたと同時に、黒板に白いチョークで自分の名前を記す。

「今日から1週間、皆さんと勉学を共にすることになりました、首藤まりあです。」

「首藤さんは、食堂によく行く生徒には顔なじみである首藤さんの娘です。みなさん、仲良くしてくださいね。」



 そんな女勇者は授業自体はなんとかついていくものの、古文と漢文だけはなかなかついていけないようだ。

『フランスの古文ならわかるのに…』

 その反面、英語と体育は大活躍で、それは高等部で体育を受け持つ江津ごうつ先生も、彼女のテニスの腕前はテニス部顧問として一目置くほどだった。



 そんな首藤まりあの話題は高等部だけにはとどまらず、中等部にまで広まる。

白石しろいしさん、聞いた?高等部1年の首藤まりあの話…」

「知ってる、知ってる。英語はペラペラで、高等部テニス部のエースにサーブの1つも許さない程に打ち負かしたって子でしょ?」

「白石、よく知ってるなぁ…」

「中等部の生徒会長だぞー、高等部の噂くらい、嫌でも耳に入るわい!」

 中等部3年C組の教室。玉菜たまなはクラスメイト達に囲まれながら、彼らの話を聞いている。そんな彼女の様子を、1人の女子生徒が見つめる…ティラミスもとい、汀良瑞希てらみずきだ。



『「首藤まりあ」…元々高等部通信課程の受講生で、父親は食堂職員の首藤和真しゅとうかずま。学業に関しては、古文以外は文武両道と言ったところでしょうか…』



 他の生徒達に見つからないよう、瑞希はスマートフォンを操作する。まずは父親である首藤和真のビミスタグラムをのぞき込む。彼の書き込みには、一昨日までの書き込みで「首藤まりあ」の存在を匂わす書き込みは存在していない。



『どうにも不自然極まりないです…それに、「首藤まりあ」の姉にあたる「首藤聖奈」と、兄にあたる「首藤聖一郎」も、本当に首藤和真の娘と息子なのか怪しいところ…』



 マカロンから「首藤和真」が41歳であることは確認済みで、発言には「勇者」を強調する部分が幾つか存在するという事も、ティラミスは知っている。



『一度、確認を取ってみるしかありませんね…』



 そう呟きながら、瑞希はスマートフォンを机の中にしまい込む。今も生徒会長と他のクラスメイトとの会話に飛び交う「首藤まりあ」の話題…それに触れる生徒会長の言動も、少しばかり怪しく感じる…





「………」





 放課後になり、時の人と化した「首藤まりあ」もとい、シュトーレンは高等部の敷地に駐輪している父親のバイクへと駆け寄る。

「少しは馴染めそうか?「マ・リ・ー・」…」

「古文以外は…ね?」

 そう言いながら、シュトーレンは父親から白いフルフェイスのヘルメットを受け取る。慣れた仕草でヘルメットを被ると、シュトーレンはバイクにまたがる父親の後ろにつき、バイクに乗る。ガレットの運転免許証は原付、自動二輪車以外に中型までの自動車も運転可能となっているが、交通手当の手続きの際に自動二輪車と申請したため、バイク通勤である。娘である勇者シュトーレンが高校生の姿となっている現在は、後ろに娘を乗せる形で2人乗り通勤をすることになったのである。



 自宅に戻ると、昼間の営業を終えたトルテが、2人の帰りを待つ。

「おかえりなさいっス!」

「ただいま…トルテ、そっちはどうだった?」

 そう言いながら、シュトーレンは制服のブレザーを脱ぐ。

「まぁ、何とか1人で捌けたっス…無言電話が来たときは焦ったっスけど…」

 トルテの言葉に、勇者親子は狐に顔をつままれたような顔をする。

「姉さんのアンドロイドがフォローしてくれて、助かったっス。勿論、犯人はこの通り特定…」

 キョーコせかんどの筆跡で記されたA4版の報告書を見せながら話すトルテのセリフを遮るかのように、大勇者はその報告書を奪い取る。そこに記されていたのは、無言電話があった時間帯と、発信先の電話番号、そしてその所有者…



「これは…間違いないんだろうな?」

 大勇者の険しい声に、トルテは思わず息を呑む。

「姉さんのアンドロイドと確認しました。間違いないっス…」

 トルテの言葉に、ガレットはすぐさまムッシュ・エクレールに連絡を取り、無言電話があった時間帯に何をしていたのか聞き出す。丁度その時間帯は、一悟達のクラスは英語の授業だったので…

「今日の英語の授業中、ユキくんってば居眠りしてて…丁度この時間帯だったかな。ユキくんの居眠りがムッシュ・エクレールにバレたの…」

 たまたま様子を見に来たみるくの言葉に、勇者親子は納得するしかなかった。大体、教師が授業中に固定電話を使って無言電話をするなど、問題行為そのものだ。



 勇者親子が中等部の養護教諭である僧侶を疑わなかったのは、昔から銭ゲバであること以外は信頼できる存在であり、何かあれば家主であるシュトーレン、もしくはガレットにLIGNEりーにゅで連絡するため、職場の固定電話でカフェに連絡することは一切ないからである。



「中等部の中に、勇者とマジパティの事でここを怪しんでいる奴がいるかもしれない…みるく、一悟と雪斗にも伝えてくれ。俺達も元々言動には注意していたが、学校内でも十分に警戒する。」

 険しい表情を浮かべながら話す大勇者の表情に、みるくは息を呑む。

「はいっ!!!」

「ブラックビターのマカロンとティラミスが、それぞれ「漆山うるしやまマコ」、「汀良瑞希てらみずき」として中等部にいる事は、俺も認識済みだ。この他の幹部が学校にいる可能性も否定できない…油断はするなよ?」

 大勇者の言葉にみるくは黙って頷き、そのまま夕方以降の営業の準備を手伝う。夕方の開店が始まり、しばらくしてみるくは極真会館での練習を終えた一悟と合流。勇者達と軽く挨拶をしてから、2人はカフェをあとにした。
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