上 下
18 / 21
キミのこと

今度こそはアンタを

しおりを挟む


僕が元の場所へ戻った頃。

とてつもないさわぎが起こっていた。

その中でヒソヒソとこそめき合っているもの達が。

〝「誰かが脱走したってよ」〟

〝「マジかよ…どこの命知らずだ?」〟








自らの世界にうとい僕でも分かった。

それは禁忌きんきを犯してしまった者達の総称そうしょう




誰かが世界をげ、別世界に渡った愚か者おろ もの達の事だ。

別世界___……。
そう聞いて僕はふるえた。

僕は扉をまたいだ。
その先にアイツがいて、僕はそこでかの時を過ごした。







そう。







脱走者とは、無知がゆえに迷い込んでしまった僕の事だった。







それだけではなかった。むしろそれだけの方が良かった。



〝「ブッチのやつ、変な動物拾ったらしいぜ?どうも威勢いせいがいいメスだとか」〟

変な動物と聞いて僕は耳を向けた。
ここには色んな動物ヤツが居る為、大体の動物は把握しているつもりだったから、それ以外で知らないヤツとはなんだと不思議ふしぎに思ったからだ。

〝「そいつ毛が頭以外に生えてないっていうヘンテコな動物らしくてさ。」〟

そう聞いてアイツが浮かんだ。

ゲートは1つ。僕が通ったあれがゲートで、もしもそれが禁忌となる扉として、その近くを通りかかるとしたら……___。




(くそ……!何やってるんだ僕は……!!)

これでは強くなるとか守るとか。そういうの以前に僕が元凶げんきょうのようなものだ。



ここに居るやつは牙と爪の使い方を忘れた奴らではある。たしかに。


けれど。



魔法というものが特化とっかしたこの世界ではそれ以上に危険なものは沢山たくさんある。

それは僕らの住むこの大陸が魔素まそで満ちているから出来ることで。

あいつの居たあの世界でのの比では無い。

ましてやアイツが抵抗ていこう出来るなんて思えない。



「アイツだけでも帰さなくちゃ。」

僕はどうやら、あいつの事をいたく気に入ってしまっているみたいだ。





…………。


……。

あいつの存在は巧妙こうみょうに隠されてて見つけるまでに時間がかかってしまい、見つけた頃には、数日位った気分になっていた。

多分それくらい経ってる。
ここには朝も夜も無いから分からないけれど。



どうやらアイツは意識を失って眠っているらしい、と僕は小耳こみみはさんだ。


意識を取り戻し次第と。


逃がす為にとかは口実こうじつに、ただアイツに会いたかっただけなんだと思う。いや、逃がしたいのも事実だけどさ。


(もう、一緒に居られないって言わないと。僕といると危険だから)

「ショック、受けないといいな。」




もう会えないから。
お別れだけは……、そう願った僕だったけれど。









現実はもっと非情ひじょうだった。







「……あなた、だあれ?」





違う。……違った。

匂いは同じ陽だまりのまま。
僕の目の前には知らないがいた。


でも。瞳は同じまま。僕を真っ直ぐ見るそれはアイツを思わせる。


(なんで……。)
どうしてそうなったのか分からない。
あいつの種族は、厄災を産んだ〝人間〟という生き物だった。いやそんな事はどうでもいい。ただ……


アイツは僕を


「アンタが僕に名前付けてくれたら信じるよ。」


また馬鹿な事やってて、そのうち思い出したりとかするんだろ。

そうなんでしょ?



もう置いてったりしないから。呼んでよ。あの音で。



信じたくなくて。
いぶかしげなその瞳で見られたくなくて。すがるしかなかった。



〝カカオ〟あの不思議な、柔らかい声と音で呼ばれたくて。


「じゃあ……ヨル!!」



嗚呼ああ神様。僕は今までアンタのことなんか信じたこと無かったよ。

けど今だけは、信じさせて。祈らせて。



(アイツを返して。)


帰ってきた音は僕の予想してたものとは違うものだった。






この気持ちを僕はこっちに来てから感じてた。痛くて、苦しくて、身体が空っぽとはまた違う空っぽ。





(会いたい。)





守りたいのに守らせてくれなくて。






(僕を呼んで。僕を見て。)






あの音が分からないから教えられないけど。






(僕だけを大事にしてよ。)




初めて温もりというものを受けて、僕は馬鹿になってしまったらしい。


アンタを考える度に暖かくなって。



(アンタは僕を見て暖かく笑うから。)




アンタといる度になって。



(優しい手ででてくれるから。)



アンタのその顔をずっと見たくて。



(その音で僕を呼んで欲しくて。)



なんでか少し見ただけのアンタの泣くとこなんて見たくなくて。



(ずっと暖かいアンタと居たいから)


だから、壊したくないんだ。








(なんで、今気付くんだよ……!!!)






「僕にそんなふうに触るな……!!」

けど、嫌だって、僕を拒まないって、そういうアンタがいるなら。







(逃げて。)





「知ってた?猫って所有欲と独占欲がすごく強いんだよ。」










ごめん。もう、アンタを離してあげられない。


(こいつは僕のだ。誰にも何に変えても奪わせ死なせはしない。)











ぐちゃぐちゃにこんがらがった欲望のすえ

そう、僕は決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...