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何とかを探して三千里とはよく言ったものだ

どうしてこうなった。

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診療所での疑問など途中で記憶の彼方へやって、今晩の食事は何にしよう。カカオは寂しがってはいないだろうか。

そんな事を考えながら帰宅した私。

「ただいまー!」

待ち構えているだろう子猫に満面の笑みを向けるべく表情筋をトレーニングして。……いざよし!!
しかし玄関扉を開けてすぐ、私は違和感に気づく。

「…カカオー…?」


静かだ。

「寝てるのー?カカオの好きなオヤツ買ってきたよー?」

家の明かりをつけて、早鐘はやがねをうつ心臓を叱り付けながら私は家中を練り歩き小さな黒い影を探した。




おかしい。

「カカオー!出ておいでー!!」


段々と焦りも出てくる。

それはそうだ。
私にとって彼は唯一の癒しであり家族なのだ。

(おかしい。いつもなら玄関先で出迎えてくれるとても賢い猫のはずで、けれど姿は見えない。…外に出た?まって、そしたら何処から?きちんと戸締りもしたのよ?)

見つかることを祈ってさらに細かく探したが、残念ながら見つかったのは庭へ続く縁側えんがわのガラス製の引き戸が開いたままの状態になっている空間のみだった。

「うそ……」

私は先刻までの自分を叱りつけたくなった。医者に事情を説明して一緒に連れていくとか、戸締りを確認するとか。もっともっとやれる事はあったのに。

いやわかってる。そのどれもこなす事が事柄ことがらや、完璧に出来ること等、ひとり暮らしにしてみればかなり無理に近い事柄なのだから。いやそれよりも

野犬の姿が脳裏のうりに焼き付いた。

(もしも、カカオがひとりぼっちであの野犬に遭遇したら……?)

勝手に嫌な予感の想像力が、働いてしまう。

「探さなくちゃ。」

もう大事なものを失わない為に。私は夜空色の猫を探しに出かけたのだった。





「カカオー!」

庭の先にまだ居るのではという淡い期待を胸に、私の声を聞くとかけよってくる黒い猫の名前を呼びかける。


何度か呼んでいると、ふと猫の声がした。

「……カカオ?」


そして足を1歩踏み出した私は……




私の視界は、




時は一瞬のように感じられたが、目を覚ました私の目の前には広大で真っ暗な森の中だった。

いや、




どうしてこうなった。



(いや、まって、どうして私こんな所にいるの?あれからどれくらい経ったの?スマホはどこ?)

懐中電灯かいちゅうでんとう代わりにしていたスマホを探すも見つからずにいた。

それにしてもどうしてここにいるのか脈絡がさっぱり分からない。

家の近所にはちょっとした林とか、田んぼとかはあるド田舎だけど、森は無かったと記憶している。


そして視界が暗転する前に聞こえたあの猫の鳴き声も聞こえた。

「この鳴き声」

似ていたけれどカカオの声はもうワントーン低く、アルトボイス。これはどちらかと言うとソプラノくらい高い。

なんとなく、気になって近づいた私は生唾なまつばを飲み込んだ。

「あれ大きさが…?」



鳴き声だと思ってたそれは鼻歌のようにリズムが整っていて、それはまるで気分の良い人間がするような……。

ありえないものを見た人間は見て見ぬふりをするらしいが、その通りだと思う。

事実私もそうしようとしたのだから。


「だぁれー?」

なにかの声に呼び止められなければ。


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主人公、一体何に呼び止められたんでしょうね……。
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