満智子の愉しみ

菅野鵜野

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映画館の満智子

➀ 女友達

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 久しぶりに、女子大時代の友人から連絡があって、銀座でランチをする事になった。
 
 待ち合わせの喫茶店には、既に友人が座っていた。
「満智子!  」
 そう手を振る裕子を見て、私は一瞬で悟った。ああ、旦那の愚痴かしらね、と。

 案の定、彼女は二人の子供に恵まれた後、パッタリと旦那との交渉がなくなってしまったのだとか。
「満智子はやっぱり綺麗ね。子供産んでいないからかしら」
 それ、マウント取ってるつもりかしら。
 だいたい、そんな箸にも棒にもかからない地味で中庸な如何にも主婦ファッション、魅力ないわよ。
 
 だいたい裕子は女子大時代、男が切れたことがない程のいい女だったのに。
 髪も荒れてるし、化粧のノリも悪そう。疲れが前面に出ていて……何年か前の私と一緒ね。

「満智子、昔はもっとお堅い服ばっかり着てたのに……胸なんか、溢れそうじゃん」
 今日の私の服は、V 字に大きく開いた胸元から一直線にボタンが裾まで並んでいるニットのロングワンピース。黒だから大人っぽいし、腰の線もはっきりわかるから、ヒールを履くとつい、歩く時にお尻が揺れちゃう。
「そういうのでも着ないと、旦那はその気にならないのかしら」
 
 ああ、いるいる。レスだからって、突然エロい下着つけて旦那を誘おうとする奴。
 ダメダメ、下の下よ。
「フェロモンないのにどうやって誘うのよ」
「フェロモンったって……今日も子供達が学校から帰ってきたらもう、戦争よ。色気なんてとっくに……」
「馬鹿ね、作るのよ、育てるの」

 私も、そうだったもの……でも、若い頃に着なかった大胆なワンピースを通販で買ったのをきっかけに、ちょっと勇気を出して冒険するだけで、こんなに自分が拓けるだなんて思わなかった。
「ま、裕子次第だけどね」
 
 膝の上まで開けていたボタンを、もう一つ開けて、私は脚を組み替えた。
「み、見えるわよ」
「良いのよ。見たければ見れば。女だけが隠にこもる必要はないわ。あなたもまだまだ綺麗な身体しているのよ。どんどん見せて、触ってもらいなさいよ」
「さ、触って? 」
 
 私はそれ以上は何も言わずに、裕子を映画館に誘った。
 よくあるエロ小説のような、いかにもな映画館ではなく、ごく普通の、ドル箱映画がかかっている様なシネコン。
 
 で、渋い時代劇を選ぶと、案の定、空いてる会場内にはおじさまがちらほら。

 スクリーンの方から、これ見よがしに腰を振りながら階段を上る。もちろん、ボタンは際どいところまで開けて。
 太ももを見せつけながら最後列の席に座る。
 二つ開けた隣に裕子はオドオドしながら座った。

 ほら、着た。
 チャンバラが派手に始まった頃、こんなに空いているのに、ピッタリと横に吸い付く様におじさまが座った。
「お誘い、ありがとう」
 そんなつもりはないわよ。とばかりに、少し膝を開いてあげると、おじさんはすぐに太ももに手を伸ばしてきた。
 徐々に大胆に足を開いていく私を見て、裕子がギョッとした顔をしている。
 
 おじさんの手も、奥の茂みに辿り着いて、ギョッとして固まった。
「奥さん、いいねぇ……」
 そりゃそうよ。申し訳程度の面積しかないTバックしか履かないもの。ちょっとずらせば、すぐにそこはドイツの森の泉、よ。

 ああ、おじさん、上手いわ、何て指遣いなの……。

 
 

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