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ロミオとジュリエット
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幸せな気分で寝るしたくを始める。歯を磨いてパジャマに着替えて……何気ない動作なのに鼻唄が止まらない。
けれど、そんな浮かれた私を地の底へ突き落とすようなことを、風呂上がりのたろちゃんは言ってのけたのだ。
※
「え、なんて?」
思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞こえていたのに、それを上手く受け入れられなかったのだ。
「だーかーら、明日から俺、メグルちゃんと旅行でいないから。戸締りしっかりね」
お風呂上がりのたろちゃんは、濡れた髪がいつもよりセクシーだ。……じゃなくて。
「りょ、旅行? メグルちゃんって、あの子だよね? 前ここに来た……。へ、へーそーなんだ」
間違いない。二度目もやっぱり『メグルちゃんと旅行』と言っている。私と付き合っているのに、『メグルちゃん』と『旅行』……。
私は心の中を見透かされないよう、精一杯の笑顔でたろちゃんに話しかけた。
「いいなぁー。どこに行くの?」
「横浜に」
横浜……。横浜っていったら、あの港と遊園地とレンガ倉庫と……とにかく、世の恋人たちがこぞって訪れるという、いわば恋人たちの聖地。そんな場所に、私とではなく『メグルちゃん』と行くなんて。
「えーっと……旅行? ってことは、何泊かするのかなぁ? なーんて……あはは」
「二泊するよ」
『メグルちゃん』と『横浜』に『二泊』──
三本の矢が一気に私に降りかかり、私の心はズタボロだ。だけど泣くに泣けない。文句も言えない。だって──
「千春さん? 行ってもいいよね?」
試すような目付きで私を真っ直ぐ見るたろちゃん。そんなの、『行かないで』なんて言えるはずがない。言ってしまったらこの恋は終わりだもの。
「いいに決まってるじゃん」
「だよね。ありがとう。お土産買ってくるね」
笑顔でそう言うと、たろちゃんもニッコリ微笑んでくれた。ほら、これが正解だ。
あの日──私が告白した日、たろちゃんは「いいよ」という返事と、もう一つ『ある条件』を提示した。
『俺と付き合うっていうことは、どういうことかわかるよね? 千春さん』
それはこの一言に全て集約されていた。
たろちゃんがどんな風に女の子と付き合ってきたかは、一緒に暮らしてきて嫌という程知っている。彼女がいてもお構い無しに女の子と出かける、詮索や束縛を嫌う。つまり、たろちゃんと付き合うということは、彼の行動に文句を言ってはいけない、ということなのだ。
『行かないで』その一言を言ったら最後、束縛女のレッテルを貼られて振られること間違いない。
そんなの間違っている。きっと誰もがそう言うだろう。わかってるんだ、この恋に未来はないって。
でも──
ソファでくつろぐたろちゃんを横目で見る。ほんのちょっと前までは、抱きつくことも抱きしめられることも叶わなかった人。
──でも、私は一時の感情なんかでこの恋を逃したくない。あれだけ苦しんでやっと掴んだんだ。この恋がたとえ間違っていようと、この身がズタボロになろうと、私はギリギリまで彼のそばにいたい。そう、決めたんだ。
ふぅ、と息を吐き再びソファを見ると、さっき起きていたたろちゃんは静かに寝息を立てていた。本当に、すぐ寝ちゃうんだから。
どうやら今日も同じベッドでは寝れないらしい。それでも……今日はキスをされたから、一歩前進、かな。
明日と明後日と明明後日はモヤモヤ苦しいかもしれない。だけどその次の日はきっと幸せ。そんなことを思いながら、ベッドに入って電気を消した。
けれど、そんな浮かれた私を地の底へ突き落とすようなことを、風呂上がりのたろちゃんは言ってのけたのだ。
※
「え、なんて?」
思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞こえていたのに、それを上手く受け入れられなかったのだ。
「だーかーら、明日から俺、メグルちゃんと旅行でいないから。戸締りしっかりね」
お風呂上がりのたろちゃんは、濡れた髪がいつもよりセクシーだ。……じゃなくて。
「りょ、旅行? メグルちゃんって、あの子だよね? 前ここに来た……。へ、へーそーなんだ」
間違いない。二度目もやっぱり『メグルちゃんと旅行』と言っている。私と付き合っているのに、『メグルちゃん』と『旅行』……。
私は心の中を見透かされないよう、精一杯の笑顔でたろちゃんに話しかけた。
「いいなぁー。どこに行くの?」
「横浜に」
横浜……。横浜っていったら、あの港と遊園地とレンガ倉庫と……とにかく、世の恋人たちがこぞって訪れるという、いわば恋人たちの聖地。そんな場所に、私とではなく『メグルちゃん』と行くなんて。
「えーっと……旅行? ってことは、何泊かするのかなぁ? なーんて……あはは」
「二泊するよ」
『メグルちゃん』と『横浜』に『二泊』──
三本の矢が一気に私に降りかかり、私の心はズタボロだ。だけど泣くに泣けない。文句も言えない。だって──
「千春さん? 行ってもいいよね?」
試すような目付きで私を真っ直ぐ見るたろちゃん。そんなの、『行かないで』なんて言えるはずがない。言ってしまったらこの恋は終わりだもの。
「いいに決まってるじゃん」
「だよね。ありがとう。お土産買ってくるね」
笑顔でそう言うと、たろちゃんもニッコリ微笑んでくれた。ほら、これが正解だ。
あの日──私が告白した日、たろちゃんは「いいよ」という返事と、もう一つ『ある条件』を提示した。
『俺と付き合うっていうことは、どういうことかわかるよね? 千春さん』
それはこの一言に全て集約されていた。
たろちゃんがどんな風に女の子と付き合ってきたかは、一緒に暮らしてきて嫌という程知っている。彼女がいてもお構い無しに女の子と出かける、詮索や束縛を嫌う。つまり、たろちゃんと付き合うということは、彼の行動に文句を言ってはいけない、ということなのだ。
『行かないで』その一言を言ったら最後、束縛女のレッテルを貼られて振られること間違いない。
そんなの間違っている。きっと誰もがそう言うだろう。わかってるんだ、この恋に未来はないって。
でも──
ソファでくつろぐたろちゃんを横目で見る。ほんのちょっと前までは、抱きつくことも抱きしめられることも叶わなかった人。
──でも、私は一時の感情なんかでこの恋を逃したくない。あれだけ苦しんでやっと掴んだんだ。この恋がたとえ間違っていようと、この身がズタボロになろうと、私はギリギリまで彼のそばにいたい。そう、決めたんだ。
ふぅ、と息を吐き再びソファを見ると、さっき起きていたたろちゃんは静かに寝息を立てていた。本当に、すぐ寝ちゃうんだから。
どうやら今日も同じベッドでは寝れないらしい。それでも……今日はキスをされたから、一歩前進、かな。
明日と明後日と明明後日はモヤモヤ苦しいかもしれない。だけどその次の日はきっと幸せ。そんなことを思いながら、ベッドに入って電気を消した。
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