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しおりを挟むーーパキン
ユキがアスケナを呼んだ時のことだった。
その場に似つかわしくない異音が響き鳴った。
誰もが音の特定をしようと一点に目を向けて、王子たちは何の音かと腰を上げて前へと屈む。
「王女殿下!お避けください。お早く!」
「っ!?」
「「「ユキ!」」」
逸早く気付いた護衛騎士が叫ぶが間に合わず、何かが王女の上に陰った。
同時に聴きなれない爆音が響き鳴った。
その場の誰もが驚き、誰もが畏怖した。
そこに国王が立っていたのだから。
「ユキ、無事か?」
「うん?お父様ですか?」
「そうだ。怪我はないか?」
「ユキは大丈夫だよ。」
「そうかそうか。危ないから帰ろうな。お父様はちょっと仕事があるから、待っていておくれ。」
「うん!」
側に尻餅を付いていた護衛騎士に王女を預けた王は土埃を被った王子三人を起こし、護衛騎士に連れて行かせる。
保護者Side——
護衛騎士が王子と王女を連れてコロシアムから離れたことを気配で察知したガエウスはシンと静まり返ったコロシアムの中央へと目を向けた。
コロシアムに参加していた騎士団は全員が一斉に武器を捨てて待機していた。
「それで?ちょっと話を聞こうじゃないか。確か危険はなかった筈なんだが、故意に狙ったんじゃないよなぁ。」
『………』
「もし狙ったのだとしたら、褒美を出さないといけないな。誰か名乗り出るものはいるか?」
『………』
王の言葉に誰も何も言えなかった。
この場にいる騎士団の頭には「褒美=処罰あるいは処刑」となっていたため、挙手することも言葉を返す勇気もなかった。
ただ成り行きを見守り、処罰を受けるだけと腹を括っていた。
「まぁ少なくとも儂の国にそんな猛者が居るはずもないがな。処罰は追って通達する。それまでお前たち騎士団は減俸だ。幸い今回は儂が退け、誰も怪我がなかったからな。」
『はっ!』
コロシアムを後にしたガエウスは王城に登城すると、そのまま執務室へ向かおうとしていた。
だが扉を開けた先に、王女が待っていることに気が付いた。
「お父様。ご無事ですか?どこか具合、悪いですか?」
「ユキか。久しぶりだな。父様は頑丈だからな。あんなことでは怪我もしないぞ?」
「じゃあ今日は一緒に寝ようね?」
「ん?いや、まだ仕事が山積みでな。これから向かわんとならんのじゃ。悪いな。」
「むぅ。ちょっと待ってて!」
一人残されたガエウスは急ぎ足で階段を登っていく王女を眺めて困ってしまった。
王女が見えなくなると、壁に寄りかかり、目を瞑り仮眠することにした。
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