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保護者Side——

「陛下。」

「ん。何か問題でも起きたのか?」

「随分大人しく執務をされておられますが、外に出たくありませんか?」

「だーー」

ガエウスは宰相の声に少し目線を上げた。
宰相の提案にピクリと反応を示したものの、ガエウスの返事より早く王妃が反論する。

「ちょっ!私はどうなんですの!? 私も執務はこなしていますし、この人よりもやっていますわ。」

「それは少し語弊がありますよ。フェリノース様。私が解放してあげようと計画していた日に、あなたは脱走しました。よって通常の倍に増やさせていただきました。」

「なんて事してくれたの!? どうも多いと思いましたわ!そもそもが食堂の修繕も終わったのですから、もう解放してくれても良いではありませんか。」

宰相にとっては呆れて仕方がなかった。
原因が王も王妃も少し目を離せば王女のもとへ駆けつけ、王族で無ければ決済できない書類が溜まっていき、溜まった分を今まで取り掛かってもらっただけだった。
王妃に至っては、暴走した罰として王妃とは関係ない書類を増やしただけなので、実質的には元々行うべき執務に変わりはない。

「まあ。あなたの事はこの際どうでも良いです。終わりたかったら、早く終わらせていただきたいですね。」

「ふん。」

ただ問題は確かに起きていた。
書類を運んでいた執事から王ガエウスに負担が掛かっていると、報告を受けていたからに他ならない。
実際声をかけたものの、王の目は暗く、光が抜け去ったような死んだ目をしていた。
報告で偶に数少ない執務室の窓を眺めては決済をしているらしいのだが、本来ガエウスに書類仕事は苦手で常に動き回るものが多かった。

「大丈夫だ。まだまだやれる。もっと持ってきてくれないか?」

「はぁ。」

少々王妃に巻き込まれて束縛し過ぎたせいか、側から見れば王は書類を増やされても黙々と作業をするが、身近な者から見ると生気が抜けた抜け殻にしか見えない。
確実に言えるのは精神を病みつつある、という事だった。

「ん!」

ーーバキッ


◇ ◇ ◇

場所は変わり、無事にコロシアムに着き、騎士団長から見学の許可が下りた四人は観客席で、安全を期した場所から訓練を眺めていた。
中央では騎士が模擬剣で打ち合いを終え、模擬試合を行なっているところだった。

「アス兄様。騎士、強いね。」

「そうだね。僕らも数年後はなるかもしれないね。ユキは騎士は好きかい?」

「分かんない。でも私でも騎士なれるかなぁ。」

「うん。ユキは止めておこうか。きっと父上も許してはくれないだろうしね。」

「そっか。残念だなぁ。アス兄様。」

「どうしたんだい?」

「お父様はーー」
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