16 / 32
15
しおりを挟むセリアとの食事会が終わり、セリアを乗せた馬車を見送った公爵家夫妻は振り返って屋敷に戻る頃には先程までの柔らかい雰囲気から殺伐とした雰囲気に切り替わる。
公爵夫人は今回の出来事を知っている人物を広間に呼んでいた。広間には公爵家当主を始め、執事や騎士、侍女まで集められていた。
「あの令嬢に何を頼んだかは知っております。ですが、なぜ彼女なのでしょうか?もっと他にも学生は居たでしょうに、なぜ彼女、子爵令嬢なのですか!お答えください、コリン。」
「あ、ああ。他の者も居るには居たのだが、教えるのが公爵家。それも嫡男と知るや否や匙を投げてしまったのだよ。意外と貴族位が高いと困っちゃうよね、ははは。」
「では講師でもよかったのでは無いのかしら?いくらなんでも講師にくらい頼んだのですよね!?」
「ああ、頼みに行った。だが学園長からの返答は意外なものだったよ。
『この学園には私以外の講師の中で公爵家に手を出せる者はいないよ。少なくとも大人の中で、はね。 そこで相談なんだが、仮に子息と同じ学生の身でありながら、講師よりも学業に秀でている者が居る、と言ったらどうするかね? それも、下級貴族のね。公爵家が下級貴族に教えを乞うとはどうなのかな?』
…と言われたよ。誰も手を貸さないならと藁にも縋る想いで頼み込んだんだ。…そしたら、実際に居たんだよ。学園の講師ですら投げ出すほどに学業の良い生徒が。」
「それが彼女だとでも?どこにでも居る令嬢にしか見えなかったわよ。何か根拠でもあるのかしら?」
「…2つあるよ。まず1つは学園長が言うには、普段の成績が良くて、でも試験では平均点に近い成績を続けているんだ。それも毎回、中途半端な回答であるんだぞ?そんなの難しいよ、それも小さな問題ならある程度は解いて、あとは無回答とか。」
「確かに毎回取るのは難しいわね。で、もう1つはなんなの?欲が無いのはよく分かったけどね。食事でもマナー通りに食べてはいたけれど、ちょっと動きが鈍かったし。」
「彼女は見掛けだけじゃないって事と、迫力が半端ない。それに護衛もね。」
「それは、本当なの?」
「本当さ、血の気が多い騎士が居ただろ?あの騎士が帯剣の柄に手を掛けた途端、一瞬の殺気だけで尻餅をつかせたんだ。彼女の機嫌を損ねたら、どこまで行くのか怖いくらいだぞ?そこの執事に聞けば分かるだろうよ!」
「ふーん。あなたがそこまで言うなら今度来訪するから、その時に品定めしようかしらね。」
「程々にな? それにしても先程の話は本当なのかな? ベルトンが付き纏っている、っていう…」
「事実でしょう。あなたの所には伝わっていないかもしれないけれど、毎回従者から報告を受けているわ。ベルトンが1人の令嬢に悪意を持って突き回してるらしいわ。」
「なんてことだ。近々、ベルトンを呼んで事情を聞きましょうか。ふふふ…」
『はぁ…』
チャール公爵家内で夫人は高笑いしながら、侍女を連れて自室に戻っていく。その場に残った騎士や執事は何が起こるか気が気でなかった。
当主に至っては不測の事態に備えて、常駐にしている騎士を集めて、迅速に動くための用意を進める。その後、ベルトンは屋敷に帰るように催促されてから暫くして、公爵家の屋敷から悲鳴が聞こえてくるようになった。
それから数日間、ベルトンは学園を休むことになり、学園内で一時話題に上がった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?
ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。
妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。
そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…
愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?
coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。
そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。
私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?
私の妹と結婚するから婚約破棄する? 私、弟しかいませんけど…
京月
恋愛
私の婚約者は婚約記念日に突然告白した。
「俺、君の妹のルーと結婚したい。だから婚約破棄してくれ」
「…わかった、婚約破棄するわ。だけどこれだけは言わせて……私、弟しかいないよ」
「え?」
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる