5 / 32
4
しおりを挟む貧民街に近く、銀貨で払える宿屋の一室で2人組の男が話し合っている。
ベッドに腰掛け、茶色い木製のテーブルで紙に情報をまとめている。
「…間違いはないのか?仮に本当だとしたら、世間一般の令嬢が驚くどころじゃないぞ。我々組合は小娘1人に対して負けたということになるぞ!」
「間違いはないだろう。少なくともグラレス支部では組合の経営が回らず、ここ周辺での商いが動いてないらしい。領主館は我関せずといったように動いているし、子爵令嬢は自由奔放と聞いていたが、実際には商会を立ち上げているわけだ。」
疑いつつも実際のところ、領主の知らない場所で商会を立ち上げているのは間違いないだろうと考えられる。それでも警戒するに越した事はない。
「ふむ。まずは会って見ないことには何もできないし、王都の組合からの情報が正しいのであれば、何としてでも子爵令嬢が単独で立てた商会には組合に入ってもらいたいものだ。だが情報が間違っていたとしたら、我々は連帯責任で職を失う可能性すらありえる。」
「だからこそ、会えるなら今日中に会っておきたいのが。さて、どう出てくるか…」
(コンッコンッ)
「誰だ、食事は要らないと言ってあった筈だが?それとも何か用事があるのか?」
話し合っていた2人組は扉をノックする音を聞き、扉の向こう側にいるだろう給仕に話しかけるが…
「すまん、商会の者だ。商会長より言伝を預かったので、今しがた来たところだ。」
「ああ、すまん。それで商会長は何と言っていたのかな?」
「明日なら会えるだろうとの事だ。それで大丈夫だろうか?…何かあれば商会長に伝えておこう」
「いや特には…
「今日じゃ駄目なのか?それとも何か隠し事があるのではないか?」
「…では『この話は無かった』ことにしよう。こちらも別に話すことがある訳ではないしな、では私はこれで…」
扉の向こう側から低い声で言われたことで一瞬だけ言葉に詰まってしまったが、なんとか踏み止まって扉を開き、去って行く男を引き止めた。
「…なっ!
「ちょちょっと待ってくれないか!」
「…なんですかな。こちらは早く主人のもとに戻りたいのだが、何かあるなら早く話してほしい。」
「…っ、明日会おうか。相方が挑発して悪かったよ、此度のことは水に流してほしい。なんなら、その商会長に謝罪をしても良いから。な?」
「それは主人が決めることだ、私が決めることではない。だが先ほどのことも商会長の命令だ、もしも今日会おうと言い出すなら断って来ても構わない、とね。」
一人の令嬢を小娘と侮っていたがまさか断りの言伝まで用意していることに、2人の男は恐ろしく思えてしまった。なぜなら商業組合からの「話」と聞いただけで、これまで誰もが飛びつく者が多かったのが原因だった。この商会の商会長には注意が必要だと改めて決意した瞬間だった。
「むっ…、すまなかった。」
「では、明日会うことを商会長に伝えておこう。時間は日が天辺になった頃合い、でどうだろうか?」
「ああ、それで頼む…いや、頼みたい。」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?
ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。
妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。
そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…
愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?
coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。
そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。
私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?
私の妹と結婚するから婚約破棄する? 私、弟しかいませんけど…
京月
恋愛
私の婚約者は婚約記念日に突然告白した。
「俺、君の妹のルーと結婚したい。だから婚約破棄してくれ」
「…わかった、婚約破棄するわ。だけどこれだけは言わせて……私、弟しかいないよ」
「え?」
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる