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生まれた環境関係なく、誰もが魔力を持って生まれる時代。
ある伯爵家に生まれた少年の魔力測定の日がやってきた。
白いローブで身を纏った神官が声を掛けてくる。
「次の者。こちらへ。」
親と思われる男と幼い少年が、神官の前に立つ。
「私がこの子の父だ。名はカイルだ。」
「では魔力を測定させていただきます。」
男は頷き、祈るように目を瞑る。
「うむ。」
それほど時間を置かず、声を掛けられ、頭を上げた。
「あの…。」
「なんだ?もう終わったのか?」
「この子に、魔力は、ありません。まさか現存する方がいらっしゃるとは思いませんでした。」
男は神官の言葉に狼狽える。
「なん…だと…。」
「非常に言いにくいのですが、何も感じられません。もし必要であれば、本部に連絡を…」
「いや。すまない。これで帰らせていただく。行くぞ、カイル。」
その後、伯爵はあまりのショックに寝込んでしまった。
それから伯爵家は社交界の表舞台から姿を消し、領地に引き篭もるような生活が始まった。
あの出来事から10年が経ち、当時少年だった男児は成人を迎えた。
10年の間、伯爵家の抱える騎士によって、体術や武術といった魔力を使わなくても扱える術を叩き込まれたカイルは、その日、父である伯爵から一つの命を受けるのだった。
「カイルよ。成人おめでとう。」
「はい。父上。」
「今日まで培った知識は、この日のためにあったと思え。お前には辛いだろうが、我が伯爵領に接する森へ赴き、魔物をテイムしてくるのだ。」
カイルは確認するように、父へ質問を投げた。
「テイムですか?」
「そうだ。魔力を持たないお前は一体のテイムが限界だろうと、これまでは避けてきた。だが成人を迎えた今、没落の一手を迎える我が家に生まれた宿命とも言えるだろう。」
実際、あの日から領民に見限られ、代々懇意にしていた商会以外は大半が去ってしまっている。
「はい。」
「私のように魔力が有れば、魔力値によって何体でもテイムができるのだが。お前は魔力を持たないからな。」
父である伯爵も一応とはいえ、多くの魔物を従えているが、見栄を張って竜種に手を出した結果、今では従魔が減っている。
これも領民が減っている原因の一端とも言えるだろう。
「はい。でも魔力がない状態でも、一体だけはできますもんね。」
貴族にとって、魔物のテイムは一種のステータスであり、強ければ強いほど見方が強くなる。
「そうだ。既に手遅れかもしれないが、箔付けのため、弱くても構わんから何かテイムをしてきてくれないか。」
「はい。必ずや、我が家が復興できるような魔獣をテイムしてきます!」
意気揚々に宣言するカイルを前に、過去のトラウマからか必死に宥める父は父であった。
魔物と魔獣の違いは、知能が低いから高いかの差である。
高ければ高いほど、種としてのプライドが高く、テイムがし辛い傾向が強い。
「いや。まだ没落してないからな?それと魔獣じゃない、魔物だからな。分かったな?分かっているな?魔獣には手を出すんじゃないぞ?ーー」
急に心配し出した父を執務室に置いたカイルは外套を纏って外へと繰り出した。
外には二頭の馬と同伴する騎士が待っていた。
「お待ちしてました。では、参りましょうか。」
「うん。父上も鼓舞してくれたからね。できるだけ強い魔獣をテイムしたいなぁ。」
「ハハハ。そうですな、何か良い魔物が居れば良いのですが。」
一行は旅立ち、森へ入った途端、護衛を撒いたカイルは気配を感じ取りながら、奥へ奥へ足を踏み進めた。
獰猛な魔物を避け、臆病な魔物はカイルの圧に怯えて逃げる事で何者にも会うことなく進んでしまった。
同伴していた騎士がいれば、止めてくれたかもしれないが、一人であるカイルは無断である魔獣の領域へ踏み入れていた。
(ーーイッ!?)
生い茂る木々から開けた場所に出たカイルだったが、そこにいたのは魔獣の中でも中位に位置する魔狼だった。
だが襲ってくる気配はなく、威嚇するだけで起き上がってこなかった。
それは身体中に怪我を負っていたがために、身動きが取れないせいだった。
『人の子が、我らに何のようだ。』
「あっ。こんにちは!僕、カイルって言います。」
『『『はっ?』』』
これがカイルと魔狼の出逢いであった。
ある伯爵家に生まれた少年の魔力測定の日がやってきた。
白いローブで身を纏った神官が声を掛けてくる。
「次の者。こちらへ。」
親と思われる男と幼い少年が、神官の前に立つ。
「私がこの子の父だ。名はカイルだ。」
「では魔力を測定させていただきます。」
男は頷き、祈るように目を瞑る。
「うむ。」
それほど時間を置かず、声を掛けられ、頭を上げた。
「あの…。」
「なんだ?もう終わったのか?」
「この子に、魔力は、ありません。まさか現存する方がいらっしゃるとは思いませんでした。」
男は神官の言葉に狼狽える。
「なん…だと…。」
「非常に言いにくいのですが、何も感じられません。もし必要であれば、本部に連絡を…」
「いや。すまない。これで帰らせていただく。行くぞ、カイル。」
その後、伯爵はあまりのショックに寝込んでしまった。
それから伯爵家は社交界の表舞台から姿を消し、領地に引き篭もるような生活が始まった。
あの出来事から10年が経ち、当時少年だった男児は成人を迎えた。
10年の間、伯爵家の抱える騎士によって、体術や武術といった魔力を使わなくても扱える術を叩き込まれたカイルは、その日、父である伯爵から一つの命を受けるのだった。
「カイルよ。成人おめでとう。」
「はい。父上。」
「今日まで培った知識は、この日のためにあったと思え。お前には辛いだろうが、我が伯爵領に接する森へ赴き、魔物をテイムしてくるのだ。」
カイルは確認するように、父へ質問を投げた。
「テイムですか?」
「そうだ。魔力を持たないお前は一体のテイムが限界だろうと、これまでは避けてきた。だが成人を迎えた今、没落の一手を迎える我が家に生まれた宿命とも言えるだろう。」
実際、あの日から領民に見限られ、代々懇意にしていた商会以外は大半が去ってしまっている。
「はい。」
「私のように魔力が有れば、魔力値によって何体でもテイムができるのだが。お前は魔力を持たないからな。」
父である伯爵も一応とはいえ、多くの魔物を従えているが、見栄を張って竜種に手を出した結果、今では従魔が減っている。
これも領民が減っている原因の一端とも言えるだろう。
「はい。でも魔力がない状態でも、一体だけはできますもんね。」
貴族にとって、魔物のテイムは一種のステータスであり、強ければ強いほど見方が強くなる。
「そうだ。既に手遅れかもしれないが、箔付けのため、弱くても構わんから何かテイムをしてきてくれないか。」
「はい。必ずや、我が家が復興できるような魔獣をテイムしてきます!」
意気揚々に宣言するカイルを前に、過去のトラウマからか必死に宥める父は父であった。
魔物と魔獣の違いは、知能が低いから高いかの差である。
高ければ高いほど、種としてのプライドが高く、テイムがし辛い傾向が強い。
「いや。まだ没落してないからな?それと魔獣じゃない、魔物だからな。分かったな?分かっているな?魔獣には手を出すんじゃないぞ?ーー」
急に心配し出した父を執務室に置いたカイルは外套を纏って外へと繰り出した。
外には二頭の馬と同伴する騎士が待っていた。
「お待ちしてました。では、参りましょうか。」
「うん。父上も鼓舞してくれたからね。できるだけ強い魔獣をテイムしたいなぁ。」
「ハハハ。そうですな、何か良い魔物が居れば良いのですが。」
一行は旅立ち、森へ入った途端、護衛を撒いたカイルは気配を感じ取りながら、奥へ奥へ足を踏み進めた。
獰猛な魔物を避け、臆病な魔物はカイルの圧に怯えて逃げる事で何者にも会うことなく進んでしまった。
同伴していた騎士がいれば、止めてくれたかもしれないが、一人であるカイルは無断である魔獣の領域へ踏み入れていた。
(ーーイッ!?)
生い茂る木々から開けた場所に出たカイルだったが、そこにいたのは魔獣の中でも中位に位置する魔狼だった。
だが襲ってくる気配はなく、威嚇するだけで起き上がってこなかった。
それは身体中に怪我を負っていたがために、身動きが取れないせいだった。
『人の子が、我らに何のようだ。』
「あっ。こんにちは!僕、カイルって言います。」
『『『はっ?』』』
これがカイルと魔狼の出逢いであった。
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