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第10話

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 ユメガッコーはその後、あたしが起きている昼間は活動を止めて、夜になってあたしが寝ると動きだすのを繰り返し、目的地に向かってちょっとずつ進んでいった。
 エルドラはいくつかの島が点在している世界らしい。カマカマ先生が昼間の授業で教えてくれた。なんでも、前はちゃんと大陸もあったけど、ここ百年でちょっとずつ水没しているんだって。
 ホバークラフトみたいに海を渡り、夜のうちに最寄りの島へ移動し、昼間はその島で授業。カマカマ先生は教鞭を執りつつ、学校の整備に毎日忙しい。
 そうそう。かすみんとラミラミ先生も、あれからちょくちょくあたし達の邪魔をしに学校へ侵入してくるようになっていた。
 そのたびに、あたし達と戦って追い返されるのが日課になっているんだけど。
 何度追い返しても性懲りもなくやってくるんだから、すごい根性だと思う。あと、相当ヒマなんだろうね、あの二人。
 そんなこんなで、常になにかしら問題が発生して忙しい毎日だけど。
 みんなと一緒に旅をするのはなんだか楽しくって、時間はあっという間に過ぎていった。



 たびが始まって五日が過ぎた、ある日のお昼過ぎ。
 あたし達は浜辺の綺麗な島にやってきたので、休み時間にビーチバレーをすることになった。
 ずっとお作法の勉強だったりコスチュームの制作ばかりで窮屈だからとカマカマ先生に相談したら、わりとすんなり許可が下りた。なので生徒達はさっそく水着に着替え、学校を飛び出し青い渚を走り回った。
 ……もちろんあたしは生首だし、みずっちに波打ち際まで運んでもらったんだけどね。
 眺めたり髪で砂遊びするだけでも、海はそこそこ楽しかった。
 でもやっぱり、みんなでできる海らしい遊びをしたいね! とあたしが提案したところ、急遽ビーチバレー大会が開催されることになった。
 大会は大盛り上がりのまま、いよいよ最終戦。
 相手コートから放たれたスパイクを、若葉ちゃんが見事受け止めて浮かせた。

「若葉ちゃん、ナイスレシーブだよ!」

 華麗なプレイに、あたしは思わず声を上げた。
 するとつきのんが、若葉ちゃんの動きに合わせるようにしてトスする。

「行きますわよ、若葉さん!」
「はぁい!」

 若葉ちゃんがふんわりと応えたのも束の間。
 バスン!
 若葉ちゃんの鋭いスパイクが炸裂! 相手コートへ打ち込まれた。
 けどその進路状にはみずっちがいて、あたしとみずっちの視線がかみ合う。

「みずっち! 取って!」

 コクンと軽く頷いた直後、みずっちは落ち着いてレシーブを成功させる。
 みずっちとチームを組んだ生徒が、それをよろめきながらもトス。
 いい場所に浮いた! またあたしとみずっちの目が再び合う。

「いいよ、みずっち! 全力でこーい!」

 あたしが叫ぶと、みずっちは高く飛んでスパイクを叩きつける!

「やあっ!」

 ボスン!!

「ぶへっ!」

 あまりの衝撃に思わずあたしは悲鳴を上げちゃう。
 レシーブの体勢に入っていたつきのんのすぐ横を、鋭いスパイクが駆け抜けた。
 ボール……と言うかボール代わりのあたしは、二回ほど砂浜をバウンドして転がる。

「試合終了! 勝者、高坂チーム!」

 審判を務めていた生徒が高らかに宣言した。



「くぅ……無念ですわ」

 歓声が轟く中、砂浜にガクッと崩れ落ちるつきのん。よほど本気だったみたい。
 でもみずっちの方が一枚上手だったね。親友として誇らしい。
 みずっちはあたしを拾い上げると、髪や頬にベッタリついた砂を払ってくれた。

「ごめんね、痛くなかった?」
「ううん、ぜんぜん!」

 実際、痛くはなかった。あの悲鳴も、痛みというよりは衝撃に驚いて出ちゃっただけだし。

「かっこよかったよ、みずっち! スポーツ選手も顔負けだね!」
「……そんなこと、ない。お世辞は止めてほしい」

 ちょっと暗い顔つきになってみずっちが言った。
 お世辞じゃなくって、本当にそう思っただけなんだけど……。
 ともあれこれで、ビーチバレーはいったん終了。水着姿の女の子が動き回るのは、あたしも同じ女の子だけど、かわいくって眼福だったなぁ……。
 つきのんは水着から零れそうなぐらいふよんふよん揺れ動いてたし……。
 若葉ちゃんは水着モデルさん並みの抜群なプロポーションだったし……。
 みずっちは引き締まったスレンダーボディがとっても眩しかったし……。

「いやー、海って楽しいね!」

 あたしが素直な感想を口にして、みずっちが微笑み返してくれた。
 その時だった。

「楽しい夏休みこそ、しっかり己を磨いて他の生徒と差をつけるチャンスです。わかりましたか? カスミ君」
「はい、ラミエル先生」

 いつの間にかラミラミ先生とかすみんが、夏期講習の先生と生徒みたいなやり取りで現れた。

「うわあ! また現れた!」

 あたしはビックリして叫んじゃった。
 本当に神出鬼没だなぁ、この人達……。
 いつの間にやってきたんだろう?

「またあなた達ですのね! 性懲りもなく! 今日だって、いつも通り追い返して差し上げますわ!」

 つきのんが全校生徒を代表して前に出ると、ラミラミ先生はギラギラの太陽を反射させつつ言った。

「性懲りもなくてけっこうです。あなた方の心を折り、女王への謁見を阻止する。そのためなら何度でも蘇ります。
諦めず回答欄を埋めていけば、0点になんてならないのですよ」

 ……ラミラミ先生の言っている意味がよくわからない。
 でもそんな野暮なツッコミなどさせてくれなそうな雰囲気で、ラミラミ先生が続けた。

「さあ、カスミ君! 今日こそ彼女たちをこの受験戦争から蹴落としてやりなさい!」
「はい! 任せてください!」

 かすみんがザッと砂を鳴らして前に出てくる。
 ちなみに彼女も、上はシャツを着ていたけど下は水着姿だった。
 受験戦争とか言いつつ、実は夏の海をエンジョイしてたんじゃん。

「ところでぇ、今日の勝負はなにで決めるんですかぁ?」

 若葉ちゃんが当然のように質問する。
 ラミラミ先生とかすみんは、なにかにつけてパンツを盗みあたし達の心を折ろうと、日中に襲いかかってくる。
 普通に魔導器を使ったバトルに発展することもあったけど、それじゃ不利とわかってからは、毎回趣向を凝らした……というか変な形式の戦いを申し込んでくるようになった。
 最近だと『パンツカルタ』とか、『障害パンツリレー』とかが奇抜だったかな? ルールはしっちゃかめっちゃか過ぎて忘れちゃったけど。とにかくすんごい試合だったのは覚えてる。
 今日も今日とて、そんな感じの試合を申し込んでくるんだろうと思って、ラミラミ先生の反応を待つ。

「そうですね。ここは南国、そしてビーチ。先ほど皆さんがビーチバレーに興じていたように、ビーチにちなんだ競技にしようかと思います」

 どうやらビーチバレーの様子は普通に見ていたらしい。

「あたし達がビーチバレーやってるの知ってたなら、混ざればよかったのに。その方が手っ取り早く勝負始められたんじゃない?」

 あたしが言うと、周りのみんなもうんうんと頷いた。
 でも、ラミラミ先生は肩をすくめて反論した。

「私達がここへ到着した時点で数試合こなしていた皆さんは、すでにウォーミングアップはすんでいました。ですがこちらは違います。あなたがたの土俵で勝負することほど、愚かなことはない……よって、その提案は0点ですね」

 なんと。提案に0点も百点もあったなんて、あたし知らなかったよ。
 すると、あたしを抱えているみずっちがラミラミ先生を睨んだ。

「いいから。今日の勝負のルール、早く教えて」
「せっかちですねぇ……まあ、いいでしょう」

 ラミラミ先生は肩をすくめた。
 やがて、大げさなポーズで発表された今日の試合形式は、

「本日の勝負は名付けて! 『魔法あり、どつきあり、高確率でポロリもあるかもね!? 水着女子たちのビーチフラッグ対決』です!!」

 なんともハイカラでバラエティ感満載な勝負だった。
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