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第1話:加速していく勘違い、妄想、そして恋心
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「…………」
碧が立ち去った後、怜央と幸人は口をポカンと開いたまま、呆然と立ち尽くしていた。原因は先程の碧の言葉だ。
怜央は、碧への好意が明らかにわかる自身のセリフを、碧本人に聞かれたかと焦っていた。しかし、それと同時にチャンスだとも思っていた。
__自分の気持ちがバレたのならいっそ……。
そう思い、玉砕覚悟で碧に告白した。近くにいた幸人も、色々言いたい気持ちを飲み込んで碧の答えを待っていた。
けれど彼の口から出たのは、2人の想定を遥かに越える答えだった。
『……あの、ぼくは先輩方の邪魔をするつもりはないんです……。むしろぼくは、先輩方の応援をしていますから!』
言葉の意味を聞く前に碧は立ち去ってしまい、怜央と幸人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔のまま、その場に残されてしまった。
「……今の、どう思う?」
微妙な空気が流れる中、先に沈黙を破ったのは幸人の方だった。
怜央は顎に手を当て、少し考え込む様子を見せた後、推理物に出てくる名探偵のごとく、パチンと指を鳴らした。
「あれは櫻木ちゃんからの挑戦と見たね」
「挑戦……?」
怪訝な表情で幸人は聞き返す。
「俺の告白に櫻木ちゃんは肯定も否定もせずに、『邪魔をするつもりはない、応援する』と言った……。つまり、『ぼくのことがすきなら力づくでモノにしてみろ』ってことだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる怜央。しかし、幸人は怜央の推測に納得できなかった。
「……いや、あの櫻木くんがそんな挑発するかな?礼儀正しくて上下関係の対応もしっかりできてる子なのに……」
「甘い甘い。さっきも言ったろ?櫻木ちゃんはああ見えて、先輩に物怖じしない強気な子なんだよ」
「いやだからって……」
なお反論しようとする幸人だったが、何かを思いついたのか不意に押し黙った。
「……何にせよ、櫻木くんが怜央の告白を受けていないなら、ぼくにもまだチャンスがある、ということか……」
地面に向かって落とされた呟き声。それを聞いてるか否か、怜央はキョトンとした顔で首を傾げている。
意を決したような顔で、幸人は怜央と向き合った。
「……怜央。君はさっき言ったね。櫻木くんを好きな気持ちは誰にも負けないって。他のやつには渡さないって」
「……あぁ、それが?」
「ぼくも同じだ。……たしかに怜央の言うように、惚れた理由は単純なのかもしれない。それでも、ぼくは櫻木くんが好きだ。彼のことをもっと知りたいし、彼の隣に立つ権利がほしい。……これは、僕の心からの願いだ」
「…………」
まっすぐで澄んだ瞳。その純粋さは、幸人の幼なじみである怜央はよく知っている。
しばらく目を見開かせて幸人を見つめたあと、怜央はククッ、と喉奥で笑った。
「決まりだな、俺らは今日から恋のライバルだ。櫻木ちゃんがどっちを選んでも、恨みっこなしだぜ?」
「……あぁ、臨むところだ」
互いに歯を見せて笑みを浮かべる2人。けれど、2人のいる場にはピリリとした緊迫感のある空気が漂っていた。
一方その頃__。
「『……ユキ。俺がおまえを思う気持ちは誰にも負けねえ。他のやつなんかには渡さない!』『ぼくも同じ気持ちだよ、レオン。ずっと君の隣にいる権利がほしい』……クライマックスのセリフはこんな感じかなー……」
自分がとんでもない勘違いをしていることも、自分を巡る恋の戦いが始まったことも知らない碧は、新作のBL小説の展開についてブツブツ呟きながら、自宅への帰路を歩いていた。
こうして、妄想好き腐男子を巡る勘違いラブストーリーは幕を開けたのだった。
【第一話 END】
碧が立ち去った後、怜央と幸人は口をポカンと開いたまま、呆然と立ち尽くしていた。原因は先程の碧の言葉だ。
怜央は、碧への好意が明らかにわかる自身のセリフを、碧本人に聞かれたかと焦っていた。しかし、それと同時にチャンスだとも思っていた。
__自分の気持ちがバレたのならいっそ……。
そう思い、玉砕覚悟で碧に告白した。近くにいた幸人も、色々言いたい気持ちを飲み込んで碧の答えを待っていた。
けれど彼の口から出たのは、2人の想定を遥かに越える答えだった。
『……あの、ぼくは先輩方の邪魔をするつもりはないんです……。むしろぼくは、先輩方の応援をしていますから!』
言葉の意味を聞く前に碧は立ち去ってしまい、怜央と幸人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔のまま、その場に残されてしまった。
「……今の、どう思う?」
微妙な空気が流れる中、先に沈黙を破ったのは幸人の方だった。
怜央は顎に手を当て、少し考え込む様子を見せた後、推理物に出てくる名探偵のごとく、パチンと指を鳴らした。
「あれは櫻木ちゃんからの挑戦と見たね」
「挑戦……?」
怪訝な表情で幸人は聞き返す。
「俺の告白に櫻木ちゃんは肯定も否定もせずに、『邪魔をするつもりはない、応援する』と言った……。つまり、『ぼくのことがすきなら力づくでモノにしてみろ』ってことだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる怜央。しかし、幸人は怜央の推測に納得できなかった。
「……いや、あの櫻木くんがそんな挑発するかな?礼儀正しくて上下関係の対応もしっかりできてる子なのに……」
「甘い甘い。さっきも言ったろ?櫻木ちゃんはああ見えて、先輩に物怖じしない強気な子なんだよ」
「いやだからって……」
なお反論しようとする幸人だったが、何かを思いついたのか不意に押し黙った。
「……何にせよ、櫻木くんが怜央の告白を受けていないなら、ぼくにもまだチャンスがある、ということか……」
地面に向かって落とされた呟き声。それを聞いてるか否か、怜央はキョトンとした顔で首を傾げている。
意を決したような顔で、幸人は怜央と向き合った。
「……怜央。君はさっき言ったね。櫻木くんを好きな気持ちは誰にも負けないって。他のやつには渡さないって」
「……あぁ、それが?」
「ぼくも同じだ。……たしかに怜央の言うように、惚れた理由は単純なのかもしれない。それでも、ぼくは櫻木くんが好きだ。彼のことをもっと知りたいし、彼の隣に立つ権利がほしい。……これは、僕の心からの願いだ」
「…………」
まっすぐで澄んだ瞳。その純粋さは、幸人の幼なじみである怜央はよく知っている。
しばらく目を見開かせて幸人を見つめたあと、怜央はククッ、と喉奥で笑った。
「決まりだな、俺らは今日から恋のライバルだ。櫻木ちゃんがどっちを選んでも、恨みっこなしだぜ?」
「……あぁ、臨むところだ」
互いに歯を見せて笑みを浮かべる2人。けれど、2人のいる場にはピリリとした緊迫感のある空気が漂っていた。
一方その頃__。
「『……ユキ。俺がおまえを思う気持ちは誰にも負けねえ。他のやつなんかには渡さない!』『ぼくも同じ気持ちだよ、レオン。ずっと君の隣にいる権利がほしい』……クライマックスのセリフはこんな感じかなー……」
自分がとんでもない勘違いをしていることも、自分を巡る恋の戦いが始まったことも知らない碧は、新作のBL小説の展開についてブツブツ呟きながら、自宅への帰路を歩いていた。
こうして、妄想好き腐男子を巡る勘違いラブストーリーは幕を開けたのだった。
【第一話 END】
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