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第1話:加速していく勘違い、妄想、そして恋心
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校舎裏へ急ぐ碧。ここで一度、友沢幸人からの視点で、2人の密会を見てみよう。
________
「それで、怜央……話って?」
放課後、『大事な話があるから』と突然校舎裏へ連れ出されたぼくは、連れ出した本人、幼なじみの怜央に切り出した。
「LINEじゃダメだったのかい?」
「あぁ。……やっぱこういうのは、面と向かって言わなきゃダメだろ、幸人」
「変なとこで真面目だな、きみは」
「オレはいつだって真面目だろ?」
いつものようにへらっと笑いながら、冗談かなのか本気なのかわからない声色で怜央は言う。
けれど、その笑顔はすぐに、真剣な表情へ塗り替えられた。
「単刀直入に言うが__幸人、お前櫻木ちゃんのこと好きだろ」
「……っ!どうしてそう思うの?」
突然の怜央の発言に、ぼくは一瞬目を開かせた後、平然を装い聞き返す。我ながら白々しい口調だった。
すると怜央は、先程の陽気な笑顔とは違う、口元のみつり上がった不敵な笑顔で言った。
「何年の付き合いだと思ってんの?櫻木ちゃんを見る表情を見てすぐにピンときたわ」
『隠してるつもりだった?バレバレ』と、あからさまのやれやれポーズをしながら笑う怜央。ぼくは観念したように、ふーっ、と息をつく。
「そっか……怜央には気付かれてたか……でもぼくが櫻木くんが好きなことは、怜央には関係ないだろ?」
「大ありだよ、バカ」
ぼくより背の高い彼は、見下ろす形でぼくを睨みつけ、吐き捨てるように言い返した。
心做しか、その顔はほんのりと赤い。
「俺だって……だよ……」
「……ん?」
声があまりにも小さかったために、首を傾げて聞き返す。その仕草をムキになったのか、怜央は今度は大きな声で言った。
「俺だって好きなんだよ!!櫻木ちゃんが!!」
…………。
「へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
今なんと言った?好き?怜央が……櫻木くんを?
頭の中でさまざまな情報がぐるぐると回る。けれど次第に回転は緩やかになっていき、情報はぼくの頭の中で綺麗に整頓された。
「……ふふふっ、そっか、なるほど」
自然と笑いが込み上げてきてしまう。怜央は急に笑い出したぼくに、変なものでも見るような目を向けている。
「んだよ急に笑い出して、気持ちわりぃな」
「あははっ、ごめんごめん。……“だからぼくが櫻木くんと話している時に、きみが何かと間に割って入ってきたのか”って思ったら、ついね?」
未だに笑い声を収めることができずに、口元に手を当てながらぼくはそうかえす。
……そう、いつからだっただろうか。怜央はぼくが櫻木くんと話していると、いつも茶々を入れてきた。『幼なじみの俺の方が付き合い長いのに、櫻木ちゃんばっか構ってずるい』、と。
たしかに怜央とは幼い頃からの付き合いだったから、一緒にいる時は多かった。
しかし、今までぼくが誰と話をしようが遊ぼうが、あんなわかりやすく子供っぽい嫉妬する様を見せることはなかったはず。
だからずっと怜央の行動が不可解だったのだが……。ようやく理解した。
構って欲しかったのは僕にじゃない。櫻木くんに、だったんだ。
櫻木くんがぼくと楽しそうに話すのがおもしろくなくて。少しでも櫻木くんの興味をぼくから自分の方にそらしたくて。今までずっと茶々を入れてきたのだろう。
『ぼくに構って欲しかった』なんて嘘をついて。
「……っ、相変わらず余裕そうな顔しやがって……」
ぼくが何を考えているのかを察したのか、怜央はイタズラがバレた子供のように、バツが悪そうにしている。
頬はますます赤くなっているように見えた。
「ひとつ聞いてもいいかい?」
「なんだよ?」
「怜央はいつから櫻木くんのことが好きだったんだ?正直、ぼくと知り合いということ以外、2人に接点があったとは思えないんだけど……」
学年が違うこともあって、2人が話す機会はあまりなかったはず。実際、ぼくと櫻木くんが話している時に怜央が割り込んでるところは何度も見たことあったが、櫻木くんと怜央が話しているところは見たことがなかった。
怜央が櫻木くんを好きになったタイミングはいつだったのか?
そんな疑問を怜央にぶつけてみれば、怜央は腕を組みながら話し始める。
「……あの子、前にすげーガラわりぃ3年生に言いがかりつけられたことがあってさ。完全に向こうの不注意なのに、『お前がぶつかったせいで制服が汚れたからクリーニング代払え』って」
それを目撃した時の怜央の気持ちを表すように、彼の眉間にはシワが寄っている。でも、不意に思い出し笑いをするように、表情がふっと緩んだ。
「でもさ、櫻木ちゃんは一歩も引かなかった。相手は自分よりも背ェ高くてガタイがいい奴なのに、全然物怖じしないで言い返しててさ。……大人しそうな顔して、あんな風にズバッと言える強気なところが、なんか気に入っちまってさ」
『あ、ちなみにその馬鹿共は俺が追い払ってやったぜ』と、怜央はサムズアップしている。
……しっかりしてる子だとは思っていたけど、想像以上に強い子だったんだな……。少しも気づかなかった。
「そういうお前は?櫻木ちゃんに付きまとうようになったきっかけとかあんの?」
「付きまとうって……人をストーカーみたいに言うんじゃない」
怜央の発言にため息混じりにツッコミを入れたあと、少し間をあけてぼくは話し始めた。
「図書室に行った時、調べ物に困っている様子の櫻木くんを見かけて……放っておけなくて声をかけたんだ。……その時、彼がみせた笑顔が……その、脳に焼き付いて離れなくなってしまって……」
脳裏に浮かぶは、まるで花が咲いたかのようなふわりとした、あの日の櫻木くんの笑顔。それを思い出すと、不思議と頬が熱くなってしまうのを感じる。
……が、ハッ、とバカにするような怜央の笑い声に、その熱はすぐに冷めた。
「おまえって頭硬そうに見えてほんって単純だよな~。将来変なツボを売りつけられたりしないか、不安だわ~」
「……はぁ。きみのその焦りをごまかすために他人を煽るくせ、やめた方がいいよ。かえってみっともないから」
「は?」
彼の挑発に動じることなく冷静に言い返せば、ぼくの怒りを煽ろうとした怜央の方が逆にムキになる始末。
そして、ずいっとぼくとの距離を詰めて言った。
「言っておくけど、俺が好きだって気持ちは誰にも負けねえ。絶対に振り向かせてみせる。ほかのやつなんざ渡してたまっか!!」
__ドサッ。
……怜央が全てセリフを言い切ると共に、何かが落ちる音がした。ぼくと怜央は、反射的にそちらに目をやる。
そこにいたのは__。
「!?」
__落としたカバンに目もくれず、呆然と立ち尽くす櫻木くんの姿だった。
________
「それで、怜央……話って?」
放課後、『大事な話があるから』と突然校舎裏へ連れ出されたぼくは、連れ出した本人、幼なじみの怜央に切り出した。
「LINEじゃダメだったのかい?」
「あぁ。……やっぱこういうのは、面と向かって言わなきゃダメだろ、幸人」
「変なとこで真面目だな、きみは」
「オレはいつだって真面目だろ?」
いつものようにへらっと笑いながら、冗談かなのか本気なのかわからない声色で怜央は言う。
けれど、その笑顔はすぐに、真剣な表情へ塗り替えられた。
「単刀直入に言うが__幸人、お前櫻木ちゃんのこと好きだろ」
「……っ!どうしてそう思うの?」
突然の怜央の発言に、ぼくは一瞬目を開かせた後、平然を装い聞き返す。我ながら白々しい口調だった。
すると怜央は、先程の陽気な笑顔とは違う、口元のみつり上がった不敵な笑顔で言った。
「何年の付き合いだと思ってんの?櫻木ちゃんを見る表情を見てすぐにピンときたわ」
『隠してるつもりだった?バレバレ』と、あからさまのやれやれポーズをしながら笑う怜央。ぼくは観念したように、ふーっ、と息をつく。
「そっか……怜央には気付かれてたか……でもぼくが櫻木くんが好きなことは、怜央には関係ないだろ?」
「大ありだよ、バカ」
ぼくより背の高い彼は、見下ろす形でぼくを睨みつけ、吐き捨てるように言い返した。
心做しか、その顔はほんのりと赤い。
「俺だって……だよ……」
「……ん?」
声があまりにも小さかったために、首を傾げて聞き返す。その仕草をムキになったのか、怜央は今度は大きな声で言った。
「俺だって好きなんだよ!!櫻木ちゃんが!!」
…………。
「へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
今なんと言った?好き?怜央が……櫻木くんを?
頭の中でさまざまな情報がぐるぐると回る。けれど次第に回転は緩やかになっていき、情報はぼくの頭の中で綺麗に整頓された。
「……ふふふっ、そっか、なるほど」
自然と笑いが込み上げてきてしまう。怜央は急に笑い出したぼくに、変なものでも見るような目を向けている。
「んだよ急に笑い出して、気持ちわりぃな」
「あははっ、ごめんごめん。……“だからぼくが櫻木くんと話している時に、きみが何かと間に割って入ってきたのか”って思ったら、ついね?」
未だに笑い声を収めることができずに、口元に手を当てながらぼくはそうかえす。
……そう、いつからだっただろうか。怜央はぼくが櫻木くんと話していると、いつも茶々を入れてきた。『幼なじみの俺の方が付き合い長いのに、櫻木ちゃんばっか構ってずるい』、と。
たしかに怜央とは幼い頃からの付き合いだったから、一緒にいる時は多かった。
しかし、今までぼくが誰と話をしようが遊ぼうが、あんなわかりやすく子供っぽい嫉妬する様を見せることはなかったはず。
だからずっと怜央の行動が不可解だったのだが……。ようやく理解した。
構って欲しかったのは僕にじゃない。櫻木くんに、だったんだ。
櫻木くんがぼくと楽しそうに話すのがおもしろくなくて。少しでも櫻木くんの興味をぼくから自分の方にそらしたくて。今までずっと茶々を入れてきたのだろう。
『ぼくに構って欲しかった』なんて嘘をついて。
「……っ、相変わらず余裕そうな顔しやがって……」
ぼくが何を考えているのかを察したのか、怜央はイタズラがバレた子供のように、バツが悪そうにしている。
頬はますます赤くなっているように見えた。
「ひとつ聞いてもいいかい?」
「なんだよ?」
「怜央はいつから櫻木くんのことが好きだったんだ?正直、ぼくと知り合いということ以外、2人に接点があったとは思えないんだけど……」
学年が違うこともあって、2人が話す機会はあまりなかったはず。実際、ぼくと櫻木くんが話している時に怜央が割り込んでるところは何度も見たことあったが、櫻木くんと怜央が話しているところは見たことがなかった。
怜央が櫻木くんを好きになったタイミングはいつだったのか?
そんな疑問を怜央にぶつけてみれば、怜央は腕を組みながら話し始める。
「……あの子、前にすげーガラわりぃ3年生に言いがかりつけられたことがあってさ。完全に向こうの不注意なのに、『お前がぶつかったせいで制服が汚れたからクリーニング代払え』って」
それを目撃した時の怜央の気持ちを表すように、彼の眉間にはシワが寄っている。でも、不意に思い出し笑いをするように、表情がふっと緩んだ。
「でもさ、櫻木ちゃんは一歩も引かなかった。相手は自分よりも背ェ高くてガタイがいい奴なのに、全然物怖じしないで言い返しててさ。……大人しそうな顔して、あんな風にズバッと言える強気なところが、なんか気に入っちまってさ」
『あ、ちなみにその馬鹿共は俺が追い払ってやったぜ』と、怜央はサムズアップしている。
……しっかりしてる子だとは思っていたけど、想像以上に強い子だったんだな……。少しも気づかなかった。
「そういうお前は?櫻木ちゃんに付きまとうようになったきっかけとかあんの?」
「付きまとうって……人をストーカーみたいに言うんじゃない」
怜央の発言にため息混じりにツッコミを入れたあと、少し間をあけてぼくは話し始めた。
「図書室に行った時、調べ物に困っている様子の櫻木くんを見かけて……放っておけなくて声をかけたんだ。……その時、彼がみせた笑顔が……その、脳に焼き付いて離れなくなってしまって……」
脳裏に浮かぶは、まるで花が咲いたかのようなふわりとした、あの日の櫻木くんの笑顔。それを思い出すと、不思議と頬が熱くなってしまうのを感じる。
……が、ハッ、とバカにするような怜央の笑い声に、その熱はすぐに冷めた。
「おまえって頭硬そうに見えてほんって単純だよな~。将来変なツボを売りつけられたりしないか、不安だわ~」
「……はぁ。きみのその焦りをごまかすために他人を煽るくせ、やめた方がいいよ。かえってみっともないから」
「は?」
彼の挑発に動じることなく冷静に言い返せば、ぼくの怒りを煽ろうとした怜央の方が逆にムキになる始末。
そして、ずいっとぼくとの距離を詰めて言った。
「言っておくけど、俺が好きだって気持ちは誰にも負けねえ。絶対に振り向かせてみせる。ほかのやつなんざ渡してたまっか!!」
__ドサッ。
……怜央が全てセリフを言い切ると共に、何かが落ちる音がした。ぼくと怜央は、反射的にそちらに目をやる。
そこにいたのは__。
「!?」
__落としたカバンに目もくれず、呆然と立ち尽くす櫻木くんの姿だった。
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