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目を開けたとき、私はカーテンに囲まれたベッドの上にいた。
唐突な場面転換にもかかわらず、私はきちんと状況を理解していた。
体を起こして左手を見ると、丁寧に包帯が巻かれている。
それが、記憶の中の出来事が現実であったことを教えてくれる。
ここまで頭がはっきりしているということは、私が今いる場所は学校の医務室だろう。
「起きたようですね。気分は?何があったのか、覚えていますか?」
「気分はいいです。私が何をしたのかも覚えています」
衣擦れの音を聞いたらしい校医が、カーテンを開けて顔を出す。
顔色を確認されたり、脈拍を測られたりしながら、校医から問われたことに目を見てはっきりと答える。
「グレアム・ジェインビーが君をここまで運んできました。その時、君はもう気を失っていたことと、運んでくる途中に意識を回復しなかったことだけが、不幸中の幸いです」
「グレアムは、どうして」
「この学校が導入している警備システムはジェインビー家の系列会社ですからね。暗証番号が漏れていたのでは?」
最悪に近い事態だ。
教師か警備員が発見したのであれば、すべてをなかったことにするのも簡単だったのに。
「退学ですか?」
「まだどうなるかはわかりません。事情や状況を考慮して、会議は紛糾しています。……君は、何も悪くありませんし、学校側が要求した通りに生活しています。ジェインビーのことは、ジェインビー自身がイレギュラーを起こしたのであって、君の責任ではない。けれど、君が一般的に考えて危険な人間であると認定されているのも事実です」
その言葉を、冷静に受け止める。
「さあ、まだ休んでいてください。というより、眠りなさい。案外、睡眠不足が引き起こした事態なのかもしれませんよ?この一週間の睡眠時間はどれぐらいですか?」
「5時間、あるかないかです」
正直に答えると、校医は思いっきり顔を顰めた。
「そんな生活では、遅かれ早かれ過労死しますよ?あなたはまだ成長期の人間です」
この校医は、その真面目なセリフの虚しさを理解しながら、いつもいつも私に向かって言葉をかけることをやめない。
「知っています」
「知っていてやるのなら、君は愚か者です」
それも、知っています。
そう答えるのは、やめておいた。
やがて、久しぶりの心地よい睡魔が、私の思考を絡めとった。
次に目覚めたときには、眠った時から日付をまたいだ昼近くだった。
私がいるため、同じく学校に泊まり込みになった校医から、料理の乗ったトレーを差し出されたが、食欲は相変わらずなく、半分も食べずに下げてもらった。代わりに、サプリメントがいくつも渡される。
それを飲み切ったあと、校医が私に下された処分を伝えた。
「10日間の停学です。それから、現在のスケジュールについても改善指導が出ました」
あの死体については、当然のように語られない。
私も、聞きはしない。
罪に問われることもないだろう。
結局あれは、なかったことになるわけである。
異常なことでもなんでもなく、当然の帰結として。
唐突な場面転換にもかかわらず、私はきちんと状況を理解していた。
体を起こして左手を見ると、丁寧に包帯が巻かれている。
それが、記憶の中の出来事が現実であったことを教えてくれる。
ここまで頭がはっきりしているということは、私が今いる場所は学校の医務室だろう。
「起きたようですね。気分は?何があったのか、覚えていますか?」
「気分はいいです。私が何をしたのかも覚えています」
衣擦れの音を聞いたらしい校医が、カーテンを開けて顔を出す。
顔色を確認されたり、脈拍を測られたりしながら、校医から問われたことに目を見てはっきりと答える。
「グレアム・ジェインビーが君をここまで運んできました。その時、君はもう気を失っていたことと、運んでくる途中に意識を回復しなかったことだけが、不幸中の幸いです」
「グレアムは、どうして」
「この学校が導入している警備システムはジェインビー家の系列会社ですからね。暗証番号が漏れていたのでは?」
最悪に近い事態だ。
教師か警備員が発見したのであれば、すべてをなかったことにするのも簡単だったのに。
「退学ですか?」
「まだどうなるかはわかりません。事情や状況を考慮して、会議は紛糾しています。……君は、何も悪くありませんし、学校側が要求した通りに生活しています。ジェインビーのことは、ジェインビー自身がイレギュラーを起こしたのであって、君の責任ではない。けれど、君が一般的に考えて危険な人間であると認定されているのも事実です」
その言葉を、冷静に受け止める。
「さあ、まだ休んでいてください。というより、眠りなさい。案外、睡眠不足が引き起こした事態なのかもしれませんよ?この一週間の睡眠時間はどれぐらいですか?」
「5時間、あるかないかです」
正直に答えると、校医は思いっきり顔を顰めた。
「そんな生活では、遅かれ早かれ過労死しますよ?あなたはまだ成長期の人間です」
この校医は、その真面目なセリフの虚しさを理解しながら、いつもいつも私に向かって言葉をかけることをやめない。
「知っています」
「知っていてやるのなら、君は愚か者です」
それも、知っています。
そう答えるのは、やめておいた。
やがて、久しぶりの心地よい睡魔が、私の思考を絡めとった。
次に目覚めたときには、眠った時から日付をまたいだ昼近くだった。
私がいるため、同じく学校に泊まり込みになった校医から、料理の乗ったトレーを差し出されたが、食欲は相変わらずなく、半分も食べずに下げてもらった。代わりに、サプリメントがいくつも渡される。
それを飲み切ったあと、校医が私に下された処分を伝えた。
「10日間の停学です。それから、現在のスケジュールについても改善指導が出ました」
あの死体については、当然のように語られない。
私も、聞きはしない。
罪に問われることもないだろう。
結局あれは、なかったことになるわけである。
異常なことでもなんでもなく、当然の帰結として。
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