23 / 23
川人 雷打
7
しおりを挟む
作り方はそんなに難しくなくて最初の土日で出来上がった。あんまり作っても材料費とかが申し訳ないから、3個作った中で利章の好きな天の川が一番きれいにできてる物にした。
どれをあげようかは決まったけど、どうやって渡そうかが決まらない。ずっとカバンに入れてるから割れないか心配で若干挙動不審。
学校の帰りも里比斗さんが駅まで迎えに来てくれる。兄ちゃんの方が遠くから帰って来るから俺は少し時間に余裕がある。
少しだけ遠回りになる道を選んだ。利章が俺を庇ってくれた道。
カーブミラーに利章が映った。鏡越しに目が合ってるっぽいけど利章は動かない。お互い一人だから今なら渡しやすいって思って駆け寄ると、利章は「やっぱり」って言った。何が?
「女子たちに言われたんだ。『雷ちゃんは信号のタイミングとか車のウィンカーとかよく見てるから、あの場所なら自転車が来てることもカーブミラーできっと分かってた。余計な事しないで』って」
「なんだよそれ」
確かに気付いてたけど、そんな言い方するなんて!
「余計な事だなんて思ったこと一秒もない!
もしかしてそんなこと信じて俺のこと避けてたのか?」
利章が不思議そうに聞き返してきた。
「え?雷打が俺のこと避けてたんじゃないか。もう面倒みきれないって嫌になったんだろ?」
なんだその発想。パラレルワールドにでも迷い込んだ気分だ。
「ちょっと引っ張っただけでケガする俺に呆れたんだと」
利章が盛大に首を振った。
「俺も馬鹿力だけど、自転車に気付いて雷打が動こうとしたのと同じタイミングと方向に引っ張ったせいもあるだろうって。柔道とか合気道とかみたいな状態になったんだろうって壮二さんが」
「壮二さん?」
誰?
「ジムの人。今ジムに通ってるんだ。俺がどれくらい力を入れたら何キロくらいの力になるかを勉強してる。人はこうされると動きにくいとか動いちゃうとか。
だから、もうすぐ誕生日だし、プレゼント下さい」
握手を待つように右手を出して90度にお辞儀をする利章。
トンボ玉を今渡すべきなのかなって思ったら続きがあった。
「仲直りを下さい!」
突然のかわいさに唇が勝手にピクピク動いてしまう。
まっすぐ伸びている掌を握ったらそっと握り返された。頭を上げて照れてるようなちょっと得意げな顔。
「今20キロくらいで握ってる。握手の平均が25キロなんだって」
「25キロにしてみて」
利章が俺の顔を窺いながら力を入れる。
「これくらい」
「うん、ちょうどいい。今までだって痛かったことないよ。その壮二さん?が言った通り、タイミングが悪かっただけだよ」
利章が首を振る。
「せっかく力があるんだから、それでも守れるくらいになるよ」
俺の手を握ったまま嬉しそうな可愛さと決意のかっこよさがある利章。なんか言い辛いな。
「でも渡したい物があるから、ごめん離していい?」
「あ、ああ、ごめん」
カバンからハンドタオルで包んだ小箱を出して渡す。
「俺が作ったんだ。誕生日プレゼントにしようと思って。開けてみて」
素直に開けながらも表情が曇る。
「職業体験、一緒に行こうって約束した」
「うん。ここにする?」
「ん?」
「ん?」
「勝手に行っちゃったから避けられてるどころか約束までナシにされたのかと」
「職業体験をするのは進路が確定した人のうちの希望者だけなんだから、まだ二年生なのにやるわけないだろ。しかも授業じゃない日に。
これは夏目先生が個人的に紹介してくれただけだよ」
利章は力が抜けたようにしゃがみこんだ。
「そうなんだ~」
「いいから開けてみろって」
箱の中身を見ると凄い勢いで立ち上がった。
「夜空だー!」
「これなら眠くならないで見てられるだろ?」
「すげー!天の川まである!すげー!」
かわいくてもっと見ていたかったけど、里比斗さんと兄ちゃんが待ってるからそこで別れた。
普通こう思う、みんなも自分と同じように思ってるなんて決めつけちゃいけないんだ。
俺を預かることはできないって薮さんは思ってないかもしれない。
俺が続けたいと思ってることも薮さんには予想外なのかもしれない。
ちゃんと言わなきゃ。
家に着いたら工房の明かりが消えていた。今日は早めに上がったんだ。玄関を開けたらちょうど水風呂から作務衣姿の薮さんが出てきた。
「お帰りなさい」
「ただいま~」
先に家に入った兄ちゃんが元気に答える。先頭の里比斗さんの声はかき消された。里比斗さんは気にせず階段を上がっていく。
兄ちゃんが振り向いて「トンボ玉渡せたって言っておいで」ってだけ小声で言って階段を上がっていった。
「うん」
まっすぐ自分の所へ来た俺の顔を、言葉を待つように少し首を傾げて見る薮さん。
「トンボ玉、渡せました」
薮さんの表情が少し柔らかくなった。
「良かったですね」
「ありがとうございます」
どうしよう、なんて言ったらいいんだろうって思ってたら薮さんの上げた右手が俺の頭に乗った。
「明日からは基本に戻って練習しましょうね」
居間に向かう薮さんの背中に頑張って声を出す。
「はい!よろしくお願いします!!」
言わなきゃ伝わらないことばかりでもないらしい。
どれをあげようかは決まったけど、どうやって渡そうかが決まらない。ずっとカバンに入れてるから割れないか心配で若干挙動不審。
学校の帰りも里比斗さんが駅まで迎えに来てくれる。兄ちゃんの方が遠くから帰って来るから俺は少し時間に余裕がある。
少しだけ遠回りになる道を選んだ。利章が俺を庇ってくれた道。
カーブミラーに利章が映った。鏡越しに目が合ってるっぽいけど利章は動かない。お互い一人だから今なら渡しやすいって思って駆け寄ると、利章は「やっぱり」って言った。何が?
「女子たちに言われたんだ。『雷ちゃんは信号のタイミングとか車のウィンカーとかよく見てるから、あの場所なら自転車が来てることもカーブミラーできっと分かってた。余計な事しないで』って」
「なんだよそれ」
確かに気付いてたけど、そんな言い方するなんて!
「余計な事だなんて思ったこと一秒もない!
もしかしてそんなこと信じて俺のこと避けてたのか?」
利章が不思議そうに聞き返してきた。
「え?雷打が俺のこと避けてたんじゃないか。もう面倒みきれないって嫌になったんだろ?」
なんだその発想。パラレルワールドにでも迷い込んだ気分だ。
「ちょっと引っ張っただけでケガする俺に呆れたんだと」
利章が盛大に首を振った。
「俺も馬鹿力だけど、自転車に気付いて雷打が動こうとしたのと同じタイミングと方向に引っ張ったせいもあるだろうって。柔道とか合気道とかみたいな状態になったんだろうって壮二さんが」
「壮二さん?」
誰?
「ジムの人。今ジムに通ってるんだ。俺がどれくらい力を入れたら何キロくらいの力になるかを勉強してる。人はこうされると動きにくいとか動いちゃうとか。
だから、もうすぐ誕生日だし、プレゼント下さい」
握手を待つように右手を出して90度にお辞儀をする利章。
トンボ玉を今渡すべきなのかなって思ったら続きがあった。
「仲直りを下さい!」
突然のかわいさに唇が勝手にピクピク動いてしまう。
まっすぐ伸びている掌を握ったらそっと握り返された。頭を上げて照れてるようなちょっと得意げな顔。
「今20キロくらいで握ってる。握手の平均が25キロなんだって」
「25キロにしてみて」
利章が俺の顔を窺いながら力を入れる。
「これくらい」
「うん、ちょうどいい。今までだって痛かったことないよ。その壮二さん?が言った通り、タイミングが悪かっただけだよ」
利章が首を振る。
「せっかく力があるんだから、それでも守れるくらいになるよ」
俺の手を握ったまま嬉しそうな可愛さと決意のかっこよさがある利章。なんか言い辛いな。
「でも渡したい物があるから、ごめん離していい?」
「あ、ああ、ごめん」
カバンからハンドタオルで包んだ小箱を出して渡す。
「俺が作ったんだ。誕生日プレゼントにしようと思って。開けてみて」
素直に開けながらも表情が曇る。
「職業体験、一緒に行こうって約束した」
「うん。ここにする?」
「ん?」
「ん?」
「勝手に行っちゃったから避けられてるどころか約束までナシにされたのかと」
「職業体験をするのは進路が確定した人のうちの希望者だけなんだから、まだ二年生なのにやるわけないだろ。しかも授業じゃない日に。
これは夏目先生が個人的に紹介してくれただけだよ」
利章は力が抜けたようにしゃがみこんだ。
「そうなんだ~」
「いいから開けてみろって」
箱の中身を見ると凄い勢いで立ち上がった。
「夜空だー!」
「これなら眠くならないで見てられるだろ?」
「すげー!天の川まである!すげー!」
かわいくてもっと見ていたかったけど、里比斗さんと兄ちゃんが待ってるからそこで別れた。
普通こう思う、みんなも自分と同じように思ってるなんて決めつけちゃいけないんだ。
俺を預かることはできないって薮さんは思ってないかもしれない。
俺が続けたいと思ってることも薮さんには予想外なのかもしれない。
ちゃんと言わなきゃ。
家に着いたら工房の明かりが消えていた。今日は早めに上がったんだ。玄関を開けたらちょうど水風呂から作務衣姿の薮さんが出てきた。
「お帰りなさい」
「ただいま~」
先に家に入った兄ちゃんが元気に答える。先頭の里比斗さんの声はかき消された。里比斗さんは気にせず階段を上がっていく。
兄ちゃんが振り向いて「トンボ玉渡せたって言っておいで」ってだけ小声で言って階段を上がっていった。
「うん」
まっすぐ自分の所へ来た俺の顔を、言葉を待つように少し首を傾げて見る薮さん。
「トンボ玉、渡せました」
薮さんの表情が少し柔らかくなった。
「良かったですね」
「ありがとうございます」
どうしよう、なんて言ったらいいんだろうって思ってたら薮さんの上げた右手が俺の頭に乗った。
「明日からは基本に戻って練習しましょうね」
居間に向かう薮さんの背中に頑張って声を出す。
「はい!よろしくお願いします!!」
言わなきゃ伝わらないことばかりでもないらしい。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
23「川人 雷打7」まで拝読しました!
登場人物みんなが、お互いの距離を測りあいながらも、優しい心で思い合っているのが、とても良いですね。作品にただよう、温かくて澄んだ雰囲気が好きです。
一蔵さんのアドバイスのおかげもあって、雷打くんと利章くんが仲直り出来て、ホッとしました。
小夏ちゃんが、ちょっと出てきましたね~(そういうサプライズも嬉しかったです)。
ありがとうございます!
「温かくて澄んだ雰囲気」と言って頂けてとても嬉しいです(///ω///)♪
一蔵は夏目のように人の背中を支えたり押したりできる人を目指して、これからも頑張ります(`・ω・´)ゞ
12「薮 里比斗2」まで拝読しました!
一蔵さんの周りに人が集まってきますね。穏やかな空気が心地良いのは、一蔵さんの人柄によるものなのでしょうか?
登場人物それぞれの思いが良く描かれていて、とても興味深いです。続きも楽しく見させていただきますね!
ありがとうございます(*^^*)
一蔵はこれから失敗しながらも夏目みたいになりたいという目標に向かって自分なりに進んでいきます。見守っていただけると嬉しいです<(_ _)>
面白い!ぜひマイクロ=コール=オンライン読んでみてください!!!!
ありがとうございます✨
まだ序盤なので気長にお付き合い下さいm(_ _)m
おすすめの作品も読んでみますね(*^_^*)