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川人 雷打
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薮さんの従弟が来た日、俺たちもここで下宿したいと言ったらあっさりいいと言ってくれた。薮さんと先生にも都合が良かったみたい。
早く満室にしたいからそれぞれ一部屋使うって案も出たけど、中学生が下宿してるっていうのもそれはそれでおばさんが何か言ってきそうだからナシになった。
料理や掃除をするし半分は弟子みたいなものだからってタダで下宿させてもらえることになった。収入を申告する手続きを薮さんが面倒がったって理由もある。
従弟の里比斗さんは土曜日におばさんに連れてこられてとりあえずの荷物を持って来て日曜日から薮さんの家で寝起きしてる。兄ちゃんと俺も日曜日からそうしてて、全部の荷物を移動するわけじゃないから下宿っていうより合宿みたい。
里比斗さんは月曜日から毎日、兄ちゃんと俺を車で送ってくれる。ここはバス停があるのにバスが来ないという不思議な所だから。
毎日路線バスを走らせるほどは乗る人がいなくて、「何日何時にこのバス停から乗りたい」って電話があった時だけ小さめのバスを走らせる。
兄ちゃんと俺のためだけに毎日呼ぶのも悪いし、そのバスも終点は車庫でそこから普通の路線バスに乗り換える。
時間が掛かり過ぎるし実家の庭を見に行く通り道だからって里比斗さんが言ってくれた。
兄ちゃんは駅で降りてそこから電車、俺は学校と里比斗さんの家の分かれ道まで送ってもらう。
今日は日曜日で、いつものお礼に兄ちゃんが里比斗さんの実家に手伝いに行った。里比斗さんが畑にしていた庭を整地するらしい。
俺は家の掃除。薮さんは俺たちのことを色々気に掛けてくれる割に、自分のことは手の届く範囲しか気に掛けない。表現じゃなく本当に。四角い部屋を丸く掃くなんてもんじゃない。平日は学校の後に夕食の支度で手が回らなかった所を片付けていく。
ちゃんと下宿を始めてからはまだ一週間なんだ。ずっとこうやって暮らしてた気がしてる。薮さんの生活サイクルにも慣れてきた。
薮さんは曜日に関係なく気分次第で一週間以上仕事をしたり何日も休んだり。俺に教えてくれるのも基本土曜日だけど約束はできないって言われた。昨日は一日自分の仕事を止めて俺に色々教えてくれた。
仕事をする日も時間は決まってなくて、工房に入ってから水風呂に入るまでが職人モード。昼食の時間は作業の区切り次第だし、会話も生返事で夕食の時に確認すると憶えてなかったりする。だからお昼は出来たてじゃなくてもよくてパッと食べられることが大事。
今日は遅めに始めたからお昼も遅いだろうな。出来たてじゃなくてもいいとは言っても、できるだけ時間が経ってない物を食べてほしい。遅めに作って準備ができたことを伝えに工房に行った。作業のタイミングを見計らって声を掛ける。
「薮さん、お昼できてます」
「ありがとうございます」
こっちを見て少し頭を下げながら言って作業に戻る。これは当分食べないな。俺は気にせず好きな時に食べてって言われてる。冬休み中はそうしてた。待ってると思うと集中できないからって。
今日も先に貰おうと思ってるのに工房から出られない。
かっこいい。
溶けては形になりを繰り返して出来上がっていくガラスも、それを生み出す薮さんも。
「雷打!!!」
兄ちゃんの声。突然響いた叫び声にどうして俺は驚かなかったんだろう。兄ちゃんはキレイでクールな見た目に反して凄く大きい声を出せるのに。
兄ちゃんの視線につられて自分の服を見ると、トレーナのみぞおち辺りから上だけ色が濃くなってる。
濡れてるんだ。これ全部俺の汗?
「水風呂へ!」
言いながら薮さんが俺を抱き上げた。その動きでやっと気付いた。俺はいつから床に座ってたんだろう?
兄ちゃんと里比斗さんが工房やお風呂のドアを開けてくれる。
薮さんが俺を抱っこしたまま水風呂に入ってしゃがんだ。
「雪矢くん、ベルトを緩めて下さい。タートルネックも脱がせましょう。
里比斗」
里比斗さんは名前を呼ばれただけですぐに何かを薮さんに渡した。
「飲めますか?むせる方が危ないので無理はしないで下さい」
最初に説明を受けたゼリー飲料だ。
「のみたいです」
1月なのにお風呂の水もよく冷えたゼリー飲料も気持ちいい。
そうだ。今は1月なのに。
兄ちゃんが冷たいお風呂の中に腕を入れて俺のベルトを緩めたり服を脱がせたりしてくれてる。水を出してるからお風呂から溢れ続けてる水が少しずつ兄ちゃんの服を濡らしていく。
「兄ちゃん……寒い外から帰ってきたのに」
「そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!」
息が楽になったら少し涼しくなった。
早く満室にしたいからそれぞれ一部屋使うって案も出たけど、中学生が下宿してるっていうのもそれはそれでおばさんが何か言ってきそうだからナシになった。
料理や掃除をするし半分は弟子みたいなものだからってタダで下宿させてもらえることになった。収入を申告する手続きを薮さんが面倒がったって理由もある。
従弟の里比斗さんは土曜日におばさんに連れてこられてとりあえずの荷物を持って来て日曜日から薮さんの家で寝起きしてる。兄ちゃんと俺も日曜日からそうしてて、全部の荷物を移動するわけじゃないから下宿っていうより合宿みたい。
里比斗さんは月曜日から毎日、兄ちゃんと俺を車で送ってくれる。ここはバス停があるのにバスが来ないという不思議な所だから。
毎日路線バスを走らせるほどは乗る人がいなくて、「何日何時にこのバス停から乗りたい」って電話があった時だけ小さめのバスを走らせる。
兄ちゃんと俺のためだけに毎日呼ぶのも悪いし、そのバスも終点は車庫でそこから普通の路線バスに乗り換える。
時間が掛かり過ぎるし実家の庭を見に行く通り道だからって里比斗さんが言ってくれた。
兄ちゃんは駅で降りてそこから電車、俺は学校と里比斗さんの家の分かれ道まで送ってもらう。
今日は日曜日で、いつものお礼に兄ちゃんが里比斗さんの実家に手伝いに行った。里比斗さんが畑にしていた庭を整地するらしい。
俺は家の掃除。薮さんは俺たちのことを色々気に掛けてくれる割に、自分のことは手の届く範囲しか気に掛けない。表現じゃなく本当に。四角い部屋を丸く掃くなんてもんじゃない。平日は学校の後に夕食の支度で手が回らなかった所を片付けていく。
ちゃんと下宿を始めてからはまだ一週間なんだ。ずっとこうやって暮らしてた気がしてる。薮さんの生活サイクルにも慣れてきた。
薮さんは曜日に関係なく気分次第で一週間以上仕事をしたり何日も休んだり。俺に教えてくれるのも基本土曜日だけど約束はできないって言われた。昨日は一日自分の仕事を止めて俺に色々教えてくれた。
仕事をする日も時間は決まってなくて、工房に入ってから水風呂に入るまでが職人モード。昼食の時間は作業の区切り次第だし、会話も生返事で夕食の時に確認すると憶えてなかったりする。だからお昼は出来たてじゃなくてもよくてパッと食べられることが大事。
今日は遅めに始めたからお昼も遅いだろうな。出来たてじゃなくてもいいとは言っても、できるだけ時間が経ってない物を食べてほしい。遅めに作って準備ができたことを伝えに工房に行った。作業のタイミングを見計らって声を掛ける。
「薮さん、お昼できてます」
「ありがとうございます」
こっちを見て少し頭を下げながら言って作業に戻る。これは当分食べないな。俺は気にせず好きな時に食べてって言われてる。冬休み中はそうしてた。待ってると思うと集中できないからって。
今日も先に貰おうと思ってるのに工房から出られない。
かっこいい。
溶けては形になりを繰り返して出来上がっていくガラスも、それを生み出す薮さんも。
「雷打!!!」
兄ちゃんの声。突然響いた叫び声にどうして俺は驚かなかったんだろう。兄ちゃんはキレイでクールな見た目に反して凄く大きい声を出せるのに。
兄ちゃんの視線につられて自分の服を見ると、トレーナのみぞおち辺りから上だけ色が濃くなってる。
濡れてるんだ。これ全部俺の汗?
「水風呂へ!」
言いながら薮さんが俺を抱き上げた。その動きでやっと気付いた。俺はいつから床に座ってたんだろう?
兄ちゃんと里比斗さんが工房やお風呂のドアを開けてくれる。
薮さんが俺を抱っこしたまま水風呂に入ってしゃがんだ。
「雪矢くん、ベルトを緩めて下さい。タートルネックも脱がせましょう。
里比斗」
里比斗さんは名前を呼ばれただけですぐに何かを薮さんに渡した。
「飲めますか?むせる方が危ないので無理はしないで下さい」
最初に説明を受けたゼリー飲料だ。
「のみたいです」
1月なのにお風呂の水もよく冷えたゼリー飲料も気持ちいい。
そうだ。今は1月なのに。
兄ちゃんが冷たいお風呂の中に腕を入れて俺のベルトを緩めたり服を脱がせたりしてくれてる。水を出してるからお風呂から溢れ続けてる水が少しずつ兄ちゃんの服を濡らしていく。
「兄ちゃん……寒い外から帰ってきたのに」
「そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!」
息が楽になったら少し涼しくなった。
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