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未完成デイジー 後編
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レイフはウィルの目覚ましをそっと止めた。
いつも自分より早く起きて朝ご飯を作ってくれる彼に、記念日の今日くらいはゆっくり寝ていてもらいたい。
レイフは静かにベッドを出ると、顔を洗ってからもう一度寝室を覗いた。ウィルの寝息が小さく聞こえて来る。
(まだよく眠ってるな……)
レイフは微笑みを残してキッチンに向かった。こっそり買っておいた朝食の材料は本人にバレないように平静を装って聞き出した好物たち。
いつもはウィルが着けているエプロンを着けてはみたものの、やはりどことなくサイズが小さい。レイフは腕をまくって自分の頬をパンパンと叩くと野菜たちを取り出した。
───AM8:57
無骨で豪快な朝食が出来上がってきた。
あとはウィルを起こして顔を洗わせている間にスープを温めて、冷蔵庫にしまっておいたサラダを出してドレッシングをかけるだけ。
レイフは再び寝室に向かった。ウィルはうつ伏せで寝ているようだ。キングサイズのベッドはウィルだけでは持て余してしまう。レイフはその隣に転がった。そして夢の中を歩いている男の顔をみつめる。
(どうしてこんなに美しい顔をしているんだ?)
以前までは寝顔を見ることも珍しく、とんでもなく高貴なものに見えた。それがいまは普通になっている事実に幸せな衝撃を感じた。
口を少し開けたまま寝ているウィルの髪に触れる。
(前髪が少し伸びてきたようだ……)
目元に薬指で触れる。思ったより柔らかい肌に、レイフは思わず自分の肌と交互に触れて確かめた。じっと見つめていると愛しさが募って来る。
ウィルがうん、と小さく唸った。そしてその手を伸ばして来る。
(起きてる……!?)
レイフはその伸ばされた手を、ふいに取ってしまった。そしてその手をぎゅっと抱く。
(……寝ていても、俺がわかるのか……?)
ウィルの顔の左側に薄く残された、あの最悪の日の思い出。左腕には大きな傷があるが、なんとか生きて戻ってきた。
その傷をもう片方の手で、レイフがそっと撫でる。
(見ない振りは出来ない。ウィル、もう絶対にお前に、あんな辛い決断はさせない。)
レイフはウィルに近付いて、その身体をぐっと抱きしめた。
───こうしてここにいてくれることが、奇跡。
「Word will be too few to express my love for you.」
(言葉はとても少ない。お前に向けた俺の気持ちをどう表現してくれるっていうんだ?)
ウィルが自分の目の前に、泣きながら現れたあの日を思い出す。
「There is not a single day when I haven’t thought about you.
…There is not a single night when I haven’t dreamt about you,
…and There is not a single moment ever gonna come in my life when I stop Loving You.(
お前のことを思わなかった日はない。お前のことを夢に見なかった夜もない。そしてお前を、愛さなかった瞬間は一度もないんだ。)」
小さく囁く言葉は、その空間を小さく震わせてウィルに届いた。
「If they try to take you away from me, I’ll fight for you.Even if it is death.(もしお前を俺から奪おうとする奴がいたら、俺は戦う。それがたとえ、死であったとしても。)」
レイフは迂闊にも涙を落としそうになって目を閉じた。そしてウィルの背中にぐっと顔を押し付ける。怖い夢を見たくない子どもが、親にそうするように。
ふと、自分にのしかかる温かい重みにウィルは目を覚ました。
(レイフ……?)
なぜかエプロンをしたまま自分をぎゅっと抱いて眠っているレイフ。ちらりと時計をみて驚くのはすでに目覚ましが鳴る時間を超えていたこと。
(目覚ましまで止めて……策士だな。でも詰めが甘い)
ウィルはあえて昨日、冷蔵庫の食材にも気付かないふりをしていた。だからとびきり今朝は喜んでやろうと決めていたのに。こんなとこで寝てるから、完全に喜ぶポイントを見失ってしまった。レイフの寝顔をじっと見つめる。
(……? 泣いてる?)
彼のことだ、またあの日のことを思い出しているのだろう。
(あなたが思っているほど、俺はあのとき絶望してはいなかったんですよ。俺にとっても、世界にとっても、あなたは生きていなくちゃいけない人だった)
一度は死んだと思った。自分はあのまま、この世界を破滅に導く研究所とともに、深い海に沈んでいつか、レイフに施しを与える海の水になればいいと思っていた。
決してまだ生きていたいと思う気持ちがなかったとは言わない。愛しい人の隣で笑える生活を、望んでいた。
「I don't know meaning of my love and happiness until met you.You show me all.(あなたに会うまで、愛も幸せも知らなかった。あなたが俺に、すべてを教えてくれた。)」
だからこそ、あなたを生かすためなら命も投げ打つことが出来た。もう罪悪感は、感じなくていい。
「I'm here.I'm Ever moment with you.Please don't cry.Please smile at me for the rest of my life.(俺は、ここにいます。どんなときでも、あなたと一緒にいます。だからもう泣かないで下さい。俺の人生に、あなたの微笑みを下さい)」
ウィルはレイフの目尻に浮かぶ涙を拭ってその瞼に唇を当てた。そしてレイフに囁く。
「I will die ahead of you.You are protected by God.(俺はきっと、あなたより先に死ぬでしょう。あなたは神に守られてる。)」
今までもそうだった。神に愛された男は、死線を何度もくぐってきた。
「But,I don't pray to God.God is capricious.(でも俺は神には祈らない。神は気まぐれだから。)」
もし死神が自分を奪いに来ても、今なら言える。あのときのように、諦めたりはしない。
「If they try to take you away from me, I’ll fight for you.Even if it is death.(もしあなたを俺から奪おうとする奴がいたら、俺は戦います。それがたとえ、死であったとしても。)」
ウィルはレイフに布団をかけて、朝ご飯を温めにキッチンへ向かった。
いつも自分より早く起きて朝ご飯を作ってくれる彼に、記念日の今日くらいはゆっくり寝ていてもらいたい。
レイフは静かにベッドを出ると、顔を洗ってからもう一度寝室を覗いた。ウィルの寝息が小さく聞こえて来る。
(まだよく眠ってるな……)
レイフは微笑みを残してキッチンに向かった。こっそり買っておいた朝食の材料は本人にバレないように平静を装って聞き出した好物たち。
いつもはウィルが着けているエプロンを着けてはみたものの、やはりどことなくサイズが小さい。レイフは腕をまくって自分の頬をパンパンと叩くと野菜たちを取り出した。
───AM8:57
無骨で豪快な朝食が出来上がってきた。
あとはウィルを起こして顔を洗わせている間にスープを温めて、冷蔵庫にしまっておいたサラダを出してドレッシングをかけるだけ。
レイフは再び寝室に向かった。ウィルはうつ伏せで寝ているようだ。キングサイズのベッドはウィルだけでは持て余してしまう。レイフはその隣に転がった。そして夢の中を歩いている男の顔をみつめる。
(どうしてこんなに美しい顔をしているんだ?)
以前までは寝顔を見ることも珍しく、とんでもなく高貴なものに見えた。それがいまは普通になっている事実に幸せな衝撃を感じた。
口を少し開けたまま寝ているウィルの髪に触れる。
(前髪が少し伸びてきたようだ……)
目元に薬指で触れる。思ったより柔らかい肌に、レイフは思わず自分の肌と交互に触れて確かめた。じっと見つめていると愛しさが募って来る。
ウィルがうん、と小さく唸った。そしてその手を伸ばして来る。
(起きてる……!?)
レイフはその伸ばされた手を、ふいに取ってしまった。そしてその手をぎゅっと抱く。
(……寝ていても、俺がわかるのか……?)
ウィルの顔の左側に薄く残された、あの最悪の日の思い出。左腕には大きな傷があるが、なんとか生きて戻ってきた。
その傷をもう片方の手で、レイフがそっと撫でる。
(見ない振りは出来ない。ウィル、もう絶対にお前に、あんな辛い決断はさせない。)
レイフはウィルに近付いて、その身体をぐっと抱きしめた。
───こうしてここにいてくれることが、奇跡。
「Word will be too few to express my love for you.」
(言葉はとても少ない。お前に向けた俺の気持ちをどう表現してくれるっていうんだ?)
ウィルが自分の目の前に、泣きながら現れたあの日を思い出す。
「There is not a single day when I haven’t thought about you.
…There is not a single night when I haven’t dreamt about you,
…and There is not a single moment ever gonna come in my life when I stop Loving You.(
お前のことを思わなかった日はない。お前のことを夢に見なかった夜もない。そしてお前を、愛さなかった瞬間は一度もないんだ。)」
小さく囁く言葉は、その空間を小さく震わせてウィルに届いた。
「If they try to take you away from me, I’ll fight for you.Even if it is death.(もしお前を俺から奪おうとする奴がいたら、俺は戦う。それがたとえ、死であったとしても。)」
レイフは迂闊にも涙を落としそうになって目を閉じた。そしてウィルの背中にぐっと顔を押し付ける。怖い夢を見たくない子どもが、親にそうするように。
ふと、自分にのしかかる温かい重みにウィルは目を覚ました。
(レイフ……?)
なぜかエプロンをしたまま自分をぎゅっと抱いて眠っているレイフ。ちらりと時計をみて驚くのはすでに目覚ましが鳴る時間を超えていたこと。
(目覚ましまで止めて……策士だな。でも詰めが甘い)
ウィルはあえて昨日、冷蔵庫の食材にも気付かないふりをしていた。だからとびきり今朝は喜んでやろうと決めていたのに。こんなとこで寝てるから、完全に喜ぶポイントを見失ってしまった。レイフの寝顔をじっと見つめる。
(……? 泣いてる?)
彼のことだ、またあの日のことを思い出しているのだろう。
(あなたが思っているほど、俺はあのとき絶望してはいなかったんですよ。俺にとっても、世界にとっても、あなたは生きていなくちゃいけない人だった)
一度は死んだと思った。自分はあのまま、この世界を破滅に導く研究所とともに、深い海に沈んでいつか、レイフに施しを与える海の水になればいいと思っていた。
決してまだ生きていたいと思う気持ちがなかったとは言わない。愛しい人の隣で笑える生活を、望んでいた。
「I don't know meaning of my love and happiness until met you.You show me all.(あなたに会うまで、愛も幸せも知らなかった。あなたが俺に、すべてを教えてくれた。)」
だからこそ、あなたを生かすためなら命も投げ打つことが出来た。もう罪悪感は、感じなくていい。
「I'm here.I'm Ever moment with you.Please don't cry.Please smile at me for the rest of my life.(俺は、ここにいます。どんなときでも、あなたと一緒にいます。だからもう泣かないで下さい。俺の人生に、あなたの微笑みを下さい)」
ウィルはレイフの目尻に浮かぶ涙を拭ってその瞼に唇を当てた。そしてレイフに囁く。
「I will die ahead of you.You are protected by God.(俺はきっと、あなたより先に死ぬでしょう。あなたは神に守られてる。)」
今までもそうだった。神に愛された男は、死線を何度もくぐってきた。
「But,I don't pray to God.God is capricious.(でも俺は神には祈らない。神は気まぐれだから。)」
もし死神が自分を奪いに来ても、今なら言える。あのときのように、諦めたりはしない。
「If they try to take you away from me, I’ll fight for you.Even if it is death.(もしあなたを俺から奪おうとする奴がいたら、俺は戦います。それがたとえ、死であったとしても。)」
ウィルはレイフに布団をかけて、朝ご飯を温めにキッチンへ向かった。
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