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1章 全てはここから始まった? 日常編
叶わぬ想い
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右の頬を人差し指で拭われた。
「クリームついてるよ?」
何気なく、ごく自然に行われた動作。
思わず、椅子ごと軽く後ずさった。
「??!?!!」
声にならない悲鳴が出かける。
顔に熱が集中するのがわかった、頬も火照っているし真っ赤だろうな、なんて人ごとのようにも思った。
ひたすらに硬直していると、クライが困ったように首を傾げた。
そのまま、奇妙な沈黙。
それを破ったのは、少女の声。
「「あの、シアさん…」」
「ミユ、ユズ?」
「なんで君達がここに?君達は男爵令嬢ではないか?」
声をかけてきたのは、一年程前に知り合った仲良し姉妹、姉のミユと妹のユズ。2人とも本好きで、趣味の話をするのがクライと同様に楽しい。
けれど、クライは彼女達は男爵令嬢だと言っている。当人達は肯定していないが否定もしていない。彼女達の身分も気になるが、むしろ
「クライはなんでそんなことを知っているのかしら?」
「何故だろうね?」
何度も聞いているのだが、その度に笑ってはぐらかされる。
私は、はたしてそこまで信頼されていないのか。
そう思うと、寂しかった。
「「シアさんには内緒」」
あぁ、3人は仲が良いのだろうか。なんだか、モヤモヤする。
何故?
↑なぜが多い、あらゆる意味で鈍感なフローシア…
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
その後はミユ、ユズとも一緒に街を散策することに。
図書館で気になっていた本のシリーズを借り、本屋で好きな作家の新刊を買い、古本屋で掘り出し物(本)を見つけた。
見事に本ばっかりの一日!
まぁ私もクライも、ミユもユズも本好きだ。そんな私達で行動してこうなるのは、至極真っ当なというか必然的にこうなるだろう。
しかも私は勿論、ミユとユズは口数が少ない。クライはそこまで多く話さないのも一因だろう。
けれど、
「へぇ、そんな本があったのか」
「面白いですよ」
「ぜひ、読んでみてください」
いつもそこまで話さないクライがミユやユズと話しているのを見ると、ランチの時のようなモヤモヤした感覚がある。
なんだろう、これはまるで、
「…っ!」
ミユとユズに嫉妬、してるみたいじゃないか。
「…ア、シア?」
どうしようどうしよう?!え、でも確定じゃないし?!あれ?確定だっけ?!え、えぇ?!!!
「シア!!」
思わずビクッと肩を揺らす。
落としていた目線をそろりと持ち上げると、心配そうなクライと目が合った。途端に、さっきまでのモヤモヤ、嫉妬が消え去り、心配してくれて嬉しいと思う。我ながら現金…
「急に黙ってどうしたの?俺、何かした?」
「う、ううん!ちょっと考え事してただけだよ!気にしないで!」
まだ色々考え続ける思考を押し留めて、返事をした。
そのあとすぐ、夕方ということで解散した。
やけに薄暗いと思ったら、ドロドロと真っ黒な雲が渦巻いている。
今夜は雨が降りそうだ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
ガルディドゥーア本邸、夕食後。
帰宅した私、夕食中も悶々と考えていたことをニーナとシェルプに打ち明けた。
「「それって嫉妬ですよね。クライさんに恋、しているのでははないのですか?」」
「ぐはぁっ!」
図星きたー!
「ようやく自覚なさいましたか」
「いやでも、気づかれなかった方が…」
小声で2人が何やら話しているが、上手く聞き取れない。
「なんて言ったの?」
「「お気になさらず」」
「ふぅん?」
釈然としないが、とりあえず追及はやめておく。それより、
「やっぱりこれって、こ、ここ、恋なのかな!」
「話を聞く限り」
「その可能性は大ですね」
どうしよう…
「簡単に肯定しないでよ…」
クライに恋をしていても、私には婚約者、ディトスリ様がいる。
たとえどんな人物でも、ディトスリ様は第2王子殿下だ。
婚約者は、将来的に結婚する相手。たとえそこに愛がなくとも、王家からの打診、しかも一度受けた話をこちらでは無下には扱えない。
つまりこれは、叶わない想い。
「「私達としては、まずクライさんの見定めを行いたいですわ」」
「あのねぇ、婚約者がいる身で恋しちゃダメなんだよ?」
仕方のないことだ。
「諦めるしかないんだよ?」
「「っ、」」
「しかも相手は街に住む人、平民なんだから」
個人的に身分など、なんの格差にもならないと思う。けれど実際、全ての人間は平等ではない。
私が良くても、周りの目は決して好意的ではない。
だから、
「今ならまだ、ただの憧れだと割り切れる。ただ信頼できる相手が減って、寂しい、それだけ。」
もしも私が、平民ならば。
自由に恋愛、できたのにな。
ザァッと、急に雨音が大きく聞こえた気がした。
好き合って結婚出来る人達が、羨ましい。
そう思っていた私は知らない。
メイド達の密かな決意を。
クライの想いと正体を。
ミユとユズの、切迫した思いを。
ディトスリ様の、過ちと企みを。
そしてそれらが、大きな大きな波乱を呼び、私の想いの行く先を、導いていくことを。
「クリームついてるよ?」
何気なく、ごく自然に行われた動作。
思わず、椅子ごと軽く後ずさった。
「??!?!!」
声にならない悲鳴が出かける。
顔に熱が集中するのがわかった、頬も火照っているし真っ赤だろうな、なんて人ごとのようにも思った。
ひたすらに硬直していると、クライが困ったように首を傾げた。
そのまま、奇妙な沈黙。
それを破ったのは、少女の声。
「「あの、シアさん…」」
「ミユ、ユズ?」
「なんで君達がここに?君達は男爵令嬢ではないか?」
声をかけてきたのは、一年程前に知り合った仲良し姉妹、姉のミユと妹のユズ。2人とも本好きで、趣味の話をするのがクライと同様に楽しい。
けれど、クライは彼女達は男爵令嬢だと言っている。当人達は肯定していないが否定もしていない。彼女達の身分も気になるが、むしろ
「クライはなんでそんなことを知っているのかしら?」
「何故だろうね?」
何度も聞いているのだが、その度に笑ってはぐらかされる。
私は、はたしてそこまで信頼されていないのか。
そう思うと、寂しかった。
「「シアさんには内緒」」
あぁ、3人は仲が良いのだろうか。なんだか、モヤモヤする。
何故?
↑なぜが多い、あらゆる意味で鈍感なフローシア…
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
その後はミユ、ユズとも一緒に街を散策することに。
図書館で気になっていた本のシリーズを借り、本屋で好きな作家の新刊を買い、古本屋で掘り出し物(本)を見つけた。
見事に本ばっかりの一日!
まぁ私もクライも、ミユもユズも本好きだ。そんな私達で行動してこうなるのは、至極真っ当なというか必然的にこうなるだろう。
しかも私は勿論、ミユとユズは口数が少ない。クライはそこまで多く話さないのも一因だろう。
けれど、
「へぇ、そんな本があったのか」
「面白いですよ」
「ぜひ、読んでみてください」
いつもそこまで話さないクライがミユやユズと話しているのを見ると、ランチの時のようなモヤモヤした感覚がある。
なんだろう、これはまるで、
「…っ!」
ミユとユズに嫉妬、してるみたいじゃないか。
「…ア、シア?」
どうしようどうしよう?!え、でも確定じゃないし?!あれ?確定だっけ?!え、えぇ?!!!
「シア!!」
思わずビクッと肩を揺らす。
落としていた目線をそろりと持ち上げると、心配そうなクライと目が合った。途端に、さっきまでのモヤモヤ、嫉妬が消え去り、心配してくれて嬉しいと思う。我ながら現金…
「急に黙ってどうしたの?俺、何かした?」
「う、ううん!ちょっと考え事してただけだよ!気にしないで!」
まだ色々考え続ける思考を押し留めて、返事をした。
そのあとすぐ、夕方ということで解散した。
やけに薄暗いと思ったら、ドロドロと真っ黒な雲が渦巻いている。
今夜は雨が降りそうだ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
ガルディドゥーア本邸、夕食後。
帰宅した私、夕食中も悶々と考えていたことをニーナとシェルプに打ち明けた。
「「それって嫉妬ですよね。クライさんに恋、しているのでははないのですか?」」
「ぐはぁっ!」
図星きたー!
「ようやく自覚なさいましたか」
「いやでも、気づかれなかった方が…」
小声で2人が何やら話しているが、上手く聞き取れない。
「なんて言ったの?」
「「お気になさらず」」
「ふぅん?」
釈然としないが、とりあえず追及はやめておく。それより、
「やっぱりこれって、こ、ここ、恋なのかな!」
「話を聞く限り」
「その可能性は大ですね」
どうしよう…
「簡単に肯定しないでよ…」
クライに恋をしていても、私には婚約者、ディトスリ様がいる。
たとえどんな人物でも、ディトスリ様は第2王子殿下だ。
婚約者は、将来的に結婚する相手。たとえそこに愛がなくとも、王家からの打診、しかも一度受けた話をこちらでは無下には扱えない。
つまりこれは、叶わない想い。
「「私達としては、まずクライさんの見定めを行いたいですわ」」
「あのねぇ、婚約者がいる身で恋しちゃダメなんだよ?」
仕方のないことだ。
「諦めるしかないんだよ?」
「「っ、」」
「しかも相手は街に住む人、平民なんだから」
個人的に身分など、なんの格差にもならないと思う。けれど実際、全ての人間は平等ではない。
私が良くても、周りの目は決して好意的ではない。
だから、
「今ならまだ、ただの憧れだと割り切れる。ただ信頼できる相手が減って、寂しい、それだけ。」
もしも私が、平民ならば。
自由に恋愛、できたのにな。
ザァッと、急に雨音が大きく聞こえた気がした。
好き合って結婚出来る人達が、羨ましい。
そう思っていた私は知らない。
メイド達の密かな決意を。
クライの想いと正体を。
ミユとユズの、切迫した思いを。
ディトスリ様の、過ちと企みを。
そしてそれらが、大きな大きな波乱を呼び、私の想いの行く先を、導いていくことを。
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