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:001/Archangel
:013 造作も無いですね
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“道に迷ったら、最も目立つ物を目指せ”
そんな教えは時に徒労を生み、時に功を奏した。
「……強い反応があるからアークエンジェルが移動したのかと思ったのだが」
崩壊した都市の中心、使われる事のなくなった高架駅の一つ。
かつては昼夜問わず人々が乗降し列車が行き交っていた。その高架下も、かつては賑わっていたのだろうが今は閑散としている。
そこに巨人は、杭によって拘束されていた。
「ハズレか。無駄足であるな」
「いやいやいやいや、大正解ッスよ!」
両手、そして胴体にも数本ずつの杭を打ち込まれ、うつ伏せに地面に打ち付けられている。
その前に立っているのはリアスと、そしてハクジ。停めてあるオープンカーに寄りかかっている。
駅へ到達する直前の線路は崩落しており、そこで貨物列車は脱線して地上に落ちている。
リアスは車から離れると、腰のホルスターから拳銃を取り出した。それは普通の拳銃ではなく、単発式の信号拳銃。
「でもハクジ先輩、よくこんなイカした車あったッスね。20世紀型のオープンカーじゃないッスか」
「借りただけだ。何処かの阿呆がハイウェイ上の瓦礫を壊しといてくれたおかげで持ってこれた。感謝しておくと良い」
「へえ、こんな時代にそんな奇特な人もいるんスねえ。俺の車は駐禁とこに置いといたら盗まれちゃったッスよ、こんな時代だってのに」
リアスは信号拳銃に弾を装填すると、うつ伏せの巨人に向けた。
「しかし分からんな。シリウスはこいつと戦った筈であるが」
「? それがどうしたんスか」
「……倒し損ねるとは思えないのだ。傷付けながらもこいつを逃している」
「先輩がシリウスより強いだけじゃないッスか?」
リアスは、信号拳銃を躊躇いなく撃った。
発射されたのは信号弾ではなく特殊製の榴弾、着弾と同時に黒い爆炎を上げ巨人を飲み込み、一分とかからずに焼き尽くした。
、それまでは散々暴れていたペイシェントの、呆気ない最期だった。
(そんな筈はない)
ハクジは思った。
あの黒髪のデストロイヤーは、確かに自分よりも強かった。戦う覚悟も持っていた。なのに何故こんな巨体だけののろいペイシェントを易々と逃してしまっているのか。
「で、結局天使ちゃんはどっちなんスか?」
言われてハクジは、レーダーを取り出した。液晶画面には矩形波が表示されているが、リアスは読み取れない。
「反応は第一中核市の方角であるな……まあ、ゆっくり行こうではないか。我々は漁夫の利を狙っているのであるからな」
***
路地を寝床にしていた浮浪者の男が、目覚めてまず空を見上げた。
晴れていた。故に、凍える事のない今日に安堵していた。
「!!」
そんな平穏を打ち破ったのは、ガラスが割れる音。
浮浪者の頭上でビルの窓ガラスが割れ、そこから人間が一人、飛び出している。
受け止めるにも間に合わず、その人間はダストボックスの上に落ちた。
「……し、死ん……」
死んでしまったか?などという心配を余所に、ダストボックスから白髪の少年は平然と立ち上がった。
「だ、だ、大丈夫か!? 今、そこの四階から落ちてきて……」
「邪魔だ。侵蝕される」
心配そうに駆け寄った浮浪者を乱暴に突き放したロネリー。
その場所に、今度は異形の天使が降り立った。
ロネリーは一旦剣を構えたが、浮浪者が腰を抜かしたのかその場にへたり込んで震えて動かないでいる。
「……チッ」
舌打ちをして後方に退がった。路地を出て、大通りへと出る。
大天使も追ってきている。その間にも暗黒物質の侵蝕を広げ、小天使も涌き出続けている。
──俺が
交差点の中心に立ち、ロネリーの左目が、更に強く光った。
──もっと、強ければ──
***
横転した車を戻し、三人は再び北へ向かった。多少の怪我や疲労は構ってはいられない。
「ロネリーが戦っています」
「ああ」
遠くから断続的な破壊音が聞こえてくる。
ヴィルはアクセルを踏み込んだ。散乱する瓦礫を避けて走る。
やがて大通りに出た時、車体が揺れた。
「止まって!」
後部座席のスキアの声でヴィルは急ブレーキをかけた。
直後、急停車した車のすぐ前の地面が大きく、急速に隆起し、それを見てすぐ、三人は車から転がるように降り、それぞれ周囲への警戒に神経を向けた。
車は再び隆起した地面に突き刺され、真っ二つに裂かれる。
「今度こそ廃車だな」
などと暢気に呟くヴィル。その横でキイチは式神を展開している。自身を囲むように、円形に陣を作る式神。その円を徐々に広げていく。
敵は、それ程遠くにいないと予測した。でなければロネリーを追った理由が無い。近くでなければ発動出来ない能力。それを考えれば、見通しの良い大通りは好都合。
キイチは考えた。ロネリーにこの敵はミスマッチだったのだろう。
「使える車を探すのも時間がかかりますね……三手に別れましょう」
「別れる?悪手だぜそりゃ!」
キイチの提案にヴィルは顔をしかめた。戦力の分散は良い手とは思えない。
しかしそう言っている間にも敵は仕掛けてきている。今度はキイチ達の背後の地面が隆起した。広い大通りを埋めるには時間がかかるだろうが、放っておけば包囲はいつか完成する。
「袋の鼠ですよ」
──“女”を見つけた。
「……無策、って事はないよな? 信じるぜ!」
ヴィルはまだ壁の無い場所から、傾いた建物へと向かいこの場を離れた。
「スキアさんは路地へ」
「あ、じゃあ、キイチさんも気をつけて!」
言われてスキアはビルの隙間、路地へと入っていった。キイチの考えは分からないが、ヴィルの言う通り無策とは思えない。故に迷わずに、従った。
二人が遠く離れた事を確認すると、キイチは転がっている鉄骨の上に乗り、動きを止めた。
包囲を諦めたのか、或いは狙いは分断工作にありそれが完了したからなのか、地面の隆起は止まっていた。
「出てきて下さい」
まだ見えていない相手に向かって、キイチは言った。
その言葉だけでは姿を見せない事は予想通りであり、更に続ける。
「そこの案内標識の裏でしょう? 位置は割れていますよ」
そう言われてようやく、シアは姿を現した。倒れている道路案内標識の裏からだった。
「面倒な男だ。第ニ拠点でクロードを出し抜いたのはお前か」
能力は伝え聞いているのだろう。
この女はロネリーとも戦っていたのだから、四人の戦闘スタイルはあのクロードとかいう男に知られてしまっている。キイチは戦況分析に幻想を持ち込まない。
とはいえキイチとて、この女の能力の性質はもう大体の予想がついている。楽観的な幻想を抜きにしても、一人で対処出来ると見ている。
「出し抜かれたのはこっちですけどね」
「仲間を分散させたのは失敗だったな。各個撃破はこちらの思惑通りだ」
「それは思い上がりですよ。人には個性があり、適材適所というものがありますから」
展開した式神が、キイチの周囲を漂っている。
それだけではなく、地面やビル壁にもひっついていた。
(やりづらいな……)
シアはそう思った。自らの能力を過信していない。対応力の欠ける短所を自覚していた。
先刻戦った白髪の少年のように、真っ直ぐ向かってくる敵の方が嵌めやすい。単純な戦闘を好む敵は行動も読める。
対してこの黒マントの男は一見戦闘に向いていないが、恐らく一筋縄では行かない。早くもペースを握られている。
──などと考えていると。
「……!」
シアの足元、いつの間にか式神が集まっていた。
慌てて身をかがめ地面に触れようとするが、シアの手と地面の間に式神が入り込んだ。
(アスファルトに触れられない!)
それは能力を発動出来ないというだけでなく、その性質を正確に捉えられている事も意味していた。
(触れなければ発動出来ない……そこまで知られたか!)
式神は更に集まりシアの腕に絡みつく。必死に腕を振り回すが式神は離れない。
そんなシアにキイチはゆっくりと歩み寄っていった。
焦ったシアは逆の手で銃を取り出しキイチに向けたが、それも瞬く間に式神により分解され用を成さないガラクタと化す。
ならばと式神を握り潰そうとしたが拳の隙間から逃げられてしまう。そしてその式神はそのままシアの体を這い上がり、顔にまで到達し、鼻と口を塞いだ。それに続いてまた何枚もの式神達がシアの顔に幾重にも張り付き、呼吸を阻害した。
もがいてもどうにもならず、反撃の術も無い。空気の供給を断たれたシアはやがて気を失い、その場に倒れた。
「造作も無い、ですね。式神の展開を許した時点で、貴女の敗北は決まってました……ここまで相性が悪いとは思わなかったでしょうが」
シアから式神が離れた。死んではいないが、しばらくは目を覚まさないだろう。
キイチはスキアを追って、路地へと入っていった。
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