上 下
36 / 53
第2章

第36話

しおりを挟む
「結界で魔力の供給を止められたり出来ませんか?」
「無理だと思う。結界の魔力も吸われるのがオチ」
「……我ながら面倒な魔方陣を作りましたね」
「技術は認める。だがやり過ぎだな」

 騎士団長クラスともなれば、魔人化していなくとも非常に強いのだろう。
 そこに魔人化でさらに実力に上乗せされている。困ったもんだ。
 動きが速い。身体強化で上乗せされた私の速度に完全についてくるのだ。
 機動力を高くするため、双剣に切り替えてできるだけ接近戦。
 ただ、その攻撃は彼の1本の剣によって防がれてしまう。
 時々傷をつけることに成功しても、うまく急所を避けられてしまって致命傷には至らない。
 隙を突いてマイヤが入ってこようとするが、常に私の位置を団長とマイヤの間に差し込んでしまう。
 上手く誘導されてしまうのだ。

 魔法は練習した。
 剣の素振りもたくさんしてきた。
 ただ、なんて言ったって私は実戦経験がほとんどないのだ。
 目の前に居るのは切羽詰まった戦場で実際に長い間戦って来ていた歴戦の猛者。
 ろくに戦いもせずに逃げ惑い、狭い牢屋に閉じ込められていた私なんかとは技術が違うのだ。
 もし彼が魔人化していなければ是非とも弟子になりたかった。



 このままでは埒があかないということで、一度後方へ下がる。
 そのときに、力一杯力を込めて団長を後ろへ押し出したため、よろけて追っ手は来られないらしい。

「よし。ダメだ。もう無視しよう。できるだけ硬い岩でアイツの周りを囲む」
「分かりました」
「発動まで守って」
「任せてください!」

 生半可な堅さでは簡単に破られてしまう。
 皇帝との戦闘中、後ろからコイツに襲われたらさすがの私でも勝率が低くなる。
 マイヤはほぼ確実に死ぬだろう。

 マイヤを殺され、倒せずに敵前逃亡なんていう無様を晒すわけにはいかない。

 脳内で必死に詠唱をしていく。
 固く、分厚く、絶対に抜け出せないような岩の塊。
 ダイヤみたいな。できるだけ固いもの。

「いくよ」
「はい!」

 前方で必死に攻撃を防いでくれていたマイヤに声を掛け、一度後ろへ引かせる。
 すぐに魔法を発動。
 すると、出来たのは思っていたような真っ黒な岩の塊ではなく、水晶のような透明掛かった物質の塊であった。
 おそらくダイヤモンドのイメージが入っていたからこうなったのだろう。

 騎士団長はその水晶のような物質の中に埋め込まれるような形になっている。
 さながら琥珀の中の虫だ。

「いこう」
「はい」

 当分動けそうな感じはしない。
 この隙に皇帝の所へお邪魔しよう。







 赤色の大きな扉の縁には、金色の枠がついている。
 明らかに豪華な扉。
 それを身体強化魔法を掛けながら押していく。
 身体強化を掛けなければ人が通れるほど開けられないだろう。
 無駄に重い。謁見の間はきっと普段は使わないのだろう。
 見栄を張って謁見の間にずっといるとか、そういう感じなのだろうか。

「ふふふ、待っていたぞ侵入者よ」

 暗い部屋、広い謁見の間。
 その少し高いところにいた男がそう叫んだ。

 無駄に重そうなローブを着、無造作にひげを生やし、おなかをぽっこりと出しているおじさんだ。
 偉そうに玉座に座ってこちらを気持ち悪い目で見下ろしている。

「さて侵入者よ。なんの用だ?」
「あなたを殺しに来ました」
「ふっ、馬鹿言え。この俺に勝てるとでも?」
「勝てます。私とあなたでは歴が違うので」
「小娘が何を……」
「私は長い年月を掛け、強大な力を得ましたが、あなたは他人から授かった力を好き勝手に振るっているだけ。
 下手だね。力の使い方が下手。あなたに私は倒せない」

 実戦経験こそはないものの、200年間しっかりと基礎を磨いた。
 時々剣の相手としてゴーレムを作ったりしていた。
 人との戦いほどの力にはならないだろうが、やっていないよりはマシだ。

「他人から授かった力? 俺はこの力は自分で手に入れたものだ。何も知らずにグチグチと」
「いえ。あなたの力は他人から授かったものです」

 ここでマイヤが口を開いた。
 ここからはマイヤにお任せしよう。

「私の名前はマイヤと言います。あなたが玉座の裏に隠している魔石に魔方陣を書き、ここへ運んだ者です」
「……それは?」
「あなたの力は私が授けた。私はその力を奪いに来ただけ」

 ……物語だと、ここから言い合いになったりとかがあるのだろうが、案外実際そうではないらしい。
 話すことがない。
 私たちは皇帝を殺すということを伝えたし、それを今更変えたりはしない。
 皇帝も話すことを考えていたわけでもなさそうだ。

 ここは拳だな。



 皇帝から感じるオーラは強い人のそれだ。
 それが偽りの力であったとしても、今の皇帝が強いという事実は変わらない。
 ただ、先ほどの騎士団長さんみたいに鎧を着ているわけではない。
 着ているのは布で出来た重そうな服だけ。一応剣を持ってはいるみたいだが、その格好では上手に使えないだろう。
 となると、彼が使ってくるのは魔法だ。

「マイヤ、行くよ」
「はい」

 左右から挟むように攻める。
 2人でまとまっていると大きな攻撃が着たときに2人も動けなくなる可能性がある。

 魔石を壊せば魔力の供給は止まる。
 ただ、おそらく魔石は壊させてくれないだろう。
 魔石を壊すなら皇帝を殺した方が楽だと思う。

 右手をバッと前へ突き出し、手のひらから土魔法で作られた剣を出していく。
 ツタのように伸びる剣は、くねくねと軌道を変えながら一気に皇帝の首元へと飛んでいく。
 それで倒せたら楽だったが、さすがにそんなに簡単な仕事ではない。
 皇帝はそれに魔力砲をぶつけ、粉砕する。
 魔力砲とは、本来実体を伴わない魔力を高密度に圧縮して放つ魔法。
 体内の保有魔力量が多くないと出来ない魔法だが、一番魔力の変換効率が良いため、魔力量が多い人が使うと強い。
 私はあまり使わない。
 魔力砲にはデメリットがあって、長距離だと力が分散しやすい。
 だからああやって至近距離まで引きつけて放つのだ。



 大きく弧を描くように走り、皇帝へと近づくマイヤ。
 マイヤは小さな岩を出し、牽制しながら距離を詰めていく。
 ただ、あと少しというところで魔力砲によって一気に後ろへ下がらされてしまう。
 おそらく至近距離に持って行くのは厳しい。

 私は魔力砲を今使えない。
 すべて魔石に回収されてしまうだろう。

 下駄を脱ぎ捨てる。
 地面にぐっと右足をつけ、足から地面を伝って先ほど手から出した者と同じ物を作成する。
 そして手からも同様のものをだし、3つの刃で攻撃する。
 両手から魔力砲を放ったとして、防げるのは2つ。
 1つは攻撃が通るだろうという考えだ。

 できるだけ分散させて飛ばしていく。

 ただ、やはりそれもすぐに対応されてしまう。
 皇帝は大きな岩の塊をこちらへ飛ばしてきた。

 皇帝へと飛ばしていた刃のうち1つの向きを切り替え、私と岩との間に差し込む。
 砂埃を舞わしながら砕け散る1つ。

 左足をいつでも位置を変えられるようにと使っていない。
 それを使っていれば4つの剣があったが、今は3つだけ。
 その3つのうちの1つが打ち落とされた。
 となると残りは2つだけ。2つになってしまえばもちろん魔力砲で粉砕される。



 だめだ。魔力砲が理不尽すぎる。
 魔力がつきないというのがひどい。
 いくらでも強い魔力砲を飛ばせるのだから、正直言ってかなわない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...