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第2章

第26話

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「ん……、朝か……」

 旅をしている間に思い出しつつある本能。
 太陽が昇る頃に自然と目を覚ます。時計を見れば今の時間は6時少し前といったところ。
 窓の外に目をやると、明るいがまだ少し暗いと言った時間帯。私はこの時間帯が一番好きだ。
 人の活動が活発になる前。まだ静かな世界だが、営みは始まっている。
 そんな時が好き。

 さて、まだだらだらと布団に横たわっていたい気持ちを抑え、早速私も行動を始める。
 私はあまり朝が強くない。というのも、牢にいた間、太陽なんて一切入ってこない。
 私を照らすのはまばゆい太陽の光ではなく、薄暗いたいまつの光のみ。
 朝夜なんて関係ない。
 眠くなったら寝て、その眠気が完全になくなるまで起きない。そんな生活を送っていたわけだから、まだ多少の眠気がある状態で動くというのに慣れるには時間が掛かりそうなのだ。





 朝食は昨晩ほど盛りだくさんと行ったわけではなかったが、食べれば八分目と言った感じのちょうど良い量だった。
 私は朝あまり食べない人間だから、昨日のうちに少なめにしてくれと言っておいたのが良かったのかもしれない。
 命を奪って目の前に出されているものを残すのは、私の心が許さない。
 私は食事を残さない。

 部屋着から普段着ている装備といえないような軽装に着替え、早速移動を始める。
 馬車の時間にはまだ早いため、私が向かうのは冒険者ギルドだ。
 ベリネクスが私の冒険者登録をしておいたと言っていた。今私は身分証を持っていない。
 ギルドカードは身分証明書になる。



 ここで軽くギルドカードに関する知識を伝えようと思う。
 それは、その名前の通りギルドに承認された人間であるというのを伝えるものだ。
 ギルドカードは、冒険者ギルドで発行されたものを主に冒険者証明書という。他にも商業ギルドなら商人証明書、鍛冶ギルドなら鍛冶士証明書と言った感じで呼ばれることがある。
 まあ、ギルドカードでひとくくりしても大丈夫だろう。

 冒険者ギルドで承認された人は、基本的には冒険者として活動が出来るだけで、商人としての仕事は出来ない。
 もちろん逆もしかりだ。

 商業ギルドで冒険者証明書を見せ、商業ギルドの規定をクリアすれば、その冒険者証明書は、冒険者・商人証明書と言った二重承認のギルドカードになる。
 案外そういう人は多いらしい。

 そのギルドカードだが、発行場所の違い以外にも分けられる点がある。
 それは、承認者によるギルドカードの格分けだ。
 その格は5つに分けられている。下から順に行く。

 1つ目は承認者がギルド職員のカードだ。大体の人が最初に手に入れるのはこれだろう。
 ギルドの登録受け付けで発行するとこれが発行される。カードの色が白色だ。

 2つ目は承認者がギルド支部長のものだ。
 そのギルドの管轄内で功績を挙げた人が、職員の承認を上書きされる形で底を管轄している支部長から承認を貰うケースだ。色は銅色だ。

 3つ目はその国のギルドマスターが承認したものだ。
 ここら辺から数が少なくなってくる。色は銀色。

 4つ目が2カ国以上のギルドマスターから承認を得るものだ。
 ベテランの冒険者が長い年月を掛けて各地を練り歩き、それぞれで功績を挙げた場合にのみなれるレア中のレアだ。色は金色。

 そして最後5つ目が、一国の主から承認を得るものだ。私の場合はベリネクス。つまりベルフェリネ王国の国王から承認を貰っているためにこのギルドカードが発行されることになる。
 基準は分からないが、王のお眼鏡に掛かれば発行されるのだと思う。(※そんな簡単に発行されません)
 ちなみに色は黒色となる。

 なお、ギルドカードをはじめとする身分証の偽装は場合によっては一発で処刑となる重罪だ。
 だからこそ、このギルドカードの色が権力を示す。
 こんな黒色のギルドカードなんていらないって!? みたいなものをやるのもまた異世界なのだろうが、後ろ盾がいるのはありがたい。
 断る理由もないために素直に受け取ることにしたわけだ。

 ……ブラックカード、かっこよくない?





「ここかな?」

 中央の広場に面している所に冒険者ギルドはあると言うことで、泊まっていた宿から近くて便利だ。
 明らかに“冒険者ギルド”と書かれた看板が出ていて見つけやすい。
 それに、大きな扉は開けっぱなしになっていて、非常に入りやすい雰囲気だ。
 もっと大きな扉を開けないとは入れなくて、中はおじさんたちでむさ苦しいようなのを想定していたけれど、案外そうではないらしい。

「すみません、石見銀と言うものなのですが、ギルドカード発行の予約は出来ていますでしょうか」

 入ってすぐの所に総合受付と書かれた看板のあるカウンターを発見したので、そこに向かって声を掛けた。
 対応してくれるのは若いお姉さんだ。おそらくギルドに就職してわずかと言った感じの子なのだろう。
 おばさん頑張ってる若者を見ると涙腺に来るんだよね……。

「??? 予約ですか? 少々お待ちください」

 ちなみに、通常ギルドカード発行に予約とかはないらしいのだが、今回は事情が事情と言うことで予約をさせて貰っている。
 この世界の魔道具は結構便利で、私の予約情報はギルドのデータベース上にアップされているらしい。
 そのため、どこのギルドでも私はギルドカードを予約通り受け取れる。

 あ、どこのギルドでもっていうと語弊があるね。
 私が今回承認を取ってもらったのは冒険者ギルドと商業ギルドの2つだけだから、その2つのギルドならどこでもっていう感じだ。

 このギルドは外から光をふんだんに取り込めるような作りになっているらしく、天然の光が入ってきていて明るい。
 2階の所は酒場のようになっていて、わいわいと楽しそうな声がこだまする。
 思っていたより女性の冒険者も多いらしく、女性が来ると「おいおい、こんな嬢ちゃんがどうしてこんなところにいるんだ? あぁ!?」みたいな感じで絡まれるようなのはないみたいだ。



 そうこうしている間に受付嬢さんが戻ってきた。
 なんか顔が青くなっているけれど気にしない。そりゃビビるよね。だって黒だもの。

「えっと、いわぎみん様ですよね?」
「石見銀です」
「あ、あぁ、す、すみません!」

 ガタガタと震えながら話す受付嬢さん。

「ちょ、落ち着いて。一回落ち着こう。だいじょうぶだから!」
「は、はぁ、すみません。えっと、ギルドマスターが待っているので、奥までどうぞ……」

 ここはジェレイ王国の王都のため、ここのギルドにはギルド支部長ではなく、このジェレイ王国のギルドマスターがいる。
 大きいところの方が私の場合は円滑にことを進められそうだから、最初にここに来たのは良かった。
 え? なぜベルフェリネ王国の王都で貰わなかったかって?

 はやく旅がしたくて忘れてたの!

 ……まあいい。とりあえずついていく。





 ギルドマスターの部屋に入ると、そこに居たのは想像していた強面おじさんではなく、優しそうなおばあちゃんと言った感じの人だった。
 ……でも、このおばあちゃんは強いね。オーラを感じるよ。
 椅子に座ってこちらを見ているだけだけれど隙がない。さすがだ。

 私は促されてソファーに腰を掛ける。

「すまんね。こんな重要人物の名前を偽るなんてことはないだろうけど、わたしゃ実際にギンの顔を見たわけじゃないからね。少しここに血を垂らしてくれるかい?」

 そういって差し出されたのは、水晶でできたと思われる板と、何かの金属で出来た針だ。
 別にここで抵抗しても意味はないので、おとなしく従う。
 偽物扱いされてまた以前に逆戻りになったりしたら溜まったもんではない。
 今回こそは牢を破壊して脱走してしまう自信がある。

 人差し指に針を刺し、ぽたりと水晶のくぼみに血を垂らす。

 すると、水晶がパッと光だし、何もなかったところに文字が浮かび上がってきた。

『名前:石見 銀
 種族:ホモ・サピエンス(ヒューマン)
 性別:女』

 うん。上の方だけ目を通してみたけれど、種族ホモ・サピエンスになるんだ。
 なんか少し笑いそうになってしまった。

『年齢:235歳』

「ありゃ、わしより年上じゃあないか。すまんのう、あまり年上は居ないもんじゃから敬語がでてこん」
「うぇえッ!? ギルドマスターより年上!?」

 うん。凄い止めてほしい。
 なんか受付嬢さんびっくりしちゃってるよ……。

「えっと、ほんとに気にしないでください。マジで」
「すごいのう……。本当に不老不死なんておるんじゃのう……」

 後ろの方から「不老不死……」という風な声が聞こえてきたが、何も聞こえなかったことにする。
 ていうかさ、この場に受付嬢さんいるのおかしくない? 絶対退出するべきだろう。

「あ~、レイネ? 戻って良いんだぞ?」
「へ、はっ、あの、すみませんでした!」

 やっぱ居たのおかしいんだ……。

「すまんのう、あのものは今年入ったばかりの新人でねぇ」
「いえいえ。かわいらしいですよ。私、若い子が頑張ってるの見ると涙腺に来るんですよ……」
「わかる! わかるぞ……。怒るに怒れないんじゃよ……」
「そうそう! ああやって頑張っている若い子が――」



 しばらくお婆ちゃん談義のようなもので盛り上がってしまった。別に中身お婆ちゃんのようになっていないとは思うのだけれど、時の流れには逆らえないのさ。
 ちょっとしたことで涙腺に来るんだよ……。

「ああ、話を戻すぞ。黒色のギルドカードなんて今まで発行したことがないからのう、わしも驚きじゃ」
「これで円滑に旅が出来ると思うとうれしいです」
「そうじゃね。邪魔がはいらんくなるね。そなたは愛されておるなぁ……」
「ええ、不本意ながら……」
「もう、若い子に愛されるなんて良いじゃないの!」
「まあ、案外かわいいところ有りますよあの王様。一瞬揺らぎましたから」
「一国の王が実はかわいい……。ギャップじゃのう」
「ええ、ギャップですね……」



「って! そんなことは良いのじゃ! もう、そなたと話すと話が進まん。もう進めるぞ!」
「はい。進めてください」





「にひひー、これが私のギルドカード!」

 完璧だ。ギルドカードは提示を求められる時があるらしいのだが、自動でスキルとかそういうのは隠してくれるらしい。
 でも年齢は隠すシステムがないということで、235歳が隠せないのは申し訳ないと言っていた。代わりに不老不死のステータスだけは周りに見えるようにしておいた。
 そう言っていたのだが、それが出来るなら名前くらい消せと思った。
 まあいい。

「ん? そういえば今何時だ?」

 ギルドマスターと結構話し込んでしまった。
 時計を見るともう少しで8時になりそうだ。

「やばい! 馬車が出る!」

 まあ、大丈夫なんですけどね。
 なんたってこの広場から出るので、ギルドの目の前に馬車は留まっています。

「えっと、この馬車はベルティナの町まで行きますか?」
「え? ああ、行くが、ほんとに良いのか?」
「え? いいですけど。あれ、ベルティナの町って大きな湖があって、白い建造物で美しい町並みの観光地ですよね? あってますかね……」
「ああ、あっている。……そろそろ出るから乗ってくれ」
「はい」

 なぜか驚いたような、困惑したような顔をしている馬車のおじさん。
 その困惑した顔に困惑しながら後ろに乗り込む。外から見えていたが人が乗っていない。
 貸し切り状態。
 ……何かがおかしい。
 しかし、行くって決めた以上引き返すわけには行かない。
 とりあえず向かう。向かってからどうするか決めよう。   
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