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111話目 お寿司!

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私たちがご飯を食べに向かったのは、この建物の59階にある回らないお寿司屋さんだ。

どうしてこういうお高いお寿司屋さんは入り口の前に砂利が敷かれているのだろうか。

普通に道にすればいいのでは?と思ってしまうのは私の美的センスがないからなのだろう。

のれんをかき分けるように店の中に入ると、私たちは店主に軽く1礼をして、カウンターの席に腰を掛けた。

どうやらお客は私たちだけのようだ。

「私、お寿司って初めて食べる……。」

「え!?夕日ってお寿司食べたことないの!?」

「お嬢ちゃん寿司は初めてなのかい?」

私が呟いた言葉に、夏海に加えて店主さんまでもが反応をした。

店主さんは楽しそうに笑い、続けるように言葉を発した。

「嬢ちゃんの初めての寿司に私の寿司を選んでくれて、光栄の限りですよ。」

頭をつるつるに剃り、ガタイのいい店主さんは一見怖そうな人なのだが、どうやらお寿司初心者の私を心優しく迎えてくれる、いい人のようだ。

夏海が言うには、ここのお寿司はとにかく絶品で、なかなか予約が取れないものらしい。

「え?じゃあ前から予約取ってたってこと?」

「いいや。店主さんに直接お願いして、閉店後に特別にお店を開けてもらったんだよ。」

えぇ!?ちょ、何そのVIP待遇は!

「えっと、店主さん、わざわざありがとうございます。」

私が申し訳なさそうにそういうと、またもや店主さんは楽しそうに笑い、大丈夫ですよ。と優しい言葉をかけてくれた。

私の周りの人はみんな優しい。

「夏海ちゃん、いつものでいいかい?」

「うん。大丈夫だよ。じゃあよろしくお願いします。」

“いつもの”って存在したんだ!と思いながら、夏海に続けて私も「よろしくお願いします。」と一言。

私は暖かい緑茶の入った湯呑を抱えるように両手で握りながら、店主さんの流れるような手捌きに見入っていた。

しばらくすると、早速1貫目が握り終えたようで、右端にガリの乗っている寿司下駄の上に、真っ白でつやのあるイカの握りが乗せられた。

私はいただきますと呟くと、夏海の真似をしながら、ぎこちなく寿司ネタの先にお醤油をつけ、そのまま口へと運ぶ。

口に入れた瞬間、まとまっていたシャリはほろほろと崩れ、甘みのあるネタやワサビ、しょうゆなどと絡んだ。

思わず「おいしい」という一言が漏れだす。

店主は安心したかのようにニコリと笑うと、すぐさま次のネタを握りだした。

その後も、鯛、北寄貝、マグロ、いくら、ウニ、エビ、トロ、コハダ、サーモンと順番に食べ進めていった。

最後にあらからしっかりだしを取ったというお味噌汁を頂いて、大満足で店を後にした。

「私、お寿司って初めて食べたんだけど、すごくおいしかった。」

家に戻り、ソファーに腰を掛けながらそういうと、夏海は満面の笑みを見せ、「そりゃよかった!」と言った。
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