上 下
52 / 100
6章 子供達の行く末

マックスの妬みと嫉妬

しおりを挟む

2日目もディビドに一緒に寝て欲しいと強請られ、マックス氏に睨まれながらもベッドを共にした。

「エルマお姉ちゃん、またお話が聞きたい」

「いいよ、何かいいかな?」

「ヨルクのお話がいい、お魚のお腹から出た後で寝ちゃったから...」

「いいよ、じゃあヨルクがお魚のお腹から出てきたら神様に向かいなさい、と言われた港に着いてました...」

そう聖典の物語を語る、ヨルクの冒険譚は子供に人気のお話だ。

話が終わった頃にはディビドはすやすやと眠りにつく。

今日はテオドールが帰った後ディビドは歩行練習であちこち歩きまわったためか疲れてしまったのかもしれない。

どう見ても20代前半の成人男性ではあるが何だか本当に小さい子供に見えてくる、可愛いなぁ...って何絆させているんだ!

今日は掴まれてたりされていなかったためそのままベッドから降りて椅子に座る。

「エルマ様今日は一緒には寝ないんですね」

ソファーで横になっていたマックス氏が起き上がる。

「マックス氏こそ寝てなかったんだね」

「...寝られる訳ないでしょ...全く...」

そうだよ、マックス氏は護衛騎士でエルマさんに何かあったらそれこそ仕事を失うどころの問題ではないだろうからだ。

「ごめんね、マックス氏」

マックス氏が怒るのも当然だ。

「...エルマ様は優しすぎます...幾ら精神的に子供って言ってもあいつ自体は大人だし...男なんですよ...ベッドを共にする事なんて...」

「うん」

「添い寝なんて...僕にすらした事無いのに...」

「え?」

「...不安なんですよ...あいつが...ディビドがエルマ様を連れて何処か逃げちゃうんじゃないかって...だっていつの間にか仲良くなるし、あいつの好みのアップルパイをわざわざ作ってあげたりするし、あいつエルマ様の事いつも『お嫁さんにしたい』って簡単に言うし...ねぇエルマ様、エルマ様はあいつの事、ディビドをどう思っているんですか?」

マックス氏がこちらをじっと見て話す。

「ジル殿下に対しては嫌がる事をこいつに対しては嫌がっているようには全く見えないんです...ねぇ何でですか?」
 
「マックス氏?」

「僕がこいつと同じ事を強請ったら、エルマ様は僕にもしてくれるんですか?」

マックス氏がまるで別人の様に見えてきた...いつもの神殿騎士の鎧の中は別な男の人が入っているんじゃないかと思うほどにだ...怖い...

「...はっ...す...すみません!頭を冷やして来ます...」

我に返ったかの様にマックス氏は下を向いたまま外に出てしまう。

「ごめん...マックス氏...」

マックス氏を弟の様に思って何でも甘えて負担ばかりかけてしまっていたのかもしれない...後でちゃんと謝らないといけないな、ああ反省してもしたりない...



「あー駄目だ駄目だ...何であんな事言ってしまったんだ!僕は!」

部屋に戻って兜を外して顔をバンバン叩く。

『僕がこいつと同じ事を強請ったら、エルマ様は僕にもしてくれるんですか?』

自分が言った言葉を思い出して自己嫌悪に陥る。

「あんな事言って...僕は馬鹿か!」

嫉妬だ、嫉妬がそうさせた...羨ましい妬ましい...そう思ってしまった...なんてみっともない事をしでかしたんだとマックスは思った。

1番近くにいるのに1番になれない、弟のポジションで仲良く笑いあえる関係で満足すると決めた筈なのに、何を嫉妬してディビドの事で責めたりしたんだ!エルマが悪い訳ではないのに...

エルマは優しい、誰に対しても包容力を持って受け入れてくれるのに、自分だって受け入れて貰えたのに別な人間がそれを受ける事が嫌だと思うなんて。

きっとディビドがエルマに対して恋慕の情があるせいだ、あいつははっきり言っていたのだ...

『初恋拗らせて一生童貞のまま護衛騎士のでいようとするヘタレに言われる筋合いはないですよ、エルマ様が望めば攫って行くくらいの覚悟もない癖に』

自分には攫っていく覚悟が無いヘタレだと言われたが事実だと思う、しがらみでは無いが人との繋がりが、トラウゴット教という組織に対する裏切り行為が出来ないからだ、それはエルマだって同じ筈である...だから決して寺院を去る事はしない筈だ...しかも聖サンソンを出現させる程の大きな奇跡を起こしたでは無いか!誰よりも神と共にあり神を裏切る事が出来ない方...絶対裏切る事はないはずなのに!

「やっぱり僕は馬鹿だ...」

そんな神聖な方に恋慕するこの気持ち...いや恋慕なんて生優しいものじゃない...劣情や執着のようなドロドロとした穢れたものだ...エルマの裸体を見た時以降ずっと夢に出てきて誘惑してくるのだ...閉じ込め抱きしめて唇を奪い全てを自分のものにしたい...あの憎いジル殿下と根本が同じなのだ...。

だから封印しなくては駄目なのだ...。

ふと部屋の鏡に映る自分を見る。

まだマルガレーテに幼いと言われた顔、黒い髪と青い瞳...父にも母にも似なかったその瞳...隔世遺伝だからと言われはしたがこの色が嫌で仕方なかった。

しかもエルマが怖がるジル殿下と同じ色だ。

きっとエルマ本人はこの瞳を見てそんな事は言わないと思うがジル殿下と同じ劣情を宿していると気づかれたら...そう思うとぞっとする。

居た堪れない気持ちになり再度兜を被る。

「...謝らなきゃ...エルマ様に...」

穢れた心を封印して『弟分のマックス』というポジションに戻らなくては...

ーーーーー
※ちょっとした小ネタというか裏設定
ディビドの父ジェセは元々エアヴァルド人の高位術士である。
賢者の称号を手に入れる為に一時的にウルムで活動中に国の要人に目をつけられて女性をけしかけられられうっかり子供が出来てしまい、ジェセはエアヴァルドに帰る事なく結婚しウルム国内に留まる事になったのだが...実の所、ハニトラ仕掛けた女性(ディビド母)が枯れ専でむしろジェセが好みにどストライクで好き過ぎて上にそこまで頼まれてもいないのに無理矢理既成事実を作って(術式で肉体強化して襲った)妊娠するとかやらかしてる。正直ドン引きである。
ちなみに18歳差の歳の差婚!(40歳と22歳)
ただジェセ自体も「無理矢理だったけどまぁお嫁さんも子供もめっちゃ可愛いのでこのままウルムに骨を埋めてもいいや」(この辺の性格がディビドに似てる)と思って楽しい毎日を送ってた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...