銭ゲバ令嬢なまぐさ司祭に溺愛される【R18】

chapter7:become a teacher

古い夢 その2

1人は戦闘奴隷となって世の中の不公正さや理不尽さや暴虐を知り、その困難に多くの友と乗り越えていくことで、人の弱さと強さ、友愛の喜びを知る為に。

1人は平凡な農民となって一つの家族を作り、天候に左右されたり野盗と戦いながらも日々の糧を得る為に働き続け、人を愛し1人の夫となり多くの子供の父となり、家族愛を育み、その喜びを知る為に。

1人は一国の王となり、強大な力をもって治世を行うもどうしても解決できない問題に直面しながら、それでも多くの民に対して公平に愛を示す難しさと素晴らしさを知る為に。

そして最後に勝利と呼ばれる天使にその命を受ける時の事だった。

彼には特別な任務を与えられる。

『愛する我が子よ、其方はハイラントの父の1人となるように、故に地に堕ちた邪悪な者達の心臓を打ち砕く力を使う事を許そう』

彼はそうして天使としての力の一部を解放する事が許された。

何故なら悪魔を滅ぼす血を継ぐ者の家系から誕生する為であり、その血に流れる悪魔の生贄の呪いを打ち砕く為でもあるからだ。

しかし勝利と呼ばれる赤子のような若い天使は、力をもったまま受肉し堕天した天使達が人の子達と子を成しゴライアス巨人を生み出した事を知っていた為に神に尋ねる。

『光栄ではありますが、私にその力を付与したまま人と結ばれるなら、我が子はゴライアス巨人となり得ませんでしょうか』

漠然とした不安というよりも、勝利と呼ばれる天使が神が天使が人と交わり子をなす事を禁じた為そう尋ねる。

創世の初期、ルーエンの時代に天使と人が交わり生まれたゴライアス巨人は人よりも増えて暴虐と淫行の限りを尽くし、神はそれ故にルーエンとその家族を安全な高い山の上へと保護し、大地を火と硫黄の海によって焼き尽くしたからだ。

地に堕ちた堕天使達は受肉した身体を捨て、心臓とも言える翡翠で出来た書き板になり、神の怒りをやり過ごした。

だがその時には天使と人が交わる事を禁じ、子を為せない様にし、元の姿からその本性と同じ程悍ましい姿になる様に、と創造者にして忠節なるトラウゴッド神は呪を施す。

創造者にして忠節なるトラウゴッド神に泣き叫び助けを求める事をできない様に、神本来の名を呼ぶ事が出来ない呪いと共に、故に彼等は創造者にして忠節なるトラウゴッド神を『彼の神』としか呼べなくなった。

若い天使はそれを知識として知っており、故に彼は人と交わる事自体に対して嫌悪のようなものを持っていたのである。

創造者にして忠節なるトラウゴッド神はそれを見透かし彼に幼子に対するように語りかける。

『素直で従順な我が子よ...案ずる事はない、其方の子は人となる...そして其方には相応しい娘を与えよう、ハイラントの母の1人となる娘、其方が希う程の娘を...一目見ただけですぐに分かるはず、その娘を深く愛し共に喜びを分かち合えるように...』

それは窘める為ではなく子を思いやる親のように語る。

そうして彼は地に降りて母となる者の胎に宿る、それまでの記憶を力と共に封じ込め、1人の人として誕生する為に。