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chapter6:Be baptized

洗礼式 その14

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「...シャウルには『罰』が下ったんですよ...本来ならディビッドのその髪と瞳の色は悪魔の呪いが消えた証であり姿なのですから、それを嫉妬深さの為に姉の不貞を疑いディビッドをすて...いや遠くへやってしまったのですから」

ヘルムートは顔を上げてディビッドの顔を見る。

基本ベースはシャウルに良く似ている顔立ちだが、所々にドロレスの面影が重なる顔。

ただ性格は違ってニコニコと笑顔を見せてばかりで、どこか不真面目でいたずら好きで無茶苦茶な事ををしでかしてもやるべき事はさらっとやってのけるも、聖職者として公の場に出るには難があり、正直壊滅的な所はあるがどこか憎めず甘やかしてしまうような性格のディビッド。

孤児としての生活を12歳まで送る事になって気の毒だと思う反面、むしろ12年間の孤児院での生活はディビッドにとっていろいろ悪い影響から守られる結果となったのかもしれない。

ロストックのフラウエン教会の孤児院を運営していた司祭ナサニエルの元での生活は良いものだったらしく、エステルがはしゃいで無理にバーレに連れて帰った時には暫く寂しくてこっそり泣いている事を知っていた。

ちなみにそれに対する反発やエステルやハイラント信者とも言える家の者達など周囲の甘やかしもあって、今のやや難のある性格になったのは否めない。

「叔父上はっきり言って良いですよ?実の父親に捨てられた事もティナは知ってますし」

「...お前は本当にそのあたり悲観的にならない所が美徳というか...いや、それ以上に言わねばならないのはディビッド、シャウルと同じ過ちを、嫉妬に狂い道を踏み外す事が無い事を私は願うのだ、シャウルの嫉妬は自身も周囲を苦しめる結果となったお前にもバレンティナ様にもそんな思いをさせたく無いのだ...」

ヘルムートは心配をしていたのだ、シャウルは許されない事をした...姉であるドロレスの死もエステルの事もそして捨てられたディビッドの事...事の発端は全てシャウルのドロレスに対する一方的な執着から生じた嫉妬故だ。

性格が似ていないからそうはならないだろう、と思っていたがここ数ヶ月の報告に実際の目で見た時に、その本質に同じものを感じてしまうのだ。

『生贄の娘の血故に生まれた子が女であれば男を惑わし、男であればその血を守る為に女を囲う』というのはあながち間違いないのだろう。

不安な表情を見せるヘルムート、なんだかんだでエステルもディビッドもヘルムートにとっては自分の子供の様に思っているのだ。

「大丈夫ですよ...叔父上、私は父の様にならないとから...そんな事をすればどんな結末が待っているかも...」

「?」

ディビッドの言葉に司祭ナサニエルの事か?とヘルムートは頭を巡らせるが、その事に関しては創造者にして忠節なるトラウゴッド神から直に見せられたトラウマ級の夢が原因である。

自身がもし父シャウルと同じくそんな事をすれば、今この手に抱くバレンティナを失う事になるという強烈な警告は二度と味わいたく無いのだ。

「...そうか...おや?バレンティナ様...」

ディビッドが膝に乗せて抱き込んでしまっているバレンティナは疲れの為かいつのまにかスヤスヤ、と眠ってしまっている。

「眠ってしまったのですね、さっきも眠そうにしてましたし...一度寝ちゃうと何をしても起きてくれないんですよねぇ」

「流石にバレンティナ様の部屋に戻って寝かせてあげなさい」

とディビッドの言葉に何でそんな事を知っているのか引っ掛かる気もするが、そのままにするのもいけないとヘルムートは人を呼ぶと、すぐに使用人が現れる。

「別に家の者を呼ばずとも私が連れて行きますよ」

「いやお前が勝手に自分の部屋に連れ込んだり、入り浸ったりするかもだからな」

やや不満気にバレンティナを抱き上げて使用人と共に部屋を出ようとするディビッド。

その後ろ姿を見てヘルムートはシャウルの面影を見る。

確かにシャウルに関してはどちらかというと嫌われていたし、姉の件で恨む事も多かったが、よく知った間柄であったし、張り合いながらの腐れ縁のような関係でもあった為そこまで仲は悪くなかった...とヘルムートは思っているのだ。

部屋を出る姿を見てから目を瞑る

「シャウル、ディビッドはお前とは違う道を歩める自信があるみたいだぞ」

小さい頃の自分と姉ドロレスとシャウルの姿を思い出しながらヘルムートは呟くのだった。
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