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本編

作戦なし

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部屋で寛いでいるとコンコン、とドアが鳴った。
「ヴィンセントさん」
知的な眼鏡を掛け直しながら言った。
「今、大丈夫か?」
「はい。どうぞ」
部屋に招いてお茶を入れる。あ、ノアさんからもらったお菓子もだそうかな。

「突然すまない」
「いえ、大丈夫です…どうされました?」
「いや、君が…あのことを誰にも言っていないのが気になった。どうしてだ?」
キスのことか。
「ええと、別に嫌じゃありませんでした」
「そんなはずはない」
「でもそうなんです。ヴィンセントさんにされても嫌じゃありませんでした」
「…そんなはずはない、嘘はつかないでくれ」
いや本当なんだけどな。知的クールな美形参謀にキスされてもぜんぜん嫌な気持ちにはならなかった。

「どうしてそう思っているんですか?」
「こんな顔だからな。自分でももうわかっている」
「…本当に嫌じゃありませんでした。嘘じゃないです」
「…私のことは、君はどう思っている?」
知的クール眼鏡美形だと思っています。
「ええっと…参謀さんでとても頭が良くて格好良いです」
「ありがとう。だがお世辞は良いんだ」
なんかもう拉致が開かないな。
「私、全然ヴィンセントさんに媚薬飲まなくてもキス出来ますよ」
「嘘はやめてくれ」
「本当です」
「…出来るものならしてみろ」
「良いんですか?」
私はそっと近寄ってヴィンセントさんにキスをした。

ヴィンセントさんはすうっとした涙をいくつもこぼす。綺麗だなって場違いにそう思った。
「…こんな私にどうしてだ。いくらでも蔑まれて来た。もう、どうなっても良いと思っていたのに」
その姿があまりにも可哀想で、私はヴィンセントさんを抱きしめた。
「ごめんなさい」
「どうして君が謝る」
「泣かせてしまって、ごめんなさい。でも、私はヴィンセントさんのことを蔑んだりなんて絶対しません。…ずっとずっと辛かったんですよね」

私は何度か触れるだけのキスをした。彼がどれだけ今まで傷ついて来たか、それを少しでも埋めてあげれるのなら、とそう思った。
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