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09 共犯者

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 元々側妃だった彼女は、実家の政治力を高めるために自分の姪ペルセフォネ嬢を、前王妃の息子ギャレット様と結婚させるおつもりだった。

 既に正式な婚約者さえ居るのなら、大国のお姫様を正妃としてではなく、側妃として迎えられる訳もない。許されない状況に、彼女はギャレット様を諦めるしかなかった。

 とは言え、こうして客席で見ているだけでも良いと思っているのなら、彼女の恋心は本物なのかもしれない。

 そんな彼女が居たからこそ、家は多額の借金にまみれ彼女の言いなりになるしかない私が、期間限定で婚約者の座を埋めなければならなかった。

 世界的にモテてしまう王子様ギャレット様のお陰で、我がメートランド侯爵家は間接的に救われることになったのだから、彼に感謝すべきなのだわ。

 私もクインも……そして、他でもないお父様も。

「……ローレン」

 不意に背後から聞こえて来た低い声に、私は驚いた。こんな人目のある場所で、この人が私に声を掛けるなんて思わなかったからだ。

 そんな驚きをどうにか押し隠して、私は何食わぬ顔でにっこりと微笑んだ。

「イーサン。ここは王族の関係者の観覧席よ……何故、貴方がこんな所に?」

 彼との関係が親しいものではないと示すように手に持っていた扇を広げた私は口元を隠し、周囲に変な目で見られないかを警戒しつつ彼に問うた。

 前髪を後ろに撫で付けた黒髪に、鋭い狼のような金色の目。冷たくも見えるほどに整った顔の口元には、皮肉げな笑みを浮かべていた。

 高級そうな生地で作られた体に沿った服を身にまとい隙のない出で立ちは、彼一人たった一代で大きな商会を育て上げた百戦錬磨の商人のイーサンらしい。

「そんな、距離のある他人行儀な対応をするなよ……俺たちは、将来的に結婚する仲だろ?」

 余裕な態度と人を試すような笑み、こんな所で何を言うつもりだと私は立ち上がった。

「っ! もう、良いわ……早く、こちらへ」

 小声で言った私はイーサンの答えを待つことなく、彼に背を向けて歩き出した。

 イーサンは世界を股に掛ける、大富豪の商人。私と同じように……王妃に雇われ彼女には頭が上がらない。同じ到達点を目的とする仕事を任され、逃しがたい報酬を約束された立派な共犯者だ。
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