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89 unforgettable encounter(Side Romeo)(3)
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ロミオは王都を出て順当に冒険者となり各地で成果を上げ、そこそこ名は知られるようになった。
どんどんギルドでのランクは上がり、難しいクエストを何度もこなしたから小金も手にした。
身長が高いだけでひょろりとした身体は強くなりたいがために必死で鍛えたことも相待って、女の子から誘われることも増えた。時折、思い出してしまうミルドレッドの哀しげな笑顔を忘れられなかったから、誰に声を掛けられようがそんな気にはなれなかった。
魔王復活の知らせを聞いたのは、ある酒場で夕食を食べていた時だった。
数多く居る客は響めき歓声をあげ、一攫千金のチャンスに色めきだった。別に勇者本人にならずとも、勇者のパーティの一員にさえなれれば、庶民では夢にも思っていないほどの巨額の報酬を手にすることが出来る。
知らせに盛り上がる中で、ごくりと喉を鳴らしてエールを飲み込めば、ロミオの心はもう宙を飛んでいた。
(勇者……)
思ってもみない、立ち位置だった。貧しい庶民に生まれ、順当に家を出て冒険者になった。
運良く新人の頃に指導してくれた師匠代わりの先輩は、なんと最高位の冒険者SSランクにまで上り詰めるほどの実力者だった。彼の傍で戦闘の実践的技術を学び、普通なら願うべくもないほどの貴重な経験を積むことが出来ていた。
それに自分も元々の筋も良かったようで、今はこの年齢では異例とも言える短期間で昇格したAランク冒険者だ。このまま弛まぬ努力を続け、師匠と呼べる先輩に土下座してでも頼み込み、もっと実力を上げさえすれば、そうすれば。
(勇者になって魔王さえ倒せば、あのミルドレッド・カーライルを手に入れることが出来る……?)
もしかしたら、手に入るかもしれないと思った途端に、それは決して諦められないものへと変わってしまった。
(そうだ。何もかもを手に出来るという勇者になれば……俺にも、俺にだって手が届くかもしれない)
遠い昔の勇者は王家の姫との結婚を望み、それを許されたというくらいだ。ミルドレッド・カーライルは男爵令嬢で、それよりは確かに希望があるだろう。
世界を救う勇者にさえなれば、この恋は叶うだろう。ロミオは、そう思い至り片手をぎゅっと強く握り締めた。
(勇者にさえなれば……俺にも、あの人は振り向いてくれるかもしれない。あの表情を、笑顔に変えることが出来れば。きっと)
どんどんギルドでのランクは上がり、難しいクエストを何度もこなしたから小金も手にした。
身長が高いだけでひょろりとした身体は強くなりたいがために必死で鍛えたことも相待って、女の子から誘われることも増えた。時折、思い出してしまうミルドレッドの哀しげな笑顔を忘れられなかったから、誰に声を掛けられようがそんな気にはなれなかった。
魔王復活の知らせを聞いたのは、ある酒場で夕食を食べていた時だった。
数多く居る客は響めき歓声をあげ、一攫千金のチャンスに色めきだった。別に勇者本人にならずとも、勇者のパーティの一員にさえなれれば、庶民では夢にも思っていないほどの巨額の報酬を手にすることが出来る。
知らせに盛り上がる中で、ごくりと喉を鳴らしてエールを飲み込めば、ロミオの心はもう宙を飛んでいた。
(勇者……)
思ってもみない、立ち位置だった。貧しい庶民に生まれ、順当に家を出て冒険者になった。
運良く新人の頃に指導してくれた師匠代わりの先輩は、なんと最高位の冒険者SSランクにまで上り詰めるほどの実力者だった。彼の傍で戦闘の実践的技術を学び、普通なら願うべくもないほどの貴重な経験を積むことが出来ていた。
それに自分も元々の筋も良かったようで、今はこの年齢では異例とも言える短期間で昇格したAランク冒険者だ。このまま弛まぬ努力を続け、師匠と呼べる先輩に土下座してでも頼み込み、もっと実力を上げさえすれば、そうすれば。
(勇者になって魔王さえ倒せば、あのミルドレッド・カーライルを手に入れることが出来る……?)
もしかしたら、手に入るかもしれないと思った途端に、それは決して諦められないものへと変わってしまった。
(そうだ。何もかもを手に出来るという勇者になれば……俺にも、俺にだって手が届くかもしれない)
遠い昔の勇者は王家の姫との結婚を望み、それを許されたというくらいだ。ミルドレッド・カーライルは男爵令嬢で、それよりは確かに希望があるだろう。
世界を救う勇者にさえなれば、この恋は叶うだろう。ロミオは、そう思い至り片手をぎゅっと強く握り締めた。
(勇者にさえなれば……俺にも、あの人は振り向いてくれるかもしれない。あの表情を、笑顔に変えることが出来れば。きっと)
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