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88 unforgettable encounter(Side Romeo)(2)

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(謝るなよ。こんなに、見ず知らずの誰かもわからない人間に優しくしてくれている人が。こんな俺に向かって、何で謝るんだよ)

 彼女の長い金髪が白い光を跳ねて、それが翼のようにも見える。天使のような、心優しく美しい女の子。だが、何故か彼女は儚げで笑っているのに泣きそうだ。

 ロミオが彼女がそんな顔をしている理由に気がつくのには、そう時間は掛からなかった。

「おい。ミルドレッド。本当にお前はグズで、鈍間だな、さっさと来い。そんな汚い貧民には、もう手を触れるな」

「っ……」

 あまりの言いようにロミオが立ち上がろうとしたが、彼女は再び泣きそうにも見える笑顔を残し白いハンカチだけをロミオの手に押し付けるように渡し去ってしまった。

 上質な生地のスカートの裾が、ふわりとして翻る。それが自分のためにしゃがみ込んだために濡れた土に塗れて汚れているのを見て、ひどく悲しくなった。

 さっき嘲るような言い様の男に何かを言われながら手を引かれ、彼女は遠くに見える待っていた馬車に乗り去っていく。

 ゆっくりと上半身を起こし、大きく息をついた。

 これまでの人生で自分の生まれついての身分に、どうこう思うことなどなかった。だが、今この手には何も無く、あんな風に理不尽に罵られ乱暴に手を引かれていく女の子を、助けてあげることも出来ない。

 青い空を見上げこの身に流れる血を呪ったところで、その解決法は生まれ直すしかない。

(……どうせ、俺には手の届かない人だ)

 あの人の残した切なく儚げな表情を思い出せば、泣けてしまうくらいに胸が痛くなり締め付けられた。自分が汚れるのも構わずに泥にまみれた男に近づき、優しく声を掛け傷まで癒そうとした。

 心優しく美しい、決して手の届くことのない貴族令嬢。

 あの男が口にしたミルドレッドという珍しい名前から、何とか素性を調べればカーライル男爵の娘だということはすぐに知れた。だからと言って、何の望みも抱いてはいない。その時には庶民の自分には無相応な手の届かない存在を、本気で手に入れようなんてまだ思ってはいなかった。

 だが、絶対に自分には手に入らないものほど、狂おしいほどに所有欲を唆ることを知った。

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