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82 the legendary monster(3)
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「……え?」
宙を見上げエレクゼイドが言った言葉に応えるように、闇の中に無数の目が浮かぶ。慌てて周囲を見渡せばまるで四方八方を取り囲むような、数え切れないほどの目だ。
「ふざけるなっ!」
ロミオの身体から彼の堪えきれない怒りの気持ちを放つような青い光がぶわりと飛び散り、辺りの魔物たちはそれに当たるまいと素早い動きで身を引いた。気がつけば信じられないくらい程の数の魔物が取り巻いている。
「世界最強の勇者と呼ばれ、その程度の力で驕っているのか。唯一の頼みの仲間は捕えられ何の助力も期待出来ない中で、この可愛らしい女の子を守りつつ一人で切り抜けられると? 僕は、君が倒したという魔王の数倍は強いよ。創世の、伝説の魔物の内の一人だ。もちろん。君も、それは重々理解しているとは思うが」
エレクゼイドの整然とした言葉を聞いて、ロミオは端正な顔を歪めた。強き者ほど、相対している敵の能力を正確に掴む。だからこそ、生き残れるのだ。
(ロミオも、自分がエレクゼイドに敵わないことはわかっている。けれど、私が居るからもう引けないんだ)
ミルドレッドはロミオの手を持って、彼の蒼い目を見て言った。
「ロミオ……お願い。お願い。私の言う事を聞いて」
「ミルドレッド……」
「私は、大丈夫。全員の命が助かるためなら、こんなこと全然平気よ。お願いだから。今ここで、短気を起こさないで。私と一緒に帰りましょう。お願いだから、落ち着いて。お願い……」
切々とした声に、ロミオの瞳は揺れた。そして、彼の身体を取り巻いていた青い光は消え、周囲の魔物たちからは冷やかすようなどよめきの声。
「話は、決まったようだね」
そして、エレクゼイドは軽く人差し指を振った。長方形の白いベッド。今からする行為に必要ないと見てか、上掛けなどは何処にも見当たらない。
ミルドレッドは覚悟を決めて、ロミオの手を引いた。
「ロミオ……わかってくれて、ありがとう」
彼を見つめると、ロミオは悔しそうにして俯いた。
「まただ……俺が、俺がもっと強ければ。ミルドレッドに、こんな風に辛い思いをさせることがなかったのに」
その言葉と、悔恨の表情には疑問が残った。けれど、その意味を確かめている時間は今はなかった。
「大丈夫よ。ロミオ。私は貴方と居れば、強くなれる。私、わかったの。愛してくれる人を愛して心が強くなれば、怖いものなんて何もない。私が怖いのは、ロミオを失うことだけなの。だから、こんなこと全然平気なのよ」
宙を見上げエレクゼイドが言った言葉に応えるように、闇の中に無数の目が浮かぶ。慌てて周囲を見渡せばまるで四方八方を取り囲むような、数え切れないほどの目だ。
「ふざけるなっ!」
ロミオの身体から彼の堪えきれない怒りの気持ちを放つような青い光がぶわりと飛び散り、辺りの魔物たちはそれに当たるまいと素早い動きで身を引いた。気がつけば信じられないくらい程の数の魔物が取り巻いている。
「世界最強の勇者と呼ばれ、その程度の力で驕っているのか。唯一の頼みの仲間は捕えられ何の助力も期待出来ない中で、この可愛らしい女の子を守りつつ一人で切り抜けられると? 僕は、君が倒したという魔王の数倍は強いよ。創世の、伝説の魔物の内の一人だ。もちろん。君も、それは重々理解しているとは思うが」
エレクゼイドの整然とした言葉を聞いて、ロミオは端正な顔を歪めた。強き者ほど、相対している敵の能力を正確に掴む。だからこそ、生き残れるのだ。
(ロミオも、自分がエレクゼイドに敵わないことはわかっている。けれど、私が居るからもう引けないんだ)
ミルドレッドはロミオの手を持って、彼の蒼い目を見て言った。
「ロミオ……お願い。お願い。私の言う事を聞いて」
「ミルドレッド……」
「私は、大丈夫。全員の命が助かるためなら、こんなこと全然平気よ。お願いだから。今ここで、短気を起こさないで。私と一緒に帰りましょう。お願いだから、落ち着いて。お願い……」
切々とした声に、ロミオの瞳は揺れた。そして、彼の身体を取り巻いていた青い光は消え、周囲の魔物たちからは冷やかすようなどよめきの声。
「話は、決まったようだね」
そして、エレクゼイドは軽く人差し指を振った。長方形の白いベッド。今からする行為に必要ないと見てか、上掛けなどは何処にも見当たらない。
ミルドレッドは覚悟を決めて、ロミオの手を引いた。
「ロミオ……わかってくれて、ありがとう」
彼を見つめると、ロミオは悔しそうにして俯いた。
「まただ……俺が、俺がもっと強ければ。ミルドレッドに、こんな風に辛い思いをさせることがなかったのに」
その言葉と、悔恨の表情には疑問が残った。けれど、その意味を確かめている時間は今はなかった。
「大丈夫よ。ロミオ。私は貴方と居れば、強くなれる。私、わかったの。愛してくれる人を愛して心が強くなれば、怖いものなんて何もない。私が怖いのは、ロミオを失うことだけなの。だから、こんなこと全然平気なのよ」
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