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75 sacrifice(1)

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 暗闇の中で、どのくらい経っただろうか。

 何か近くで物音がして、ミルドレッドは耳を欹てた。もしかしたら、今まさに待っているロミオが、ここへ来てくれたのかもしれないと思ったからだ。

 少しも、疑うことはなかった。必ず、必ず彼が来てくれるとわかっていた。

 けれど、そこに居たのはロミオではなかった。

「あれ? 可愛い女の子が入ってる」

 頭上にあった木の板が外された気配がして、同時に聞こえてきた面白げな幼い男の子の声に、ミルドレッドは驚愕した。

(……どうして、ここに子どもが居るの?)

 それにミルドレッドの視界は闇のままだというのに、彼は何の支障なく自由に動いているようだ。

 ミルドレッドはこの状況下での余りに信じ難い事態に、声を出すことも出来ず、彼の居るだろう方向を見上げるしか出来ない。

「ああ。ごめんごめん。人間は、闇の中では目が見えないんだったね」

 朗らかに彼がそう言うと、明るい緑色の光球が闇の中にいくつか舞い上がり、ミルドレッドは闇に慣れていた目に、いきなりの光量が眩しくて瞼を思わず閉じた。

「……やあ。どうも。初めまして。どうして、こんなところに居るの? 僕も長い間ここに棲んでいるけど、君のような若い人の女の子が、ここに居るのは初めての事だ」

 薄目で光に慣れるまで我慢すれば、ミルドレッドが思っていた通りに箱の縁に小さな両手を掛けた一人の男の子がそこに居た。

 ただ、信じ難いほどに際立った顔貌を持つ、黒髪黒目は闇に溶けるような漆黒で、まさに魔性のようなと呼ぶのに相応しい、その姿。

「……あの……」

 ミルドレッドは、何を言うべきか迷った。

 先ほど自分を人間と評した事からも、神殿近くの人里離れた洞窟の中にいて、常人では有り得ないほどに美しい彼は、間違いなく人間ではない。

 そして、遠い記憶の中、誰かから聞いた話によると、魔物の力の強さは人化した時に問われるのだという。すなわち、妖しく玲瓏な美貌の少年がとてつもなく強い魔物であることは、まず間違いないだろう。

(どうしよう……もし、余計な事を言って……彼の機嫌を損ねるようなことになったら……)

 容易に思い浮かぶ嫌な想像のあまりの恐ろしさに、知らず喉が鳴った。黙ってままでいるミルドレッドに向かって、彼は無邪気な素振りで首を傾げた。

「ああ……手を、後ろで縛られているね。そうか。君は誰かに騙されて……ここに居るの? 僕はそんなものを、供物として求めた覚えはないんだけど」

(僕が……? もしかして……この子が)

 ミルドレッドはその事実に気がついて、ふらっと視界が揺れ気を失ってしまいそうになった。

 クリスティーナは、あの時に言ったはずだ。

「エレクゼイド……?」

 ぽろりと唇から溢れ落ちた言葉に、彼は良く出来たと言わんばかりに鷹揚に一度頷いた。

「そう。僕の名前は、エレクゼイド。この世界が出来てすぐに形作られて、今までずっと変わらずに存在している。人とこうして話すのは、とても久しぶりだ。暇つぶしに付き合ってくれたら、君が元居た場所に何事もなく返してあげても良いよ」

 そう言って、彼は優しく微笑んだ。
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