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 翌日の朝。

 心配性のロミオは自分のいない間に何かあっては嫌だからと、当分の間は一緒に居た方が良いと渋った。だが、ミルドレッドに「もう大丈夫だから」と宥められ、一部始終の会話を見ていたアランに揶揄われつつ、彼と連れ立って探索中の洞窟へと向かった。

 ミルドレッドは、別に彼らに迷惑をかけられないと強がったという訳ではなかった。

 今はもうテオフィルスやコーデリアの二人に何を言われても、言い返せなかったあの頃の自分ではない。昨日横暴な元婚約者に対して言いたかった事を言えて、そう思えたからだ。

(誰よりも私を大切にしてくれるロミオが、居てくれると思えば。彼が傍に居なかったとしても、別にあんな人たちなんて怖くない)

 これまでに自分に自信が持てなかったのは、どうしても「誰からも愛されない自分に、何の価値などないのではないだろうか」という強い不安が付き纏ったからだった。

 そんなミルドレッドには、家族より誰より愛をくれるロミオが居る。自分と結婚するための権利を得るためにと、彼がしてくれた事を思えば、彼らが何を言ったとしても何も怖くないと思える。

 だから、昨日テオフィルスの来訪を告げた神官がまた困った顔をして現れても、動揺はなかった。ミルドレッドにとっては予想がついていた事だったので、平静にそれに応えて彼に礼を言った。

 そして、昨日と同じように面会室までの廊下を辿る。

 血の繋がらない妹のコーデリアは、甘やかされ自分勝手で傲慢なテオフィルスとは別の意味で嫌な性質を持っていた。自分の下の立場に居ると思っている姉ミルドレッドが何か自分より優遇されていると思えば、それがどうしても許せない。

 せっかく手に入れたはずの裕福で見目の良い婚約者テオフィルスが、ミルドレッドの元に訪れたことについて、彼女が今どれだけ苛立っているか冷静に分析出来た。

(どうしても……私の事を、許せないから。きっと、何かを言いに来ると思った。コーデリアは、自分が負けたままでいるなんて我慢出来ないものね。特に……私に対しては)

 いつも自分は両親に愛されているからと、愛されないミルドレッドを見下していた。

 コーデリアの行動は幼い頃から単純だから、すぐに次にどうするかを読めてしまう。自分がそうした後のことなど、全く何も考えてないからだ。どうしても収まらない怒りを何も言えない姉にぶつけて泣かせれば、それで良いと思っている。

 ミルドレッドが扉を叩いてからそれを開ければ、座っていたコーデリアの愛らしい顔は醜く歪んだ。

 その事について頓着せずに、ミルドレッドは平気な顔をして彼女の前に腰掛けるとコーデリアはイラッとした様子で叫び出した。これまでならばコーデリアがいつ癇癪を起こし怒鳴られるのかと、おどおど怯えていたはずだ。

 今はもう、感情の見えない表情でただ見返していた。

「何よ。その顔……良い気に、ならないで……あんたなんか」

「コーデリア。私はカーライルの名を、捨てるわ。お父様にそう伝えて。そうすれば、私はカーライル男爵の娘でも貴族でもなくなるし、テオフィルスの元に嫁ぐ事もない。貴女の姉でもない。無関係なんだから、二度と関わらないで」

「は? 何言ってるの……カーライルの名を捨てるって……」

 思わぬ姉の反撃に驚いているコーデリアに畳み掛けるように、ミルドレッドは冷静に言った。
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