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54 versus(1)
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「えー……一年も戦ってないのに、鈍ってんじゃないのー? そんなんで……今の俺に、勝てると思ってんの」
何かを誤解して完全に不機嫌になっているロミオに、アランはにやにやとしながら煽った。
「剣を、寄越せ。今代剣聖に俺が勇者にまで上り詰めた男であることを、よくよく身体に教えてやるよ」
この状況を完全に面白がっているアランは肩を竦めて、腰に下げていた短い剣の一本をロミオに向けて放り投げた。
「はは。まー……俺が勇者決める勝ち抜き戦で、途中敗北したのは確かに、事実だけどね。だが、戦闘は、相性の問題もあるから、お前個人に負けた訳じゃあない訳で。久しぶりに、模擬戦でもやろっか。ロミオ」
「望むところだ」
止めようと動いたミルドレッドが、何かしらの言葉を挟む間もなく、互いに銀色にきらめく剣を慣れた様子で鞘から抜いた。
そして、息をつかせぬ速さで二人は動き出す。
剣聖アランが戦闘をしているところを初めて見るが、彼の武装した姿を見た時に思った通りに、素早さ特化のようだ。
ロミオが一撃放つところ、彼はそれに比べると軽さがあるものの、数回の攻撃を与えているようだ。なんならアランの動きが速過ぎて、ミルドレッドはその姿がきちんと視界に掴めない。
対して勇者ロミオは、アランの素早い攻撃をすべて見切った上で、狙い定めた重い一撃で対抗している。不思議な事だが、彼らは示し合わせたようにお互いの攻撃を楽しんでいるかのようだ。まるで、その姿は剣舞を舞い踊るように戦っている。
(すごい……彼らほどの使い手が戦うと、芸術的なとても価値のある踊りを見ているような気がする。すごい……)
ミルドレッドは、今までの生活の中でこんな戦闘は見たことがない。
国民たちの娯楽にもなっている、大きな闘技場で行われる勇者を決める勝ち抜き戦だって、大変な倍率の高価なチケットが必要なために観に行ったことはなかった。
まるで体重を感じさせない蝶がひらひらと舞うような軽い動きは、長い長い訓練を積んで鍛え上げられた強靭な肉体を持つ者でないと、絶対に出来ないだろう。
そして、勝負が付くのも一瞬だ。
音を立てて地面に背をつかされたアランが、ロミオに刃を首筋に当てられて、降参と両手を上げた。
「っはー……くっそ。まじか。動きが、変わらな過ぎる。絶対、おかしい……いや、俺が鈍ってんのかー? まあ、魔王倒して、気が抜けたのは事実だけどさー……」
「気が抜け過ぎじゃないか。一年前よりも、一手減ってる気がする」
「……余計なこと言う男は、嫌われるよ。俺は凄く優しいから。一応、言い難いことも、忠告しといてあげるね……」
ロミオは天を仰いだままのアランを一瞥してから立ち上がると、ミルドレッドにムッとした顔を向け抗議するように言った。
「……俺が、起きたらすぐ傍にいないし。こんなところで、アランと一緒に笑い合ってるのはダメだと思う」
子どもっぽい理由で気分を害したと懸命に主張するのを見て、ミルドレッドは堪え切れずに笑い出して、釣られるように倒れたままのアランが笑い出した。
そして、一瞬呆気に取られた様子のロミオも笑い出して、彼の瞳の色を思わせる青い空に三人の笑い声は広がった。
何かを誤解して完全に不機嫌になっているロミオに、アランはにやにやとしながら煽った。
「剣を、寄越せ。今代剣聖に俺が勇者にまで上り詰めた男であることを、よくよく身体に教えてやるよ」
この状況を完全に面白がっているアランは肩を竦めて、腰に下げていた短い剣の一本をロミオに向けて放り投げた。
「はは。まー……俺が勇者決める勝ち抜き戦で、途中敗北したのは確かに、事実だけどね。だが、戦闘は、相性の問題もあるから、お前個人に負けた訳じゃあない訳で。久しぶりに、模擬戦でもやろっか。ロミオ」
「望むところだ」
止めようと動いたミルドレッドが、何かしらの言葉を挟む間もなく、互いに銀色にきらめく剣を慣れた様子で鞘から抜いた。
そして、息をつかせぬ速さで二人は動き出す。
剣聖アランが戦闘をしているところを初めて見るが、彼の武装した姿を見た時に思った通りに、素早さ特化のようだ。
ロミオが一撃放つところ、彼はそれに比べると軽さがあるものの、数回の攻撃を与えているようだ。なんならアランの動きが速過ぎて、ミルドレッドはその姿がきちんと視界に掴めない。
対して勇者ロミオは、アランの素早い攻撃をすべて見切った上で、狙い定めた重い一撃で対抗している。不思議な事だが、彼らは示し合わせたようにお互いの攻撃を楽しんでいるかのようだ。まるで、その姿は剣舞を舞い踊るように戦っている。
(すごい……彼らほどの使い手が戦うと、芸術的なとても価値のある踊りを見ているような気がする。すごい……)
ミルドレッドは、今までの生活の中でこんな戦闘は見たことがない。
国民たちの娯楽にもなっている、大きな闘技場で行われる勇者を決める勝ち抜き戦だって、大変な倍率の高価なチケットが必要なために観に行ったことはなかった。
まるで体重を感じさせない蝶がひらひらと舞うような軽い動きは、長い長い訓練を積んで鍛え上げられた強靭な肉体を持つ者でないと、絶対に出来ないだろう。
そして、勝負が付くのも一瞬だ。
音を立てて地面に背をつかされたアランが、ロミオに刃を首筋に当てられて、降参と両手を上げた。
「っはー……くっそ。まじか。動きが、変わらな過ぎる。絶対、おかしい……いや、俺が鈍ってんのかー? まあ、魔王倒して、気が抜けたのは事実だけどさー……」
「気が抜け過ぎじゃないか。一年前よりも、一手減ってる気がする」
「……余計なこと言う男は、嫌われるよ。俺は凄く優しいから。一応、言い難いことも、忠告しといてあげるね……」
ロミオは天を仰いだままのアランを一瞥してから立ち上がると、ミルドレッドにムッとした顔を向け抗議するように言った。
「……俺が、起きたらすぐ傍にいないし。こんなところで、アランと一緒に笑い合ってるのはダメだと思う」
子どもっぽい理由で気分を害したと懸命に主張するのを見て、ミルドレッドは堪え切れずに笑い出して、釣られるように倒れたままのアランが笑い出した。
そして、一瞬呆気に取られた様子のロミオも笑い出して、彼の瞳の色を思わせる青い空に三人の笑い声は広がった。
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