上 下
54 / 91

54 versus(1)

しおりを挟む
「えー……一年も戦ってないのに、鈍ってんじゃないのー? そんなんで……今の俺に、勝てると思ってんの」

 何かを誤解して完全に不機嫌になっているロミオに、アランはにやにやとしながら煽った。

「剣を、寄越せ。今代剣聖に俺が勇者にまで上り詰めた男であることを、よくよく身体に教えてやるよ」

 この状況を完全に面白がっているアランは肩を竦めて、腰に下げていた短い剣の一本をロミオに向けて放り投げた。

「はは。まー……俺が勇者決める勝ち抜き戦で、途中敗北したのは確かに、事実だけどね。だが、戦闘は、相性の問題もあるから、お前個人に負けた訳じゃあない訳で。久しぶりに、模擬戦でもやろっか。ロミオ」

「望むところだ」

 止めようと動いたミルドレッドが、何かしらの言葉を挟む間もなく、互いに銀色にきらめく剣を慣れた様子で鞘から抜いた。

 そして、息をつかせぬ速さで二人は動き出す。

 剣聖アランが戦闘をしているところを初めて見るが、彼の武装した姿を見た時に思った通りに、素早さ特化のようだ。

 ロミオが一撃放つところ、彼はそれに比べると軽さがあるものの、数回の攻撃を与えているようだ。なんならアランの動きが速過ぎて、ミルドレッドはその姿がきちんと視界に掴めない。

 対して勇者ロミオは、アランの素早い攻撃をすべて見切った上で、狙い定めた重い一撃で対抗している。不思議な事だが、彼らは示し合わせたようにお互いの攻撃を楽しんでいるかのようだ。まるで、その姿は剣舞を舞い踊るように戦っている。

(すごい……彼らほどの使い手が戦うと、芸術的なとても価値のある踊りを見ているような気がする。すごい……)

 ミルドレッドは、今までの生活の中でこんな戦闘は見たことがない。

 国民たちの娯楽にもなっている、大きな闘技場で行われる勇者を決める勝ち抜き戦だって、大変な倍率の高価なチケットが必要なために観に行ったことはなかった。

 まるで体重を感じさせない蝶がひらひらと舞うような軽い動きは、長い長い訓練を積んで鍛え上げられた強靭な肉体を持つ者でないと、絶対に出来ないだろう。

 そして、勝負が付くのも一瞬だ。

 音を立てて地面に背をつかされたアランが、ロミオに刃を首筋に当てられて、降参と両手を上げた。

「っはー……くっそ。まじか。動きが、変わらな過ぎる。絶対、おかしい……いや、俺が鈍ってんのかー? まあ、魔王倒して、気が抜けたのは事実だけどさー……」

「気が抜け過ぎじゃないか。一年前よりも、一手減ってる気がする」

「……余計なこと言う男は、嫌われるよ。俺は凄く優しいから。一応、言い難いことも、忠告しといてあげるね……」

 ロミオは天を仰いだままのアランを一瞥してから立ち上がると、ミルドレッドにムッとした顔を向け抗議するように言った。

「……俺が、起きたらすぐ傍にいないし。こんなところで、アランと一緒に笑い合ってるのはダメだと思う」

 子どもっぽい理由で気分を害したと懸命に主張するのを見て、ミルドレッドは堪え切れずに笑い出して、釣られるように倒れたままのアランが笑い出した。

 そして、一瞬呆気に取られた様子のロミオも笑い出して、彼の瞳の色を思わせる青い空に三人の笑い声は広がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

祝福のキスで若返った英雄に、溺愛されることになった聖女は私です!~イケオジ騎士団長と楽勝救世の旅と思いきや、大変なことになった~

待鳥園子
恋愛
世界を救うために、聖女として異世界に召喚された私。 これは異世界では三桁も繰り返した良くある出来事のようで「魔物を倒して封印したら元の世界に戻します。最後の戦闘で近くに居てくれたら良いです」と、まるで流れ作業のようにして救世の旅へ出発! 勇者っぽい立ち位置の馬鹿王子は本当に失礼だし、これで四回目の救世ベテランの騎士団長はイケオジだし……恋の予感なんて絶対ないと思ってたけど、私が騎士団長と偶然キスしたら彼が若返ったんですけど?! 神より珍しい『聖女の祝福』の能力を与えられた聖女が、汚れてしまった英雄として知られる騎士団長を若がえらせて汚名を晴らし、そんな彼と幸せになる物語。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

【R18・完結】あなたの猫になる、いたずら猫は皇帝陛下の膝の上

poppp
恋愛
※ タイトル変更…(二回目‥すみません…)  旧題【R18】お任せ下さい、三度の飯より好きなので! 三度の飯より同衾が好きだと豪語する玲蘭(レイラン・源氏名)。 ある日突然、美醜の価値観の異なる異世界で目覚めるが、異世界といえど彼女の趣味嗜好は変わらない。 レイランから見たら超がつくイケメン達が、何故かそこではゲテモノ扱い。 ゲテモノ(イケメン)専用の遊女になると決めてお客様を待つ日々だったが、ある日彼女の噂を聞きつけ現れた男に騙され、(よく話しを聞いてなかっただけ)、なんと、帝の妃達の住まう後宮へと連れて行かれてしまう。 そこで遊女としての自分の人生を揺るがす男と再会する…。 ※ タグをご理解の上お読み下さいませ。 ※ 不定期更新。 ※ 世界観はふんわり。 ※ 妄想ごちゃ混ぜ世界。 ※ 誤字脱字ご了承願います。 ※ ゆる!ふわ!設定!ご理解願います。 ※ 主人公はお馬鹿、正論は通じません。 ※ たまにAI画像あり。

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

misa
恋愛
アマーリエ・ヴェッケンベルグは「脳筋一族」と言われる辺境伯家の長女だ。王族と王都を守る騎士団に入団して日々研鑽に励んでいる。アマーリエは所属の団長であるフリードリッヒ・バルツァーを尊敬しつつも愛している。しかし美貌の団長に自分のような女らしくない子では釣り合わないと影ながら慕っていた。 ある日の訓練で、アマーリエはキスをかけた勝負をさせられることになったが、フリードリッヒが駆けつけてくれ助けてくれた。しかし、フリードリッヒの一言にアマーリエはかっとなって、ヴェッケンベルグの家訓と誇りを胸に戦うが、負けてしまいキスをすることになった。 女性騎士として夜会での王族の護衛任務がある。任務について雑談交じりのレクチャーを受けたときに「薔薇の雫」という媚薬が出回っているから注意するようにと言われた。護衛デビューの日、任務終了後に、勇気を出してフリードリッヒを誘ってみたら……。 幸せな時間を過ごした夜、にわかに騒がしく団長と副長が帰ってきた。何かあったのかとフリードリッヒの部屋に行くと、フリードリッヒの様子がおかしい。フリードリッヒはいきなりアマーリエを抱きしめてキスをしてきた……。 *完結まで連続投稿します。時間は20時   →6/2から0時更新になります *18禁部分まで時間かかります *18禁回は「★」つけます *過去編は「◆」つけます *フリードリッヒ視点は「●」つけます *騎士娘ですが男装はしておりません。髪も普通に長いです。ご注意ください *キャラ設定を最初にいれていますが、盛大にネタバレしてます。ご注意ください *誤字脱字は教えていただけると幸いです

処理中です...