荒れ狂う勇者を宥めることが出来るのは、見放された聖女だけ。

24 sword master(3)

「城じゃね？　俺は旅しつつお前をずっと探し回ってたから、他の奴らの現在の様子はあんまり知らない。てか、リーシャとの縁談は、お前どうすんの？」

　軽い口調でロミオに質問しつつ、大剣を背から下ろし壁に立てかけたアランは当たり前のような顔で、ロミオとミルドレッドが朝食を取っていたテーブルの席についた。

「知らない……向こうも、嫌だろ」

「いやー。リーシャは、絶対期待してたとは思うよ？　お前いなくなった直後は、半狂乱になってたもん。さっきも言ったけど、俺はお前を探して出立して以来会ってないから……てかさ、この可愛いお嬢さんは誰なの？　なんで、朝なのにお前と一緒にいんの？」

　ぺらぺらと流れるような口調で喋っていたアランは、突然の展開にぽかんとして事の次第を見ていたミルドレッドの存在に目を留めた。

　ロミオの部屋で共に朝食の席に居る彼女に、不思議そうな顔で見た。

「……俺が意識のない間、彼女がずっとお世話してくれたんだ。ミルドレッド。驚かせてすまない。この騒がしいのは俺と魔王を倒す旅をした、剣聖。アラン・ストラーザン。喋り出すと止まらないから、相手するのが面倒だったら、俺に言ってくれ」

　剣聖。そう呼ばれるのは、勇者と世界を救う旅を共にする剣技に優れた魔法剣士だ。

　飄々とした軽い雰囲気のアランだが、きっと彼は剣技では世界でも右に並ぶ者がいない程に強いのだろう。でなければ、魔王を倒す勇者の旅の仲間は、務まらない。

「役得だな。俺も、こんな美人にお世話されたい。ミルドレッドさん、その格好で神殿に居るって事は独身の聖女ですよね？　俺は貴族ではないんですが、一応今代剣聖と呼ばれて、ある程度のお金は持っ……何すんだよ……」

　とても言葉を挟めぬほどの早口の途中で、ロミオに頭を叩かれたアランは不満そうに眉を寄せた。

「……ミルドレッドは、もう売約済だ。一年経ったのに、何も変わってないな。美人と見れば、すぐに声をかけるのも、いい加減にしろ」

　逆にロミオに圧の強い視線で睨まれて、アランは首を竦め残念そうに口を尖らせた。

「あー……残念。そりゃ、そうですよね……それは、仕方ない。ですが、その男と上手くいかない時は、俺はいつでも歓迎す……」

　調子の良い事を言い出したアランは、もう一度さっきより強い力でロミオに頭を叩かれて、言葉を続けるのをやめた。