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17 spirit(Side Romeo)(2)
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ロミオは長い間ずっと見失っていた理性を取り戻し、婚約者だと名乗った無礼で乱暴な男に連れ去られる直前だったミルドレッドを取り戻すことにも、どうにか成功した。
そして、ミルドレッドと何かを話す前に、騒ぎを聞きつけて駆けつけて来た厳しい表情の神殿長により、先ほどまでの出来事の恐怖に怯え震えていた彼女とすぐに引き離されることになってしまった。
早く彼女の元に帰り、これからの事を説明して安心させてあげたいという逸る気持ちを、なんとか落ち着かせ、わざわざロミオと会うためにこれからの予定をすべて変更したと恩着せがましい言葉を並べた玉座に座っている男を淡々とした目で見上げた。
「良く帰ってきてくれた。勇者ロミオよ。素晴らしい……今代勇者は、理性を取り戻したのか」
若い頃にはさぞ女泣かせだったのだろうという整った顔を綻ばせ、面白そうな表情で仰々しい玉座に姿勢良く座っている痩身の男こそ、サウスラーナ国王オミッド・ディーキン。
森の奥深くにある神殿からここ王の住まう城へは、馬車であればどんなに急がせても二週間ほどはかかるだろう。けれど、神殿長の部屋の奥にある転移門を使えば一瞬で移動することが出来た。
勇者であるロミオには遠い場所まで瞬時に移動することの出来る魔法も使えるが、この男に会うためにすぐに使えと言われれば拒否していたはずだ。
魔王を倒した事で、あんな状態になってしまうのなら、勇者など目指さなかっただろう。ミルドレッドとああして神殿で会えたのは、ただの偶然の生んだ奇跡だ。考える時間だけはたっぷりとあったので、ロミオはその事については心の中で整理していたからだ。
神殿長から「聖女ミルドレッドの今後を思うのなら、従え」と、彼女の耳には入らないように言われなければ、絶対に王に会うなどは考えられなかった。
(騙していた張本人が……騙していた事がもう明かされたというのに、特に焦る様子もない。魔王すらも倒すことの出来た勇者の俺ならば、王都を阿鼻叫喚の渦に巻き込む事も可能だと言うのに。なんでこんなに余裕なんだ? 元庶民とは言え……俺が今代勇者だと、先程認めたのは、自分だろうに)
ロミオの心中は、複雑だった。誰だって騙されれば不快なはずで、それは自分だって例外ではない。別に脅すつもりもないが、その上で話したいなどと、随分面の皮が厚いと思ったからだ。
「早速本題に入るが、君に頼みたい事があってね」
「頼みたい事?」
ロミオは、王の都合の良すぎる言葉に不快になり眉を寄せ目を細めた。
今は運良く取り戻すことが出来たとは言え、世界を救ったはずの自分から、一年近く理性を奪った。そして、下手すれば、それはもう一生戻らなかったかもしれないのだ。
ロミオは不機嫌になった表情をもう、隠さなかった。別に不敬罪で罰したければ、そうすれば良いとそうとまで思った。
「そんな顔をしないでくれ。何。君にとっても、そう悪い話ではないはずだ。君の居た神殿には古より、ある役目がある。君のような理性をなくした勇者を隠したり……伝説の魔物エレクゼイドの巣に、毎年毎年供物を捧げていたり」
「……エレクゼイド? それは、子どもに言って聞かせるための、架空の生き物ではないんですか?」
何か怒られるような事をした子どもの躾をする時に「そんな悪い事をしていると、エレクゼイドに頭から食べられるよ!」と、言って聞かせるようなそれだけの存在だとロミオは認識していた。
エレクゼイドに関しては周期的に確実に復活する魔王とは違う。そう言ったものとは、一線を画している伝説上の幻のような存在であると思っていた。
それは、世界を滅ぼすことも出来る力を持つ、巨大な魔物と言い伝えられている。
そして、ミルドレッドと何かを話す前に、騒ぎを聞きつけて駆けつけて来た厳しい表情の神殿長により、先ほどまでの出来事の恐怖に怯え震えていた彼女とすぐに引き離されることになってしまった。
早く彼女の元に帰り、これからの事を説明して安心させてあげたいという逸る気持ちを、なんとか落ち着かせ、わざわざロミオと会うためにこれからの予定をすべて変更したと恩着せがましい言葉を並べた玉座に座っている男を淡々とした目で見上げた。
「良く帰ってきてくれた。勇者ロミオよ。素晴らしい……今代勇者は、理性を取り戻したのか」
若い頃にはさぞ女泣かせだったのだろうという整った顔を綻ばせ、面白そうな表情で仰々しい玉座に姿勢良く座っている痩身の男こそ、サウスラーナ国王オミッド・ディーキン。
森の奥深くにある神殿からここ王の住まう城へは、馬車であればどんなに急がせても二週間ほどはかかるだろう。けれど、神殿長の部屋の奥にある転移門を使えば一瞬で移動することが出来た。
勇者であるロミオには遠い場所まで瞬時に移動することの出来る魔法も使えるが、この男に会うためにすぐに使えと言われれば拒否していたはずだ。
魔王を倒した事で、あんな状態になってしまうのなら、勇者など目指さなかっただろう。ミルドレッドとああして神殿で会えたのは、ただの偶然の生んだ奇跡だ。考える時間だけはたっぷりとあったので、ロミオはその事については心の中で整理していたからだ。
神殿長から「聖女ミルドレッドの今後を思うのなら、従え」と、彼女の耳には入らないように言われなければ、絶対に王に会うなどは考えられなかった。
(騙していた張本人が……騙していた事がもう明かされたというのに、特に焦る様子もない。魔王すらも倒すことの出来た勇者の俺ならば、王都を阿鼻叫喚の渦に巻き込む事も可能だと言うのに。なんでこんなに余裕なんだ? 元庶民とは言え……俺が今代勇者だと、先程認めたのは、自分だろうに)
ロミオの心中は、複雑だった。誰だって騙されれば不快なはずで、それは自分だって例外ではない。別に脅すつもりもないが、その上で話したいなどと、随分面の皮が厚いと思ったからだ。
「早速本題に入るが、君に頼みたい事があってね」
「頼みたい事?」
ロミオは、王の都合の良すぎる言葉に不快になり眉を寄せ目を細めた。
今は運良く取り戻すことが出来たとは言え、世界を救ったはずの自分から、一年近く理性を奪った。そして、下手すれば、それはもう一生戻らなかったかもしれないのだ。
ロミオは不機嫌になった表情をもう、隠さなかった。別に不敬罪で罰したければ、そうすれば良いとそうとまで思った。
「そんな顔をしないでくれ。何。君にとっても、そう悪い話ではないはずだ。君の居た神殿には古より、ある役目がある。君のような理性をなくした勇者を隠したり……伝説の魔物エレクゼイドの巣に、毎年毎年供物を捧げていたり」
「……エレクゼイド? それは、子どもに言って聞かせるための、架空の生き物ではないんですか?」
何か怒られるような事をした子どもの躾をする時に「そんな悪い事をしていると、エレクゼイドに頭から食べられるよ!」と、言って聞かせるようなそれだけの存在だとロミオは認識していた。
エレクゼイドに関しては周期的に確実に復活する魔王とは違う。そう言ったものとは、一線を画している伝説上の幻のような存在であると思っていた。
それは、世界を滅ぼすことも出来る力を持つ、巨大な魔物と言い伝えられている。
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