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第一部
慰める
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「透子、これ美味しいよ」
そう言いながらこの別荘の管理人さん(私は姿を見た事がないんだけど)が作ってくれた夕飯の中の春巻きをお皿に取ってくれる。
「春くんありがとう」
私が微笑みながらお礼をいうと春くんは満足そうに頷いた。テキパキと食べた物を片付けつつ柄が可愛い赤のセーターを腕まくりして私に食べ物を取ってくれる。凛太さんは私が話しかけたら喋るけれど、いつもクッションをしてくれている役の雄吾さんがいないせいか居心地は悪そうだ。
デザートを食べ終えてお茶を飲んでいる時に意を決して切り出した。
「ね、春くん」
「何? 透子」
「どうして春くんは凛太さんにそんなに態度が悪いの? 前に仲良くして欲しいって言ったと思う……相性があるのはもちろんわかっているけど、努力はして欲しい」
いい加減この妙な雰囲気に限界に来ていた私ははっきり言った。理由もわからない事で我慢するのはあんまり好きじゃない。
「……透子」
途方に暮れたように耳をシュンとさせる可愛い春くんに若干絆されそうになった私は心を鬼にして言った。
「凛太さんに喧嘩吹っかけるのは、もうやめて欲しい。年齢は一番若いけれど私の夫の一人なんだからきちんとして欲しい」
春くんは口を尖らせて席を立った。
「ごめん……俺、先に部屋に戻ってる」
「春くんっ……」
私が呼びかけたのにも関わらず春くんは行ってしまう。残された二人はすこしの間沈黙して、凛太さんが言った。
「透子さん、すみません。その、春が突っかかってくるのは僕も悪いんです」
「凛太さん?」
「多分、紅蓮の里での事だと思います……春の問題ですし、僕はこれ以上は言えません。透子さんに怒られたくないので」
ちょっと笑って私を見ると凛太さんは肩を竦めた。
「凛太さん……でも私……」
「行って来てください。僕の順番は……明日なので、明日ゆっくり話しましょう」
私はそれに頷いてから、一度扉の方に向かったんだけど、思い直して凛太さんの隣に立った。凛太さんは端正な顔を不思議そうにすると首を傾げる。
「凛太さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
私はそっと頬にキスをした。その後の顔は見ずに逃げるように扉に向かった。
トントン、と大きな扉を叩く。
「春くん、透子です。開けて」
数秒待ったら春くんが扉を開けてくれた。やっぱりなんだか納得行かない顔をしてむくれているみたいだ。その顔を見上げながら頬を両手で包んだ。
「透子……」
「わかってるよ。春くんが理由もなくそんな事する人じゃないってちゃんとわかっている……私には話せない?」
私を悲しそうに見下ろしてからううん、と首を振った。
「……とにかく入って、ここで話したくない」
その言葉に頷いて部屋に入ると春くんはベッドに座って隣をポンポンと叩いた。素直にその横に腰掛ける。
「……透子、この前に俺が紅蓮の里を居づらくなったのは言ったよね?」
私は春くんの両手に手を乗せながら頷いた。じっと大きな栗色の目が私を見つめている。
「紅蓮の里の社交の場で俺のことをやたらと攻撃して来た奴が居てさ……そいつと凛太は仲良かったんだ。俺もわざわざ攻撃してくる奴のこといちいち覚える程暇じゃないけどさ、あいつと会った時、思い出した……凛太は俺に直接は何も言ってはないけど、そいつと一緒に居たから……思い出すんだ。思い出したくないくらい酷いことも言われたからね」
「春くん」
私はその両手をぎゅっと握った。すこしでも苦しみを小さく出来たら良いのに。
「春くん、ごめんね。事情もわからずに頭ごなしに言い過ぎた……凛太さんにも事情聞いてみるから」
「透子、透子」
じっと私の目を見て、そして顔を近づけてキスを落とした。あやすように触れるキス。きっと言いたかったけど、言えなかったことなんだろうな。
「春くん。大丈夫だよ。不安にならないで。春くんも凛太さんも私の夫で大事で大好きな人なの。出来たらもっと早く事情を聞きたかったけど、そんなことで関係が壊れたりしないよ」
「……俺、傷ついたよ。透子」
「ごめんね」
「うん。じゃあ、今日はいっぱいなぐさめてくれる?」
そう言うと大きな目を細めてにっと笑った。
そう言いながらこの別荘の管理人さん(私は姿を見た事がないんだけど)が作ってくれた夕飯の中の春巻きをお皿に取ってくれる。
「春くんありがとう」
私が微笑みながらお礼をいうと春くんは満足そうに頷いた。テキパキと食べた物を片付けつつ柄が可愛い赤のセーターを腕まくりして私に食べ物を取ってくれる。凛太さんは私が話しかけたら喋るけれど、いつもクッションをしてくれている役の雄吾さんがいないせいか居心地は悪そうだ。
デザートを食べ終えてお茶を飲んでいる時に意を決して切り出した。
「ね、春くん」
「何? 透子」
「どうして春くんは凛太さんにそんなに態度が悪いの? 前に仲良くして欲しいって言ったと思う……相性があるのはもちろんわかっているけど、努力はして欲しい」
いい加減この妙な雰囲気に限界に来ていた私ははっきり言った。理由もわからない事で我慢するのはあんまり好きじゃない。
「……透子」
途方に暮れたように耳をシュンとさせる可愛い春くんに若干絆されそうになった私は心を鬼にして言った。
「凛太さんに喧嘩吹っかけるのは、もうやめて欲しい。年齢は一番若いけれど私の夫の一人なんだからきちんとして欲しい」
春くんは口を尖らせて席を立った。
「ごめん……俺、先に部屋に戻ってる」
「春くんっ……」
私が呼びかけたのにも関わらず春くんは行ってしまう。残された二人はすこしの間沈黙して、凛太さんが言った。
「透子さん、すみません。その、春が突っかかってくるのは僕も悪いんです」
「凛太さん?」
「多分、紅蓮の里での事だと思います……春の問題ですし、僕はこれ以上は言えません。透子さんに怒られたくないので」
ちょっと笑って私を見ると凛太さんは肩を竦めた。
「凛太さん……でも私……」
「行って来てください。僕の順番は……明日なので、明日ゆっくり話しましょう」
私はそれに頷いてから、一度扉の方に向かったんだけど、思い直して凛太さんの隣に立った。凛太さんは端正な顔を不思議そうにすると首を傾げる。
「凛太さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
私はそっと頬にキスをした。その後の顔は見ずに逃げるように扉に向かった。
トントン、と大きな扉を叩く。
「春くん、透子です。開けて」
数秒待ったら春くんが扉を開けてくれた。やっぱりなんだか納得行かない顔をしてむくれているみたいだ。その顔を見上げながら頬を両手で包んだ。
「透子……」
「わかってるよ。春くんが理由もなくそんな事する人じゃないってちゃんとわかっている……私には話せない?」
私を悲しそうに見下ろしてからううん、と首を振った。
「……とにかく入って、ここで話したくない」
その言葉に頷いて部屋に入ると春くんはベッドに座って隣をポンポンと叩いた。素直にその横に腰掛ける。
「……透子、この前に俺が紅蓮の里を居づらくなったのは言ったよね?」
私は春くんの両手に手を乗せながら頷いた。じっと大きな栗色の目が私を見つめている。
「紅蓮の里の社交の場で俺のことをやたらと攻撃して来た奴が居てさ……そいつと凛太は仲良かったんだ。俺もわざわざ攻撃してくる奴のこといちいち覚える程暇じゃないけどさ、あいつと会った時、思い出した……凛太は俺に直接は何も言ってはないけど、そいつと一緒に居たから……思い出すんだ。思い出したくないくらい酷いことも言われたからね」
「春くん」
私はその両手をぎゅっと握った。すこしでも苦しみを小さく出来たら良いのに。
「春くん、ごめんね。事情もわからずに頭ごなしに言い過ぎた……凛太さんにも事情聞いてみるから」
「透子、透子」
じっと私の目を見て、そして顔を近づけてキスを落とした。あやすように触れるキス。きっと言いたかったけど、言えなかったことなんだろうな。
「春くん。大丈夫だよ。不安にならないで。春くんも凛太さんも私の夫で大事で大好きな人なの。出来たらもっと早く事情を聞きたかったけど、そんなことで関係が壊れたりしないよ」
「……俺、傷ついたよ。透子」
「ごめんね」
「うん。じゃあ、今日はいっぱいなぐさめてくれる?」
そう言うと大きな目を細めてにっと笑った。
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