111 / 151
第一部
先回り
しおりを挟む
「はい、そこいちゃいちゃしない」
ノートパソコンのディスプレイの数字やグラフの意味なんかを一つ一つ説明してもらっていたところに、ひらひらと手を振りながら子竜さんが現れた。
「子竜さん」
「すまない、管理人に言ったのが急だったせいか、今日は十分な料理は出来てないんだ。どこかに夕食を食べに行こうか」
すまなさそうに、頭を下げると私達に向かってウインクした。
「せっかくだし、黄花の里名物のものを食べに行こう」
私はそっと立ち上がって、玄関へと向かった。かけてあったコートを渡され、夕食を食べるにしても、そんなに長時間ではないだろうと思ったので、部屋にいつも持っているバッグは取りに行くのはやめた。
黄花の里は深青の里に比べて、道が広くて建物が低くて空が広い印象だ。それでも車が行き交う量は多くて、そこをするすると何気なく運転する雄吾さんの運転技術に感心してしまう。
「透子、やっぱり見える景色が違う?」
「えっと……車が多くて建物が低いかなって思いました」
「黄花の里は自動車産業で有名だからな。深青の里ほど人口が密集していないから、建物も全体的に低いし、道路も広いな」
連れて行ってもらったひつまぶしのお店は本当に美味しくて、最後のお茶漬けも残さず完食してしまった。お腹いっぱいで苦しいくらい。二人は涼しい顔をして大きめのお重を完食していたけど。
「透子ちゃん?」
会計に行こうかなとお茶を飲みながら、まったりしていた私達に声がかけられた。
「……千里ちゃん? えっと、お久しぶりです」
すごく、運命的な再会とも言えるのかもしれない。長い髪の毛をアップにしている千里ちゃんは大きな目を瞬かせて私を見つめている。近くには背の高い、いかにも出来るサラリーマンといった立ち姿の男性と一緒にこちらを注目している。なんとも言い難い偶然の再会だ。
「会えてすごく、嬉しい。いつから遊びに来ていたの? なんで言ってくれなかったの?」
「あの……今日の朝行くことに決まったので、連絡する暇がなくて……」
私は目の前に居る子竜さんの目がちょっと剣呑な光が点ったのを感じて冷や冷やとしてしまう。きっとプールで言ったことを思い出しているんだと思った。
「ぜひ、お家に遊びにきてほしいわ。ねえ、悠介」
「ああ、もし良かったらこちらの巣に滞在中に遊びに来てくれ。……何人でも、宿泊してくれても構わない」
一人事情のわかっていない雄吾さんは私と子竜さんの雰囲気に驚きつつも、社交的な返事を返した。
「お招きありがとうございます。また、ご連絡してから伺います」
悠介と呼ばれた人は腕時計を見てから、千里ちゃんに合図をした。
「透子さん、絶対よ。……絶対に遊びにきてね」
私はその言葉にぎこちなく笑いながら頷いた。目の前に座る子竜さんは赤い目をスッと細めた。
「……透子ちゃん」
「子竜さん……」
行きは運転席の雄吾さんの隣だったから、帰りは後部座席の子竜さんの隣に座った。子竜さんは何かを言いたげだ。
「……何かあったのか?」
雄吾さんはバックミラーを見ながら、低い声で私と子竜さんに語りかけた。
「あのっ……雄吾さんにも言うつもりだったんですけど、実は今日、子竜さんに打ち明けたことがあって……」
慌てて話し出そうとした私に雄吾さんは苦笑すると、また優しく言った。
「……透子、焦らなくて良い。俺達も順番がどうなんて気にしていたらそもそも、結婚出来てないからな」
その言葉に私は胸に手を当てて、ふうっと息をついた。
「あの、この前に千里ちゃんに会った時に……手紙を貰ったんです。それには元の世界に帰る方法があるって……それで、私、さっき会った時動揺してしまって……」
「……なるほどな……それで二人とも様子がおかしかったのか……その方法は透子は知っているのか?」
「いいえ、もし興味があるなら、黄花の里に来るように、と……」
「……その方法が何かはわからないが、聞いておこう」
「雄吾?」
黙って聞いていた子竜さんが身を乗り出した。
「……良いか、透子がこのまま、聞かなかったとしよう。だが、偶然その手順を故意ではなく実行してしまったらどうする? 俺達は取り残され、透子は一人帰ってしまう。なんでも情報は多いに越したことはない。敵に勝つにはまず知ることから、だ」
子竜さんは仏頂面をして、後部座席に背中をぶつけた。
「雄吾お得意の石橋は出来るだけ叩いて渡る方法か……俺は透子ちゃんを出来るだけ、あの女に近づけたくないが」
「俺は不安要素は全部潰す。透子が関わっている場合は特にな」
ノートパソコンのディスプレイの数字やグラフの意味なんかを一つ一つ説明してもらっていたところに、ひらひらと手を振りながら子竜さんが現れた。
「子竜さん」
「すまない、管理人に言ったのが急だったせいか、今日は十分な料理は出来てないんだ。どこかに夕食を食べに行こうか」
すまなさそうに、頭を下げると私達に向かってウインクした。
「せっかくだし、黄花の里名物のものを食べに行こう」
私はそっと立ち上がって、玄関へと向かった。かけてあったコートを渡され、夕食を食べるにしても、そんなに長時間ではないだろうと思ったので、部屋にいつも持っているバッグは取りに行くのはやめた。
黄花の里は深青の里に比べて、道が広くて建物が低くて空が広い印象だ。それでも車が行き交う量は多くて、そこをするすると何気なく運転する雄吾さんの運転技術に感心してしまう。
「透子、やっぱり見える景色が違う?」
「えっと……車が多くて建物が低いかなって思いました」
「黄花の里は自動車産業で有名だからな。深青の里ほど人口が密集していないから、建物も全体的に低いし、道路も広いな」
連れて行ってもらったひつまぶしのお店は本当に美味しくて、最後のお茶漬けも残さず完食してしまった。お腹いっぱいで苦しいくらい。二人は涼しい顔をして大きめのお重を完食していたけど。
「透子ちゃん?」
会計に行こうかなとお茶を飲みながら、まったりしていた私達に声がかけられた。
「……千里ちゃん? えっと、お久しぶりです」
すごく、運命的な再会とも言えるのかもしれない。長い髪の毛をアップにしている千里ちゃんは大きな目を瞬かせて私を見つめている。近くには背の高い、いかにも出来るサラリーマンといった立ち姿の男性と一緒にこちらを注目している。なんとも言い難い偶然の再会だ。
「会えてすごく、嬉しい。いつから遊びに来ていたの? なんで言ってくれなかったの?」
「あの……今日の朝行くことに決まったので、連絡する暇がなくて……」
私は目の前に居る子竜さんの目がちょっと剣呑な光が点ったのを感じて冷や冷やとしてしまう。きっとプールで言ったことを思い出しているんだと思った。
「ぜひ、お家に遊びにきてほしいわ。ねえ、悠介」
「ああ、もし良かったらこちらの巣に滞在中に遊びに来てくれ。……何人でも、宿泊してくれても構わない」
一人事情のわかっていない雄吾さんは私と子竜さんの雰囲気に驚きつつも、社交的な返事を返した。
「お招きありがとうございます。また、ご連絡してから伺います」
悠介と呼ばれた人は腕時計を見てから、千里ちゃんに合図をした。
「透子さん、絶対よ。……絶対に遊びにきてね」
私はその言葉にぎこちなく笑いながら頷いた。目の前に座る子竜さんは赤い目をスッと細めた。
「……透子ちゃん」
「子竜さん……」
行きは運転席の雄吾さんの隣だったから、帰りは後部座席の子竜さんの隣に座った。子竜さんは何かを言いたげだ。
「……何かあったのか?」
雄吾さんはバックミラーを見ながら、低い声で私と子竜さんに語りかけた。
「あのっ……雄吾さんにも言うつもりだったんですけど、実は今日、子竜さんに打ち明けたことがあって……」
慌てて話し出そうとした私に雄吾さんは苦笑すると、また優しく言った。
「……透子、焦らなくて良い。俺達も順番がどうなんて気にしていたらそもそも、結婚出来てないからな」
その言葉に私は胸に手を当てて、ふうっと息をついた。
「あの、この前に千里ちゃんに会った時に……手紙を貰ったんです。それには元の世界に帰る方法があるって……それで、私、さっき会った時動揺してしまって……」
「……なるほどな……それで二人とも様子がおかしかったのか……その方法は透子は知っているのか?」
「いいえ、もし興味があるなら、黄花の里に来るように、と……」
「……その方法が何かはわからないが、聞いておこう」
「雄吾?」
黙って聞いていた子竜さんが身を乗り出した。
「……良いか、透子がこのまま、聞かなかったとしよう。だが、偶然その手順を故意ではなく実行してしまったらどうする? 俺達は取り残され、透子は一人帰ってしまう。なんでも情報は多いに越したことはない。敵に勝つにはまず知ることから、だ」
子竜さんは仏頂面をして、後部座席に背中をぶつけた。
「雄吾お得意の石橋は出来るだけ叩いて渡る方法か……俺は透子ちゃんを出来るだけ、あの女に近づけたくないが」
「俺は不安要素は全部潰す。透子が関わっている場合は特にな」
38
お気に入りに追加
1,894
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる