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第一部
砂浜
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砂浜の砂はさらっとしてて、素足で歩く度に足が埋まってしまう。キシっとした硬質な音がしてなんだか不思議な感覚がする。
私は左手に靴を持って、右手は子竜さんと繋いでいた。
寒くなり始めたこの季節の砂浜に人は少ない。まるで砂の惑星に二人きり、みたいな妄想まで湧いてくる。ここは別の世界だけど、あまりに私が元いた世界に似すぎていて、すぐに、そう一瞬で帰れそうな気もするのだ。来た時と同じような刹那の間に。
「……透子ちゃん?」
私はハッとして横を歩いていた子竜さんを見た。心配そうな顔をしてなんだか戸惑っているみたいだ。
「あ、えっとすみません。綺麗な風景を見てるとなんだか色々浮かんで来て」
その綺麗な赤い目、とても美しい宝石みたいな目。元の世界にの身近にはなかったものだ。そう、ここは人間ではなく人狼の世界。
私がこれから生きていく世界。
「そ? まぁそういう時もあるか。透子ちゃんに泳ぎたい? って聞いたんだよ。ここは流石に寒いけどこの前のホテルの温水プールなら近いし」
「泳ぎたいです!」
「即答か。勢い良くて良いねえ」
ふっと笑うとえくぼが出てる。子竜さんはなんだか、万能の魔法使いみたいだ。私のしたいなと思ったことを全部先回りして読んでくるの。
「先に昼飯を食べよう。透子ちゃんの好きそうな店を予約してあるよ」
「どんなお店ですか?」
「パンケーキ専門店。女の子は好きだろ? 泳ぐから甘い物でカロリーも取らないとな」
「……春くんから聞きました?」
私が好んで食べるものを知っている子竜さん。夫になってから、そもそものプロポーズを受けてからいくらかも経っていないのに、なんでこんなに色々知ってるの?
「情報源は明かさない主義なんだ。なんでも、謎がないと面白くないだろう?」
にやっとした悪い笑顔がすごく魅力的に見えるんだから、私も相当重症なのかな。
砂浜から上がって靴を履こうとパタパタと手ではたいている時に、子竜さんからウェットティッシュを渡された。
思わずそれをじっと見てしまう。気が利くにも程がない?
「何か?」
「ん、子竜さんって、女性と付き合ったことあります?」
「……ないとは言わない。何、透子ちゃんは人の手垢のついたものには興味無い?」
「そんなこと!絶対にないです。 ただ、そうなのかなぁって思っただけです」
さっと差し出されたウェットティッシュを受け取って足を拭きつつ答える。
「……女性に絶望するには、一度付き合ってみないとね、どうしても知らないと、希望を持ってしまう。もしかしてってね」
「絶望するために付き合ったんですか?」
靴を履き終えた私の手を取って砂浜からの階段を上がり出す。
「良いや? 絶望するために希望を持つなら、最初から希望なんか要らないよな」
まだ高い日の逆光の中、子竜さんはなんとも言えない表情だった。
「楽しい?」
「楽しいです!」
今回はプライベートプールじゃなくて大きな屋内プールだ。
とはいえ、私のように泳ぐのが目的っていう人は少なくて飲み物を持ってデッキチェアに寝そべっている人が多い。
この前用意してもらった水着は布地少なめのビキニだったけど、今回はパレオもついているワンピース型の水着だ。
私の本気の泳ぎにも、なんでもない顔をして着いてくる子竜さんは優しい目をして私を見つめていた。
「泳ぐの好きなんだね」
「そうですね、昔、水泳部だったので」
「水泳部? 競泳選手だったってこと?」
「ふふっ、そんなに本格的じゃないですよ、中学の頃、すこしだけ在籍してただけです」
「ふーん、海が好きなのもそういう理由?」
ぱちゃっと私の顔に水をかけると、悪戯っぽい表情を浮かべた。
「海が好きなのは……おばあちゃんを思い出すからかな」
「おばあちゃん?」
「そう、海の近くに住んでて、小さな頃すごく大事にしてもらったから、見る度に思い出すんです」
子竜さんはそれ以上その話には踏み込んで来なかった。
ただ、愛おしそうに私を見つめただけ。
私は左手に靴を持って、右手は子竜さんと繋いでいた。
寒くなり始めたこの季節の砂浜に人は少ない。まるで砂の惑星に二人きり、みたいな妄想まで湧いてくる。ここは別の世界だけど、あまりに私が元いた世界に似すぎていて、すぐに、そう一瞬で帰れそうな気もするのだ。来た時と同じような刹那の間に。
「……透子ちゃん?」
私はハッとして横を歩いていた子竜さんを見た。心配そうな顔をしてなんだか戸惑っているみたいだ。
「あ、えっとすみません。綺麗な風景を見てるとなんだか色々浮かんで来て」
その綺麗な赤い目、とても美しい宝石みたいな目。元の世界にの身近にはなかったものだ。そう、ここは人間ではなく人狼の世界。
私がこれから生きていく世界。
「そ? まぁそういう時もあるか。透子ちゃんに泳ぎたい? って聞いたんだよ。ここは流石に寒いけどこの前のホテルの温水プールなら近いし」
「泳ぎたいです!」
「即答か。勢い良くて良いねえ」
ふっと笑うとえくぼが出てる。子竜さんはなんだか、万能の魔法使いみたいだ。私のしたいなと思ったことを全部先回りして読んでくるの。
「先に昼飯を食べよう。透子ちゃんの好きそうな店を予約してあるよ」
「どんなお店ですか?」
「パンケーキ専門店。女の子は好きだろ? 泳ぐから甘い物でカロリーも取らないとな」
「……春くんから聞きました?」
私が好んで食べるものを知っている子竜さん。夫になってから、そもそものプロポーズを受けてからいくらかも経っていないのに、なんでこんなに色々知ってるの?
「情報源は明かさない主義なんだ。なんでも、謎がないと面白くないだろう?」
にやっとした悪い笑顔がすごく魅力的に見えるんだから、私も相当重症なのかな。
砂浜から上がって靴を履こうとパタパタと手ではたいている時に、子竜さんからウェットティッシュを渡された。
思わずそれをじっと見てしまう。気が利くにも程がない?
「何か?」
「ん、子竜さんって、女性と付き合ったことあります?」
「……ないとは言わない。何、透子ちゃんは人の手垢のついたものには興味無い?」
「そんなこと!絶対にないです。 ただ、そうなのかなぁって思っただけです」
さっと差し出されたウェットティッシュを受け取って足を拭きつつ答える。
「……女性に絶望するには、一度付き合ってみないとね、どうしても知らないと、希望を持ってしまう。もしかしてってね」
「絶望するために付き合ったんですか?」
靴を履き終えた私の手を取って砂浜からの階段を上がり出す。
「良いや? 絶望するために希望を持つなら、最初から希望なんか要らないよな」
まだ高い日の逆光の中、子竜さんはなんとも言えない表情だった。
「楽しい?」
「楽しいです!」
今回はプライベートプールじゃなくて大きな屋内プールだ。
とはいえ、私のように泳ぐのが目的っていう人は少なくて飲み物を持ってデッキチェアに寝そべっている人が多い。
この前用意してもらった水着は布地少なめのビキニだったけど、今回はパレオもついているワンピース型の水着だ。
私の本気の泳ぎにも、なんでもない顔をして着いてくる子竜さんは優しい目をして私を見つめていた。
「泳ぐの好きなんだね」
「そうですね、昔、水泳部だったので」
「水泳部? 競泳選手だったってこと?」
「ふふっ、そんなに本格的じゃないですよ、中学の頃、すこしだけ在籍してただけです」
「ふーん、海が好きなのもそういう理由?」
ぱちゃっと私の顔に水をかけると、悪戯っぽい表情を浮かべた。
「海が好きなのは……おばあちゃんを思い出すからかな」
「おばあちゃん?」
「そう、海の近くに住んでて、小さな頃すごく大事にしてもらったから、見る度に思い出すんです」
子竜さんはそれ以上その話には踏み込んで来なかった。
ただ、愛おしそうに私を見つめただけ。
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