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第一部

渇望

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 その乙女チックな夢から醒めた後、横に寝ていた理人さんの美しい寝顔をじっと見た。
 雄吾さんや春くんと一緒にいない朝は理人さんは必ず一緒に居て、それは多忙のために昼間は一緒に居られない理人さんなりに私と過ごしたいと、そう思っていてくれているんだと思う。

 三人の夫を持つ時私は必要に迫られたこともあり、衝動的に彼らを選んだけれど、それは私から望んだのだ。たくさんの、それこそ数えきれない程の選択肢を提示された中で、私は選んだんだ。だから、次の夫を選ぶにしても他の誰でもない、私自身が決めなきゃいけない。だけど、もう既に居る三人の夫が私には今一番大事なものであり、彼らの意見を聞くことももちろん大事なことだ。

「ん、透子さん……?」
 気怠げに開いた透明のグレーの綺麗な目が私を映す。
「ふふっ、おはようございます。昨日も遅かったんですね」
 私は間近で微笑んで、彼の頬に触れた。
「いや、昨日は零時は超えていませんでしたよ」
 理人さんってワーカーホリックなのかな。ちょっと呆れながらちいさなため息をつく。

「夢の中で久祈さんに会いました」
 理人さんは綺麗な顔の眉を寄せる。そんな顔しても起き抜けでも顔が綺麗なのって本当に羨ましいよね。
「兄に? 何かありましたか?」
 心配そうな顔に私はちょっと微笑で安心させるように、ちゅっと頬にキスをした。

「いえ。何も……でも相談には乗ってもらいました」
「相談?」
「ええ、私が……その夫を増やすことについて。その決断の後押しを……今日って理人さん、お仕事は?」
「今日は休暇ですよ……それでは全員を集めましょうか? それは僕に先に教えてもらうことは出来ますか?」
「それは皆と一緒に聞いてもらいます。誰かを贔屓はしないって決めたので」
 珍しく、拗ねたように口を尖らせると、理人さんは枕に顔を埋めた。

「気になります」
 ちょっとだけ顔を上げた理人さんはじっと私を見つめた。そんな子供っぽい仕草がやけに可愛くて、私はその形の良い鼻をピンと弾いた。
「誘惑しないでください。いけないことしたくなっちゃうから」
 ちょっと驚いたように理人さんは目を見開くとさっきまでの様子が嘘のように目を細めて笑った。
「そうだな……そうしたら、朝からいけないことしましょうか。凛太や子竜が来るならよーく匂いつけをしておきましょう」
 私は思いも寄らない話の展開にちょっと後ずさった。
「……え? そういう意味じゃ……きゃっ」
 一気に右手を引かれて、私は毛布の中に引き込まれた。



「……で、このメンバーが集められたってことは、透子ちゃんからの返事を聞けるってことで良いのかな?」
 子竜さんはリビングの大きな黒色のソファに座って長い足を組みながら話を切り出した。凛太さんはその隣に座って神妙な顔で頷いた。私たち四人は対面にあたる場所に座っている。
「はい。今日は来ていただいてありがとうございます。凛太さん、子竜さん」
 ふーっと息を整えていきなりの呼び出しに応えて来てくれた二人に順番に目を合わせてにこっと笑った。

「私、よく考えた上で、お二人のプロポーズをお受けします……でも、もうこれ以上夫は増やしません。五人だけを愛します、これがこの世界で私にできる精一杯の気持ちです。これからもずっと、ずっと一緒にいたいから。その代わり一人一人を何よりも大事にすることを誓います。だから不満や不安があったらすぐに言って欲しいです。それと出来たら……だけど、皆仲良くしてくれたら……嬉しいです。これからよろしくお願いします」
 私は立ち上がって頭を下げた。

 ふっと息を吐く音がして、私はびっくりして頭を上げる。
 凛太さんがぽろぽろ涙を溢して泣いていたから。
「……ありがとうございます。ずっと、ずっと不安でした。今日も断られると思っていたので……すみません」
 隣の子竜さんはすこし苦笑しながらハンカチを渡す。
「おいおい、泣く子も黙るスター様がえらく泣き虫だな。透子ちゃん、プロポーズを受けてくれてありがとう。命をかけて君を守ると誓おう」

「まさか子竜と同じ妻を持つことになるとはな……」
 雄吾さんははーっと息を吐いた。
「おいおい、そう言うな。お前の若い頃の恥ずかしい話は出来るだけ墓に持っていくよ。仲良くしろって言われてるしな」
「子竜、俺には? 俺には教えてよ! 雄吾の恥ずかしい過去知りたい」
「お前は黙れ、春」
「え~、良いじゃん。透子には教えられなくても、俺にはおしえてほしー!」
 雄吾さんと春くんがじゃれて言い合っている間に理人さんは私にそっと微笑みながら耳元で言った。

「……ありがとうございます。ずっと貴方を愛します。僕の最愛」
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